8-20 事件事件大事件?
―1―
――《一閃》――
槍形態のスターダストが煌めき目の前の針葉樹をなぎ払う。針葉樹に線が走り、そのまま滑るように倒れていく。倒れた針葉樹が深く積もった雪の中に沈む。よし、俺でも斬れた! ミカンが木を斬り倒した時は、おおーって驚いたけどさ、何だよ、俺でも出来るじゃんか。
「主殿、危ない!」
俺が針葉樹の切り口を確認していると、ミカンの叫び声が聞こえた。どうした、どうした?
俺に何か大きな影がのびる。へ? 何が?
「ジジジ、ラン、上だ」
俺が上を見ると、ソード・アハトさんが倒れてきていた針葉樹を2本の手で支えていた。あ、危ねぇ。もうちょっとでぺちゃんこになるところだったのかよ。
「主殿、怪我は無いか!」
いやまぁ、ソード・アハトさんのお陰で怪我は無いけどさ。ミカンが斬り倒した針葉樹がこちらに倒れてきていたのか。
「ミカンよ、ジジジ、天性の才や勘に頼るのも良いが、少し考えて行動するのだ」
ソード・アハトさんが倒れてきていた重そうな木を軽々と雪の上に降ろす。ミカンも恐ろしいほどの怪力だけどさ、蟻人族の方々も力持ちだよなぁ。同じ虫系なのに、俺と違い過ぎませんかねー。
「む、すまぬ」
ミカンはしょんぼりだ。ちゃんと反省するのが、この子の良いトコなんだけどさ、でも脳筋だからなぁ。脳筋だもんなぁ。
と、その時、俺の視界に魔獣の線が映った。こいつは……!
『ミカン、三本目の木の陰にソードウルフだ』
俺の天啓に、ミカンが頷く。先程の落ち込んだ顔が嘘のように、一瞬にして侍マスターの顔に変わる。
「ジジジ、魔獣か?」
ソード・アハトさんがミカンの反応に気付き、魔獣の方へ――ソードウルフの方へと振り向いた時には、全てが終わっていた。
無駄な動きのない、自然体の、まるで流れる静寂な川を見ているかのような刀の動き――一瞬にしてソードウルフの首が飛んでいた。その綺麗な動きに見とれた俺たちが我に返った時には、ミカンが刀を鞘にしまっているところだった。
「ランよ、ジジジ」
あ、ああ。ソード・アハトさんの言いたいこともわかるぜ。ホント、いつの間にか、だよな。ミカンは侍として極まっている。恐ろしい切れ味の刀『猫之上蜜柑式』を手にした今、ミカンなら剣聖にも普通に勝てるんじゃないか?
「主殿、これでクエスト達成だな」
あ、ああ。
『では、そろそろ戻るか』
俺は魔法のウェストポーチXLに先程、ミカンが倒したソードウルフの死体と斬り倒した針葉樹を入れていく。
「主殿の、その魔法の袋はいつ見ても便利そうだ」
ミカンが羨ましそうな目でこちらを見ていた。いやまぁ、確かに便利なんだけどさ。でも、最大まで強化した《増加》スキルの効果があっても9種類までしか入らないからなぁ。同じ物がもう1個くらいは欲しいです。いや、欲を言えば何個でも欲しいさ。
―2―
アイスパレスに戻り冒険者ギルドに向かう。
正門から入ってすぐは大通りと言ってもおかしく無いぐらいの通路になっており(建物の中とは思えないくらいだ)どうやったのか、親方が、そこまでは外の陽光を引き込んでいた。
そして、その大通りの左右には建築途中の建物が並んでいるが、一つだけ完成している建物があった。そこがアイスパレスで最初に稼働を始めた施設、スカイをギルドマスターとする冒険者ギルドだ。
建物の中に入るとキョウのおっちゃんやユエ、フルールの姿が見えた。まぁ、完成している建物って、ここくらいだもんな、みんな、集まっちゃうよな……。
「ランの旦那、剣の旦那、お帰りなんだぜ」
「私もいるのだが」
ミカンの言葉にキョウのおっちゃんが頭を掻いていた。
「ミカンさんもお帰りなさい」
キョウのおっちゃんの代わりにユエが挨拶をした。
『スカイ、クエストの報酬を頼む。クニエ殿は奥か?』
俺の天啓にスカイが頷く。
「あい、すぐ呼んで来ますよー。その間に……」
『ああ、分かっている。外に広げておこう』
俺は建物の外に出て、魔法のウェストポーチXLからソードウルフの死体、斬り倒した針葉樹を取り出し、大通りに並べていく。
俺がその作業を行っているとクニエさんがやってきた。
「これは……大物ですね」
『殆ど、ミカンがやったのだがな』
クニエさんが並べられた獲物を鑑定していく。
「スカイさん、鑑定出来ました。確かにソードツリー12本とソードウルフです。納品と討伐のクエスト、両方とも達成ですね」
少し丸みを帯びてきたクニエさんが、こちらを向いてにこりと笑う。
「ランの旦那ー、報酬を取ってきますからー、ステータスプレートをお願いします」
了解なんだぜ。
そして、戻ってきたスカイから小金貨1枚を受け取る。クエスト達成の報酬ゲットだぜー!
