2-60 食堂
-1-
狩ったジャイアントリザードを魔法のウェストポーチXL(1)に収納する。腰に付けた小さなウェスポーチに3メートルもある巨大な蜥蜴が吸い込まれて収納されるのは、かなり不思議な光景である。なんで、こんな小さな口にあんな大きな物がって思っちゃうよなぁ。
俺はそれから3匹ほどジャイアントリザードを狩猟した。
ジャイアントリザードはこちらから攻撃を仕掛けない限りは水晶の上で寝ているように動かないため、距離を取って弓で攻撃、近づかれたら風槍レッドアイで貫くを繰り返すことで周りに邪魔されず普通に1VS1の状況に持ち込むことが可能だった。近くに2匹や3匹居る線が見える状況では戦わない。これを守れば普通に勝てる相手なのだ。だが、油断は出来ない。動作が機敏な、このジャイアントリザードに囲まれるような状況になってしまったら……今の俺の力量では、無傷で勝利するのは難しそうだった。
現在、魔法のウェストポーチXL(1)には総計4体のジャイアントリザードの死骸が詰まっている。倒した死骸の状態は全て違うのだが、1種類扱いになるようだった。うん、これは便利だ。大型が入るってのは良いよなぁ。
4体目を倒した時点で時間は4時を回っている。うん、帰るか。今日は晩ご飯を食堂で食べる予定だしな。それに夜目の効かない俺には夜間の戦闘も危険だしね。
――<転移>――
転移を使いスイロウの里近くに到着っと。ホント、転移は便利です。これで2カ所の移動先登録が出来れば、もっともっと使い道が広がるんだけどなぁ。とと、まずは冒険者ギルドに行かないと。
俺はそのまま冒険者ギルドへ。
「虫、帰ってきた」
おうさ、帰ってきたよ。
『クエストの完了をしたいのだが、ここでジャイアントリザードを出しても良いのだろうか?』
何せ、サイズがサイズだからな。こんなでかい物を冒険者ギルドで取り出して良い物やら……。
「ジャイアントリザード……分かった。ステータスプレートを出す」
俺はとりあえずちびっ娘にステータスプレート(銅)を渡す。
ちびっ娘が受け取った俺のステータスプレート(銅)に手をかざしている。
「確認した。後は換金所でこれを見せる」
ちびっ娘がカウンター下からいつものように札を取り出す。俺はその完了札を受け取り冒険者ギルドを後にする。
さあ、換金所に行きますか。
『クエストの完了札を持ってきたのだが』
換金所に入り、いつものお姉さんに声を掛ける。
「あ、はい。お預かりします」
森人族のお姉さんに完了札を渡す。この時間だと妹さんの方だね。換金所のお姉さんとも知り合ってそれなりだし、名前くらいは知りたいよね。しかし、うーん、鑑定を使うのはなぁ。何というか相手を鑑定するのって失礼な気がするんだよなぁ、特に知っている相手だとね。魔力を持っている人だと鑑定を使ったのがばれそうだし……それも怖いよなぁ。素直に名前を聞くのが一番なんだろうけど、そういうのって苦手なんだよなぁ。伊達に彼女居ない暦=年齢をやってなかったんだぜ……言ってて哀しくなるな。
「ちなみにジャイアントリザードの素材はどちらにありますか?」
おれは魔法のウェストポーチXL(1)を指差す。まぁ、指差すと言っても親指のようなモノしか無いような手だから『手を差す』とかが正解か。
「魔法のポーチですか……一応確認しますけれど一体ですか?」
『うむ、4体だ』
その言葉にお姉さんが驚く。
「4体ですか、多いですね。で、では、奥にご案内しますね」
奥の部屋にはゴンザレスさんが待っていた。
「ゴンザレスさん、ランさんがジャイアントリザードを4体です」
