8-23 一段落考えること
―1―
――[アクアポンド]――
水を作り出す。あー、これ、これからの日課になりそうだ。
何も無かった部屋に小さな池が作られていく。ここはアイスパレスで最近になって見つかった隠し部屋だ。
1階へ降りる螺旋階段の裏に隠し階段が見つかったって話を聞いた時は大喜びしたんだけどな。フルールが作り替えた鍛冶工房へ向かう螺旋階段とクロスするように降りる螺旋階段。
壁を隔てているが、鍛冶工房と向かい合う、その隠し部屋には、何も無かった。隠し部屋だからさ、何か宝箱が置いてあるとか、使ったらMPが回復するようなレアな指輪があるとか、そういう配慮があってもいいと思うんだけどな。
ホント、ただ広いだけの部屋なんだもんな。このまま放置するのも、もったいないので、以前、本社の地下室で行っていたのと同じように水の生産場にすることにした。
よし、いい感じだな。
新しく作った池のように広がった水の中に再生のファイアストーンを浸けてみる。ゆっくりとだが、水が温まり始める。そのまま待ち続けると水はぐつぐつと沸騰し始めた。うーん、お風呂とかに出来ないかな、と思ったんだが、沸騰するくらい熱くなり続けるなら、それも難しいよなぁ。温度がある程度上がったところで取り出すか?
――《魔法糸》――
《魔法糸》を飛ばし、池の中から再生のファイアストーンを取り出す。この石もさ、持っている状態では、ほんのり温かいって感じなのになぁ。何で水に浸けると、どんどん熱くなっていくんだろう。
お風呂、お風呂がなぁ。
この世界の人たちって風呂に入るって文化がないみたいなんだよな――いや、ナハンでは温泉街があったから、完全にないとは言わないけどさ。まぁ、ナハンは、うん、あそこは特殊な地域だから、考えないことにしよう。
汚れても体を拭いて終わりとかだもんなぁ。まぁ、クリーンみたいな魔法がある世界だとそうなってしまうのか……。
お風呂が完成したら、このアイスパレスの目玉になりそうじゃないか? まぁ、お風呂に入る習慣がない人たちの反応を見てからだけど、さ。ま、最悪、俺の自己満足で終わっても問題ないからな。
でも、水の温度、温度だよなぁ。
少し温かくなってきたところで再生のファイアストーンを取り出す? それだとタイミングが難しそうなんだよな。
あ、そうだ。
滝のような感じにして、上から水を降らせるようにして、その途中に、この再生のファイアストーンを置けばなんとかなるんじゃないか?
よし、今度、親方が暇になったら作って貰おう。今は道の作成と港の作成で忙しいだろうからな。
いやぁ、楽しみが出来たなぁ。
―2―
14型が復活したので、14型とミカンに城を任せて冒険者の仕事を黙々とこなす。そう、今の俺はGPを集める鬼と化しているのだ。いやぁ、例え数十ポイントでもさ、地道に頑張れば1万5千くらい、溜まるかもしれないじゃないか。
にしても14型が復活して良かったぜ。今回は長かったからなぁ。再生に時間がかかったのって、何が原因だったんだろうな? ま、考えても分かんないんだけどね、ハハハ!
14型や羽猫もいつの間にか戦力としてなくてはならないくらいになってるしさー、うん、出会った時のお荷物具合からは考えられないぜ。
そういえばさ、14型に、冒険者ギルドで使っている通信端末をスカイから無理矢理取り上げて、確認してみてもらったけどさ、反応が悪かったよな。
「これを見せれば、何とかなると思っているのですか? 私に頼って、私が何でも出来る万能だと思っていただけるのは嬉しいのですが、マスターは出来ることと出来ないことを考えた方がいいのです」
なんて言っていたからな! いやいや、俺も14型なら分かるかなぁ、くらいの気持ちだしさ、そんな何でも出来るとか思ってないからね! からね!
送られてくる鉱石を黙々とインゴットに変えたり、その出来具合によってはフルールが小言を言ったり、お風呂作成を頑張ったり、このアイスパレス周辺で冒険者として頑張ってみたり、魔素を操作して気候を作り替えたり――そんな日々を過ごす。
そして、ついに道と港が完成した。意外と早かったよな。
得意気な顔の親方がやってくる。
「おう、ランの旦那、完成だぜ」
「これで道が開けます!」
ハウ少年も得意気だ。
「いや、すでに道が開けただろうがよ」
そして、一緒に現れたのはファットの兄貴だ。おー、ついに来たか。
「船長には随分と待って貰いました」
「おうよ。港の完成が遅れて申し訳ないぜ」
へー、待って貰ってたのか。
『ファット、やっと来たな』
俺が天啓を飛ばすと、ファットはどうでもいいとばかりに手を振った。
「それよりも、よ。あれだ、あのよー」
あー、うん、はいはい。
『ここからだと左手側奥の建物だ。そこを新しい商会の事務所としている』
「おう、すまねえ!」
ファットはすぐに駆けていった。まぁ、うん、待ち望んでいた再会だろうからな。俺は家族の再会の邪魔をするような野暮はしないぜー。
「これで新しい商会、新しい国としての幕開けです!」
いつの間にか俺の後ろに鬼人族のファリンが来ていた。まぁ、ファリンも空気を読んで商会事務所から出てきたんだろう。
「おう、ランの旦那、ここからスタートだな」
親方がガハハハと笑っている。まぁ、親方にはまだまだ、色々と作って貰わないとダメだからな、ここからが本番だぜ?
「ランの旦那、海路が確保出来たのか。やったんだぜ」
キョウのおっちゃんが何かをボリボリと食べながらやって来た。お、キョウのおっちゃんも戻ってきたのか。立ち食いはお行儀が悪いんだぜ。まぁ、キョウのおっちゃんには寝る間も惜しんで周辺の情報収集や帝都の動向を探って貰ってるからなぁ。食事をする時間も惜しいんだろう。
『ああ』
「帝都は相変わらず動きなしなんだぜ。今は他のヤツらに見張らせているんだぜ」
帝都のさぐりを入れている間に、キョウのおっちゃんは元部下の人たちとも合流したようで、いつの間にか諜報部隊みたいなのが出来上がっていた。
キョウのおっちゃんは、帝国で、元々、そういう感じの仕事をしていたらしいからな。ホント、部隊を作り上げるのはあっという間だったぜ。
「で、ランの旦那、ここが再出発として、この国の名前をどうするんだぜ」
そして、キョウのおっちゃんは、そんなことを言っていた。
へ?
国の名前?
そういえば、俺、散々、新天地だとか、国を作るとか、調子の良いことを言っていた気がするなぁ。
そ、そうか。
ここで、それがくるか。
えーっと、国の名前かぁ。
まったく考えてなかったぜ。
ノアルジ国とかダメですか? いや、さすがにそれはダメか。商会とは違うもんなぁ。
ど、ど、ど、ど、どうしよう。
2021年5月7日修正
ほんのり暖かい → ほんのり温かい