「ふむ。ジジジ、冒険者もなかなかに楽しそうだな。ゼンラ様の居場所も分かった今、道を作っている同胞が戻ってきたら、ジジジ、私たちも同胞とともに冒険者になってパーティを組むのも悪く無いかもしれん」
「おー、蟻人族の方々なら大歓迎すよー。もう、すぐにでも、Cランク……いや、Bランクに、いやいや、Aランクも行けるんじゃないですかー」
スカイ君、えらく調子がいいようだが、君の目の前にいる、俺は、まだCランクなんだがね。そこのところ、分かってての発言かね。
にしても小金貨1枚……か。俺は受け取った、小さな手の平の上に乗っている小金貨を見る。これが、スカイの言っていたスターターパックから出てきたお金なのかな?
『この、お金は誰が作っているんだろうな』
全世界共通だしさ、その、冒険者ギルドが持っている怪しげな道具から出てくるみたいだしさ、謎だよな。
「それは……帝国で作ってるんでしょ」
スカイの答えは適当だ。まぁ、スカイにはどうでもいいことなんだろうなぁ。
「いや、帝都では作ってないんだぜ」
「うむ、ジジジ」
キョウのおっちゃん、ソード・アハトさん、帝都の重鎮だった、この二人が言うなら、そうなんだろうな。
「そうなんですのぉ? でも潰銭はくず鉄から作ってたと思うんですのぉ」
フルールの疑問。
「ああ、あれは国によっては使えない独自通貨ですね」
ユエが答える。潰銭って国によっては使えないのかよ! ただでさえ、ゴミみたいで邪魔になって、と思っていたのに……。
「あー、あれっすよー。お金は女神の回し者って言うじゃないですかー。だから、女神様が作っているんですって、間違いない」
スカイ君は、どうだとでも言わんばかりに得意気だ。
「それを言うなら回り物です」
ユエが突っ込みを入れていた。何だかなぁ。
結局、お金の出所は分からないまま、か。
俺たちが、そんなことを話していると大工の棟梁が駆け込んできた。どうした、どうした。
「おいおい! 大変だぜ、とにかく大変だ!」
親方は慌てているのか、何を言っているのか分からない。
「親方、落ち着いてください」
寄り添うように一緒に入ってきたハウ少年が親方を落ち着かせようとしている。
『いや、ハウが説明してくれ』
ハウ少年に聞いた方が早いよ。
「あ、はい。えーっとですね、蟻人族の方々の協力の下、西側への道を作っていたいんですけど、鉱脈にぶち当たりまして……さらに臭い匂いの熱い水が出てきて、大変なんです」
「鉱脈ですのぉ!」
フルールが食いついた。ま、まぁ、金属が手に入るのは嬉しいよな。木製品から、一気にランクアップだぜ。
いや、それよりも熱い水って……まさか、近くに火山でもあるのか? この城、氷で作られているけど大丈夫だろうか……。