8-19 冒険者ギルドの謎
―1―
――《転移》――
《転移》スキルを使い、キャラ港の近くにあるファット団のアジト前に降り立つ。海路を切り開くための最後のパーツが足りないからな!
ファット団のアジトに入ると見張りであろう、バンダナを巻いた猫人族が寝転がっていた。幸せそうに大きないびきを立てている。たくっ、こいつらはいつもたるんでいるなぁ。
まぁ、勝手に入らせて貰うぜ。
ファット団のアジトをしばらく進むと何やら話し声が聞こえてきた。
「だからよ、お前は海賊に戻るべきなんだって、何度も誘ってるだろうがよ」
「うるせぇ、今更海賊に戻れるか」
ファットと……イーグルだったか。あの髭もじゃの海賊だよな。よしよし、ちゃんとファットが居て良かったぜ。
お邪魔するぜ。
ファットの部屋に入ると酒臭い匂いが一気に広がった。うわ、酒を飲んでいたのかよ。酔っ払ってないよな?
俺の姿をみたファットが開口一番、「おせぇ」と呟いた。そして、そこから一気にまくし立てる。
「ほんと、遅かったじゃねえか! 俺様をどれだけ待たせるつもりだ」
いやいや、俺らも大変だったんだって。
「と言うわけだ。イーグル、お前は帰りやがれ」
ファットがしっしっと追い払うように手を振る。それを見たイーグルは、肩を竦めていた。
「ちっ、現金なヤツだぜ。さっきまで腐った魚みたいにぐじぐじしてやがったのが……」
「うるせぇ、早く帰りやがれ」
ファットが、イーグルが座っている椅子を蹴り飛ばす。
「あぶね、何しやがる。ちっ、海で見かけたら、お前の商船、沈めてやるからな!」
そう言いながらも、イーグルは楽しそうに笑いながら部屋を出て行った。なんだかんだ、この二人、仲が良いよなぁ。
「さてと、説明して貰うぜ。帝都で何があったかを、な!」
あ、はい。と言っても複雑なことは何も起きていないんだけどな。
『政権が変わった』
「なんだ、と」
豹のように精悍な顔のファットが、驚きのあまり、間抜けな顔になっていた。
「詳しく話せ!」
詳しくも何も無いんだけどな。
『大貴族のフロウが反乱を起こし八常侍を皆殺し、ゼンラ帝は逃亡、フロウが新しい帝国の帝として即位した』
「それから?」
それからも何も……って、ああ、そうか。
『ノアルジ商会はフエに乗っ取られ、俺たちは南の果てに逃亡。ユエも、その子どもたちも元気だ』
「そうか……」
ファットは安堵したように大きな息を吐いた。ファットが一番知りたかったのはユエと子どもたちのことだろうからな。気付かなくてすまん。
「ま、あいつは、そんな簡単に……」
俺がじーっと見つめていることに気付いたからか、ファットはそこで口を閉じた。
「あー、だから、帝都の港が封鎖されていたんだな」
ファットが照れたように一度咳払いをし、話を変えた。
「しかし、助かったぜ。積んだ荷物を腐らせるわけにもいかないし、困っていたからな」
ファットの船の荷物は食べ物かな? まぁ、それは俺が魔法のウェストポーチXLに入れて持っていくか。
『それは俺が運ぼう。ところで、ファット、地図は持っているか?』
俺の天啓にファットが頭を掻いていた。
「お前よ、地図なんて希少品が、そうそう転がっているとでも思っているのか?」
ないのか?
「ま、俺様は持っているんだがな!」
あるのかよ!
「お前ら、海路図持ってこい!」
ファットが大きな声で部屋の外へと呼びかける。
しばらく待つと太っちょのバンダナを巻いた猫人族が大きな板を持ってきた。
「兄貴ー、持ってきやしたー」
「おう、そこに置け」
置かれた板は海を中心とした海路の描かれた地図になっていた。
えーっと、帝都がここだと、おー、ナハンって、こんなに小さいんだ。本当に辺境の島国って感じなんだな。地図はファットの方側が南だから――おや? こうして逆側からみると、俺の世界の、俺が住んでいたところと似たような形になっているんだな。まぁ、一部分だけを切り抜いて似ているって言うのもおかしいか。
俺はサイドアーム・アマラに持たせた真紅妃で地図の一点を指し示す。
「うお、いきなり槍を振り回すんじゃねえよ」
『ファット、ここが、この辺りが今、俺たちが拠点としている城のある場所だ』
さらにもう一点を示す。
『そして、今ここに港を建造中だ。ファットには、ここを目指して欲しい』
「港を建造中だと! お前らは……いや、その行動力がお前らを大商会にしたんだったな」
いや、その行動力の殆ど、お前の嫁さんだと思うんだがな。
「わかったぜ。すぐに向かうと、あいつに伝えておいてくれ」
わかったぜ。
―2―
ファットから船の積み荷を受け取り、アイスパレスへと戻る。うむ、一瞬で戻れるのは便利だなぁ。《転移》スキルも便利だと思ったけど、このコンパクトみたいに制限無しで一瞬で戻れるのになれてしまうと、なぁ。あらゆるところに、これで移動が出来たら楽でいいんだけどな。
って、あれ?
アイスパレスの屋上に何やら、色々な荷物が置かれていた。何だ、コレ?
俺が荷物を開けようと、手をかけたところで、螺旋階段の方から大きな声が上がった。
「ああ! 旦那、ランの旦那、ダメダメ、ダメだってばー」
そこに居たのは犬頭のスカイだった。スカイまで俺のコトを旦那って呼ぶのかよ。チャンプを卒業したら、今度は旦那か……。
『スカイ、これは何だ?』
「ダメっすよー。ダメってば、ランの旦那でもダメですよ。こいつはグランドマスターが送ってきた冒険者ギルドのスターターパックなんですからー」
何だよ、スターターパックって。これからカードデッキの構築でもするのか?
『スターターパック?』
「周辺情報から簡易なクエストを作成したり、冒険者に支払う報酬を送ってきてくれたりする道具っすよー」
何故かスカイが得意気だ。
『クエストは誰か困っている人が依頼として持ち込んでくるのではないのか?』
「もちろん、そっちが主流っすね。それをクエストとして形にしたり、そういった依頼がない場合でも冒険者ギルドが回せるようにクエストを作ったりするのが、この道具なんですよー」
だから、何で、スカイが得意気なんだ。にしても、スカイ君、ぺらぺらと……本当は秘密にしていないと駄目な情報だろうに、わざとか、わざとやっているのか!?
にしても、クエストを作るとか、報酬が送られてくるとか、ますます怪しいなぁ。冒険者ギルドって謎な組織過ぎないか?