8-26 辺境伯と再会する
―1―
エミリオに神獣の本気モードから普通モードへと戻って貰い、辺境伯領の城へと飛ぶ。もう、あの竜騎士は振り切っただろうからね、安心だね。
途中で《変身》スキルの効果が切れたので銀のローブを取り出し、フードを深くかぶる。まぁ、最悪、俺のコトを知らない人間に見られたとしても14型のテイムした魔獣ってことにすれば大丈夫だろう。うん、大丈夫なはずだ。
エミリオでの本気モードの全力疾走が良かったのか、辺境伯の城はすぐに見えてきた。
竜騎士たちの飛竜が飛び交う中、その飛竜たちよりも一回りは大きなサイズのエミリオが、城の上層部に取り付けられた出窓のようになっている大きな入り口へと降り立つ。
そして、そのまま中へと進み、飛竜が遊び回っている緑豊かな庭で止まる。さあ、到着だぜ。
俺たちの様子を覗うように、先程まで遊び回っていた飛竜たちが集まってくる。さらに、その飛竜の相棒と思われる騎士たちも現れた。皆の注目を集める中、エミリオが、その姿を元の羽猫へと変える。
当然、その上に乗っていた俺たちは、空中にぽんと投げ出された。そう、ぽん、とだ。お前、俺らが降りるまで待てよ……。
俺は《軽業》スキルの効果でくるりと体勢を立て直し、着地する。それに合わせて周囲の騎士たちから拍手が起こった。いや、別に芸を披露したわけじゃないからな!
「マスター、この者に、一度、立場というものを教え込んだ方がいいと思うのです」
俺がその言葉に振り返れば、14型が、何事もなかったかのように着地し、羽猫を睨み付けていた。14型、お前、羽猫を相手に同レベルで喧嘩するなよ……。しかも相手にされてないじゃないか。
『すまないが、レイナード辺境伯を呼んで貰えないだろうか』
俺が天啓を飛ばすと集まっていた騎士の中から、代表して一人が前に出た。
「レイナード様は現在、警備の強化のため、南方の地に滞在されています」
ありゃ、タイミングが悪いな。
そこで目の前の騎士がニヤリと笑い「しかし、本日中には戻られるご予定です」と続けた。
「その姿でも剣の稽古は出来るはずです。レイナード様が戻られる、それまでの間、どうか、私たちと剣の稽古を」
周囲の騎士が剣や槍を持ち上げる。うひぃ、そういえば、辺境伯の領地の騎士って、脳筋な連中ばかりだった。まぁ、この姿の俺でも受け入れてくれる最高なヤツらでもあるんだけどな。
『まさか、シリアはいないな?』
俺が天啓を飛ばすと周囲の騎士が笑いを堪えるように反応した。
「ええ、残念ながらシリア姫は王都です」
残念じゃないから。いやぁ、いなくて良かったぁ。あの子、ホント、疲れるもん。
―2―
以前にも使わせて貰っていた部屋で休んでいると騎士の一人が俺を呼びに来た。やっと辺境伯が戻ってきたようだ。本日中って言っていたのにさ、もう翌朝じゃないか。何かあったのかな?
俺が辺境伯に会いにいこうと部屋に出たところで不意打ちを食らった。俺の体が持ち上げられる。
「おお! 本当にランだな。気持ち悪い芋虫の姿をしているぞ」
俺を持ち上げた辺境伯がニヤニヤと笑っている。こ、この爺ぃ……。
「止めなさい。マスターを持ち上げて良いのは私だけなのです」
俺の背後に控えていた14型が能面のような表情のまま怒りの声を上げる。いや、お前、辺境伯はお偉いさんだからな、それに、だな、俺を持ち上げる権利とか、そういうのはないからな?
「おお、すまん、すまん」
辺境伯が俺を降ろしてくれる。ホント、この爺さんも元気だよなぁ。
「帝都の政変に巻き込まれ、ノアルジーは帝国の剣聖によって処断され、その商会も奪われたと聞いていたのでな。お前が生きていたのが嬉しかったのだよ」
へ、へぇ。ここでも俺の死亡説が出て……って、俺の分身体が剣聖に真っ二つにされたのが、そう伝わってしまっていたのかー。なるほど、そういうことだったのかよ。まぁ、その後も俺は自分の国を作るので忙しかったから、表舞台には出てなかったもんなぁ。
「セシリーもシリアも、お前のことを心配しているはずだ。今は二人とも王都にいるぞ。後で必ず顔を見せるのだぞ」
あ、ああ。まぁ、元から王都には行くつもりだったから、セシリア姫に会うのは構わないんだが、シリアは……うん、あの子は、出来れば会いたくないなぁ。
「おお、そうだ。お前に会いたがっていた者と言えば、随分と前のことだが冒険者のバーンがノアルジーに会いたがっていたぞ」
へぇ、バーン君が?
「バーンは自分がAランクに推薦した冒険者でな、若いのに有望なヤツよ。ノアルジーと知り合いだったのだな」
へぇ、バーン君のAランクへの推薦って辺境伯だったんだ。って、アレ? 推薦者、辺境伯でもいいのか?
『レイナード辺境伯、自分は今、Cランクの冒険者もやっているのだが、もうすぐBランクにあげるのだ。もし良ければ、その時に自分も推薦してもらえないだろうか?』
俺の天啓を受け、辺境伯は、少し、ばつが悪そうな、そんな渋い顔になった。
「ふむ。それは構わぬがな……だが、それはセシリーに頼むが良かろう。自分が推薦してしまっては、後でセシリーたちに恨まれてしまうだろうからな」
あー、そうなんだ。もしかして、神国ってくくりで一人なのか? 辺境伯とセシリア姫とで二人ゲットだぜー、なんて思っていたんだけどなぁ。ま、まぁ、それならセシリア姫に頼むか。
「して、ランよ。今回の用は何だ? まさか、お前が、ただ遊びに来たという訳ではあるまい」
その通りです。
『自分は新しく国を作ったのだ。名をグレイシアという。その事を伝えに来たのだ』
俺の天啓を受けた辺境伯は、何かを思い出しているかのように、俺の顔を見て、ほんの少しの間だったが苦笑していた。
「そうか」
そうなのだ。
「ランよ。このレイナード、老い先短い身だが、お前の建国、その力となることを約束しよう」
おいおい、爺さん、急に真面目な顔になってどうしたよ。ま、まぁ、でも、これで神国の辺境伯とも協力態勢になったと思っていいんだよな?
後はセシリア姫たちだよな。
次は王都だぜ!