8-27 クリスタルパレス
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神獣化したエミリオに乗り、王都ミストアバンにあるクリスタルパレスを目指す。現在の俺の姿を見られないようにするため、出来るだけ高度を上げて移動する。
当初、がんがん高度を上げてみたが、雲を抜け、ある程度進んだところで、エミリオがもう限界だと言わんばかりに上昇を止めた。
うーむ、神獣化したエミリオの加護なのか、風の抵抗も寒さも感じないからさ、このまま宇宙まで行っても大丈夫なんじゃないかなぁ、って、ちょっと期待していたんだけどな。さすがに無理か。
あの空高くに見える二つの月まで行ってみたかったな。まぁ、今はそんな場合じゃないけどさ。
この今ある加護すら消して、エミリオの力の全てを速度に回した本気モードなら、勢いを付けて加速し続ければ、もしかしたら成層圏すら抜けて行くことが出来るかもしれないけどさ、その場合は俺の体が持たないだろうな。地上で本気モードの加速をした時ですら死にそうになるくらいだもん、無理無理。
いつかは、あの月にまで行ってみたいけどなぁ。
「にゃ!」
神獣化した羽猫が一鳴きし、高度を下げていく。ああ、首都についたのか。ホント、早いなぁ。やはり、空を飛べるってのは大きな利点だな。ナリン国王から貰ったルフの卵は、ファリンがちゃっかりアイスパレスまで持ってきてくれていたからな。早く孵らないかなぁ。もう、かなりの日数が経つのに、一向に孵る気配がないんだけど、中で腐っているとか、ないよな? それとも羽猫の時みたいに俺が持ち歩かないとダメなんだろうか。なんというか、後者の可能性が高い気がするんだよな。
あー、ナリンで思い出したけど、グァグの雄と雌は旧商会……今はウェスト商会だったか、に取られたままなんだよな。せっかくの卵料理が、くそぅ。俺らが力をつけて、大きくなったら取り返してやるからな。
「にゃう」
神獣化したエミリオが王宮クリスタルパレスへと突っ込むほどの勢いで飛び、そして、ぶつかる寸前で元の羽猫の姿へと戻った。うお、お、お前ッ!
14型が投げ出された俺を空中でキャッチし、そのまま王宮の中へと滑り込むように駆け込む。
王宮を守っていた兵士たちは突然の襲来に驚き反応が遅れている。その間に俺たちは王宮の中だ。確かに、俺の姿を考慮したら、こういう襲撃まがいの突撃が効果的だろうけどさ、それでも事前に相談して欲しかったなぁ。
俺を抱えたまま王宮内を駆ける14型の横を、併走するように羽猫が飛ぶ。
「にゃ、にゃう」
何々、事前に相談しろって言うが、にゃとしか喋れないって?
「にゃ、にゃ!」
うん、わからん。そうだよな、こいつと相談なんて無理だよなぁ。
「マスター、セシリアと名乗る個体の反応がある場所まで走れば良いのですね?」
14型が王宮内を疾走する。いや、お前、名乗る個体とか、反応って、わざとそれっぽく言ってるだけだろ。14型ってばさ、思わせぶりに機械であることをアピールするよなぁ。
そして、14型が大きな扉を開ける。ばばーんっとな。って、おい、ここ、お城とかによくある謁見の間とかじゃないのか?
「マスター、こちらです」
14型が俺を持ち上げたまま、兵士や偉そうな貴族が集まっている謁見の間を、その中を、紫の絨毯の上を、のしのしと歩いて行く。いやいや、降ろせよ、やめろよ、すげぇ、注目されてるじゃないか!
14型のあまりの堂々とした態度に周囲の兵士たちは口を大きく開けたまま、動くことが出来ないでいた。そして、14型が、貴族たちが集まり、一つの集団になっていた玉座の前で俺を降ろす。
「ランなのじゃ」
玉座に座り忙しそうに書類を眺めては周囲の貴族に指示を出していたセシリア姫が、その目の前に置かれた俺の存在に気付き、喜びの声を上げる。あ、どうも。
「侵入者だ! 衛兵! 衛兵!」
姫さまの声に周囲の兵士たちが我に返る。そして、周囲がにわかに騒がしくなる。
「魔獣だ!」
「敵か!?」
いや、あの……、その……。
「静まるのじゃ!」
セシリア姫が立ち上がり周囲へと静かに広がる制止の声を飛ばした。
「ランなのじゃ!」
そして、腰に手を当て、胸を大きく反らす。いや、あの、だから、何で、そんなに偉そうに俺の名前を……。
「皆、控えよ!」
姫さまの言葉を聞いた周囲の貴族や兵士たちが全員跪く。立っているのは俺と14型、そして姫さまだけだ。
「ラン、久しいのじゃ」
おうさ。
が、今回は遊びに来たわけじゃないからな。
『セシリア姫、今回は我が国グレイシアと神聖王国レムリアースとの同盟を結びたく参上した』
参上したのだ。
「何と! ランの国!」
姫さまは大きく目を見開き驚いている。まぁ、帝国と同盟を結ぶのは無理だろうからな。となると必然的に神国になるよなぁ。俺の国は出来たばっかりだからな、大きな後ろ盾や同盟が必要だと思ったんだぜ。
「それはランのような姿の者がうじゃうじゃいるのか? 行ってみたいのじゃー」
いやいや、俺みたいなのは、俺以外にいないからな。
『確かに魔獣という扱いを受けている者もいるが、住んでいるのは『人』だ』
オークさんたちは魔獣扱いでいいんだよな? でも、普通に会話出来るのに魔獣扱いってよく分からないよなぁ。以前は体内に魔石を持っているから魔獣って扱いなんだって納得していたけどさ、人にも魔石があることを知ってしまったからな。ただ、人って種族が優位に立ちたいから区別していただけにしか思えないよな。
「なるほどなのじゃ。しかし、わらわとラン、二人だけのことではなく、国と国のことになれば、そこには利が必要になるのじゃ」
まぁ、そうなるよな。国と国ってなれば、セシリア姫と友達だから、では済まないよな。
『まずは美味しい水と料理、そして真銀製品の販売』
「むぅ、わらわが旅をした成果を生かして、料理の質は改善してきているのじゃ」
あ、姫さんも神国はご飯が不味い国だって認識はあったんだ。しかし、本命はそれじゃないんだぜ。
そう……、
『そして、ウルスラ殿下の治療』