8-25 次の予定地へ進む
―1―
「では、当初の予定通りファリンに任せた」
俺の言葉に大柄なファリンが大きく頭を下げる。
「ヤズ卿、うちの優秀なファリンを置いていくので頼む」
ヤズ卿は楽しそうにこちらを見ている。
「ほう。後の話は、この者と、か。以前は、おどおどしているようなのに、ズバズバと物を言う猫人族の娘だったと思うが、新しい者に変わったのだな」
あー、ユエか。ユエはユエで、俺の国のアイスパレスで頑張って貰っているからなぁ。
「その猫人族の娘――ユエの弟子が、このファリンだ」
だから、安心して任せて欲しいんだぜ。
「なるほど、それは期待しているぞ」
獅子頭のヤズ卿は楽しそうにあごひげをなでている。
「ところで、ノアルジーよ」
はい、何でしょう。
「その様子だと、すぐに何処かへと動くようだが……」
ヤズ卿の言葉に俺は唇の端を上げる。
「ああ。次は神国に向かう予定だ」
「なるほど。それは楽しくなりそうだな」
ヤズ卿が楽しそうに笑う。
「しかし今は、神聖国によって作られた橋が落とされ、橋がかかる時期でもない。どうするつもりだ」
俺は上を指差す。
「空を渡る!」
と言うわけで俺と14型、神獣化した羽猫で小迷宮『刹那の断崖』を飛び越えているのだが、次々と襲いかかって来る飛竜に手を焼き、移動は難航を極めていた。こいつら、ホント、鬱陶しい!
神獣化した羽猫が光るブレスを吐き、俺もところ構わずアイスストームの魔法を放って飛竜の群れを撃ち落とすが、撃ち落とした側から新しい飛竜がやってくる。えーい、ここの飛竜は何匹いるんだよ! 無限沸きか、無限なのか!?
これなら普通に小迷宮『刹那の断崖』を抜けた方が早かったんじゃないか? 誰も空を抜けようとしないわけだよ……。
そして飛竜の巣を抜けきり、安心しきった俺たちの前に、新しい飛竜が飛んできた。くそ、神国に入ったはずなのに、まだ追ってくるのかよ!
うん? 前方?
前方から飛んできた飛竜に紫の炎の槍が生まれている。って、問答無用の攻撃!?
「待て! 俺たちは魔獣ではない!」
俺はとっさに叫ぶ。
「なんだ、と?」
向こうから声が返ってくる。そして飛竜の動きが止まる。
「君たちは何者だ。何故、『刹那の断崖』を! 飛竜の巣を乗り越えてきた!」
前方の飛竜から大きな声が飛んでくる。そんな大声で叫ばなくても聞こえるってばさー。
「俺はノアルジー、辺境伯、そしてセシリア姫に会いに来た」
俺は顔半分まで深く巻き付けていた白竜輪を降ろす。神国とも仲良くなりにきたんだぜー。にしても、ホント、《変身》の効果時間が切れる前で良かったぜ。本来の姿だと問答無用で攻撃を受けていた可能性があるからな。
「その顔……間違いない! 生きていたのか、いや、生きていてくれたのか」
あれ? この竜騎士、俺を知っているのか? にしても、至る所で俺の死亡説が流れているのか? どういうことだ?
「僕だ。テオフィルスだ」
えーっと、誰? 俺の知り合い? うーむ、本当に覚えがない。ま、まぁ、適当に話を合わせておこう。
「分かった。では、俺は辺境伯の城に向かうので、そういうことで」
《変身》の効果が切れたらヤバイからね。ちゃちゃっと行っちゃいますよ。
「それでは僕が案内しよう」
じゃ、って感じで行こうとしたところを引き留められる。へ? いやいや、必要無いですから。一人で行けますから。勘弁してくれ。
「いや、場所は分かっているので大丈夫だ」
「遠慮しなくてもいい。最近は帝国の上がすげ変わったとかで、また、こちらへと侵攻してくる気配もある。更に魔族連中の動きも活発だ。いくら、あなたが強いと言っても一人では何が起こるか分からない」
へぇ、帝国が、いや、フロウが神国にちょっかいをかけているのか。だから、橋が落とされたんだな。って、一人!? 俺の後ろには14型もいますし、俺が乗ってるのは神獣のエミリオだぜ? 余裕だから、超余裕だから!
「いや、大丈夫だ。それに俺のエミリオの方が、そちらよりも速いのでな」
俺は上から、エミリオの首元をなでる。そうそう、こいつ、速度は凄いからな。
「僕のヘポイトも速度なら自信がある。その速さを買われて斥候を任されているからね」
もうね、何なの、この人。俺は《変身》が解けそうで、時間がないってのに!
よし、分かった。
ああ、分かったぜ。
「分かった。では、辺境伯の城まで行くとしよう」
俺はその言葉と共に白竜輪を深く、顔半分を覆うように持ち上げる。風の抵抗とか色々凄いからな。出来ればゴーグルが欲しいところだぜ。さあて、準備完了だ。エミリオ、全力だ。ハリー、ハリーだ。お前の本気を見せてやれ!
そして、エミリオが飛ぶ。
空を引き裂くように一つの弾丸となって飛んで行く。
飛竜と竜騎士が、俺たちの速度に食いつくよう、必死に追いかけてくるが、少しずつ距離が開き、そして、一気に距離が離れ、ついには姿が見えなくなった。
ふぁふぁふぁ。乗り手のことを考えないエミリオの全力についてこれるものか!
ふぁふぁふぁ……はぁ、はぁはぁ。え、エミリオさん、速度を落として下さい。俺が、俺が死んでしまう。《飛翔》スキルのように何か不思議なバリアみたいなもので守られているワケでもないし、こんな勢いで飛び続けたら冗談抜きで、本当に死ぬって。何故か14型は平気そうだけどさ。こいつは機械だからなぁ。機械と人を比べたらダメだよな。だから、死んじゃいます! 助けてー!
……。
ま、まぁ、何にせよ、これで辺境伯領か。
まずは辺境伯に会って、その後はセシリア姫のトコだな。
なんだか、随分と久しぶりな気がするなぁ。
2021年5月7日修正
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