お姉さんが声を掛ける。渡した後、すぐに解体になるのかな。
俺はテーブルの上にジャイアントリザードの死体をのせていく。1メートル級と2メートル級が1体ずつに3メートル級が2体、幾ら解体場が広いと言ってもこれだけのサイズが4体も並ぶと結構狭く感じてしまう。
「いやあ、これは凄いなぁ」
ゴンザレスさんも驚いている。
はい、では換金をお願いします。
クエスト報酬:40960円(小金貨1枚)
ジャイアントリザード:
2体×40960円(小金貨1枚)=81920円(小金貨2枚)
ジャイアントリザード小:30720円(銀貨6枚)
ジャイアントリザードの魔石:10240円(銀貨2枚)
獲得GP:+40(総計870)
合計:163840円(小金貨4枚)
うまうま。魔石の換金額は予想していたとおり銀貨2枚だったな。これでMSPの獲得量と換金額の関連は間違いなく確定だろう。一応、今回も試したけど、さすがに次は調べる必要はないな。……と言いつつも俺のことだから、また同じように試しそうだけど。
再確認として、MSP1が640円(銅貨1枚)、MSP2が2560円(銅貨4枚)、MSP3が10240円(銀貨2枚)、MSP4が40960円(小金貨1枚)って感じだな。
よし、今日の換金で懐もかなり暖かくなったぞ。食堂でかなり豪華な物を食べよう。奮発しよう。とりあえず買う物は鉄の矢くらいだし、お大尽しても大丈夫さー。
楽しみ楽しみ。
―2―
うろ覚えのまま通りを歩き食堂へ。日が落ちてきた夕闇の中を歩く。
見えてくる食堂。
食堂には魔法の灯りが灯っており、非常に明るい。俺はその灯りに誘蛾灯のように吸い寄せられる。うん、お腹空いた。
店内に入ると冒険者姿の者達がジョッキを片手に肩を組んで上機嫌に歌を歌ってたり、森人族の人たちが静かに料理を食べていたりしていた。うん、冒険者の荒くれ具合と森人族の静かさの対比が凄いな。線引きしたように別世界だ。
「いらっしゃいませー。と、噂の星獣様ですなー。まだ宵の口、席は一杯空いています。お好きな席へどうぞ」
奥のカウンターからバーのマスターのような人が声を掛けてくる。
『うむ、かたじけない』
俺は上体を起こし2本足で人のようにのしのしと歩き、カウンター席へ。ぐにゃあ、と内側に丸まるように席に座る。
『こちらへは初めて来たのだが、注文はどのようにすれば?』
マスター? がメニューを持ってきてくれる。木片に本日のメニューが書かれていた。
本日のメニュー(夜間)
豆:40円(潰銭5枚)
グリーンヴァイパーの包み焼き:640円(銅貨1枚)
ジャイアントリザードの塩焼き:1920円(銅貨3枚)
ジャイアントリザードの小麦粉焼き:3840円(銅貨6枚)
タケノコ漬け:320円(潰銭40枚)
蜂の子:1280円(銅貨2枚)
うお、小麦粉って文字が見えるぞ。というか塩焼きって……塩あったのかよ。しかも金額的にそこまで高価じゃないのか?
夜だからか今回、見せて貰ったメニューがおつまみ的な料理ばかりの気がする。なんというか、もっとディナー的な豪華なのがあるんじゃねと思って夜にしたんだけど失敗だったか……。
「お客さん、お酒は飲まれますか?」
お酒かー。この世界のお酒には苦い思い出が……。
「お酒ならハチミツ酒、お酒が飲めない方ならミルクもありますよ」
ミルク!? ミルクもあるの? なんだろう、これ。この異世界の食事水準を宿の食事を基本にして考えていたんだけど、思っていたよりも水準が高い気がする。宿の食事に騙されていた気がするんですぜ。塩でチートだぜ、とか言っていた自分が恥ずかしいよ……。
さあ、何を頼もうかな。