8-11 スカイ君の謎行動
―1―
「この暗さは早く何とかして欲しいもんだぜ。これじゃあ、まともに料理も作れないじゃん」
置かれた魔法のカンテラの光を反射させてポンちゃんがやって来た。
「たく、俺は歩くのが苦手なんだから、余り運動させて欲しくないじゃんか」
ポンちゃん、運動しないと太るぞ。
「オーナー……っと、今は、なんて呼べばいいのやら、えーっと、だな。簡単な料理を作ったが食べていくか?」
おー、さすがはポンちゃん、気が利くね! やはり食事が重要だよな。お腹一杯になれば、それだけで幸せな気分になるし、良い考えも浮かぶってもんよ!
じゃなくて、だな。
『いや、すまない。今は、先にスカイを探し出さないとダメなのだ』
そうなのだ。いやまぁ、スカイ君の勝手な行動だから、無視して放置してもいいんだけどね。それで、何かあったら、寝覚めが悪いじゃないか。
というわけでスカイの行方だな。
『ポン殿、自分が使っている魔法のカンテラも置いていく。上手く活用してくれ』
まぁ、灯りは多くて困ることはないだろうからな。それに魔石を入れたばかりだから、当分、灯りは持つはずなんだぜー。
では、キョウのおっちゃんの言葉を信じて下の階を探しますか。
――《剣の瞳》――
下の階に降りたところで《剣の瞳》を発動させる。余り遠くには行っていないと思うしね。
螺旋階段を降りてすぐの大通りの途中に反応が見えた。沢山あった小部屋の場所かな? その部屋までは、結構な距離があったはずだが、よくこんな暗闇の中をランタンの灯りだけを頼りに到達出来たな。どんな奇跡か偶然が起きたのやら。まぁ、とにかくスカイを確保するか。
《暗視》スキルを頼りに反応のあった小部屋へと向かう。
中二階に上がり、沢山並んでいる部屋の前を進んでいると、小部屋に取り付けられた扉が開け放たれ、うっすらと小さな灯りが漏れているのが見えた。間違いなく、ここだな。
――《隠形》――
《隠形》スキルを使い進む。いや、別に隠れて進むのが癖になっているとか、そういうワケじゃないよ! ただたんに、スカイを脅かしてやろうとしているだけだよ! って、俺は誰に言い訳しているんだか……。
《隠形》スキルを使い、扉の前まで来るとスカイ君の言葉が見えた。
「ウドゥン帝国西側支部のスカイです。ウドゥン帝国の帝都で革命あり。首謀者は大貴族のフロウ。自分は現在逃亡中です。指示を待ちます……これでいいかな?」
スカイが何か光る板に話しかけている。
あいつ、何をやっているんだ?
「よし、ちゃんと文章になってるな、うん。使い魔ちゃん、お願いします!」
そして、スカイが、その光る板を天井に向けてかざしていた。ホント、何をやっているんだ?
「グランドマスターからの返事、すぐ来るかなー」
スカイは光る板を地面に置き、不安そうに腕を組んでうろうろし始めた。何だ、何だ? ホント、今回の行動はとびっきり怪しいな。
しばらく待っていると床に置かれた光る板が点滅し、振動を始めた。
「返事きた! 使い魔ちゃん偉い!」
うろうろしていたスカイが光る板を飛びつくように持ち上げる。
何だ、何だ? 光る板に何か文字が浮かんでいるような……? 俺は《隠形》スキルを使ったままスカイの後ろ側にまわり、光る板をのぞき込む。
【グランドマスター:通達する。情報は東側から得ている。西側支部はシュエに後を継がせる】
それを見たスカイがわなわなと震え、手に持った光る板を思いっきり投げつける。そして、慌ててそれを拾いに行き、壊れていないかを確認していた。
えーっと、これは、アレか。リアルタイムで何か情報を、会話のやり取りが出来る――メールみたいなやり取りが出来る装置なのか? 俺、この世界に来て、結構経つけどさ、これ初めて見たんだけど。こんな便利な物があるならさ! 俺の商会だって、距離の関係で、よくユエが情報の行き違いがーって困っていたのにさ、こんな便利な物があれば、そんなことなくなるじゃないか! いや、俺自身混乱して何かおかしな、いやでもさ、何コレ。ステータスプレートも存外不思議な装置だけどさ、スカイ君が持っているコレも、おかしくないか?
……そういえば、思い当たる節があるな。冒険者ギルドの情報の早さって異常だったもんな。《転移》スキルを使って一瞬で移動したはずなのに、すでに現地で知っているとかさ。これが――こんな絡繰りがあったのかよ!
『スカイ、それは何だ?』
俺が天啓を飛ばすと、スカイが驚いたように、こちらへと振り返った。
「ちゃ、ちゃんぷ!」
『スカイ、それは何だ?』
「ま、まさか、チャンプ、見てしまった……?」
いや、見たけどさ、だから、何なんだ?
『スカイ、それは何だ?』
うん? あれ?
スカイが手に持った光る板から何か黒い手が這い出すように生まれ、伸び始めていた。
『スカイ、もう一度聞くぞ、それは何だッ!』
2本の黒い手が生まれ、こちらとスカイに伸びる。スカイには黒い手が見えていないようだった。まるで、俺がナイトメアの魔法を使った時のような――ヤバイッ!
俺はとっさに自分の体内の魔石をかばうように真紅妃を構え、そこへと伸びてきた黒い手を打ち払う。
打ち払われた黒い手が空中で軌道を変え、再度、俺へと迫る。しつこいッ!
俺はサイドアーム・ナラカに持たせたスターダストを槍形態に変化させる。
――[ライトウェポン]――
スターダストが白い光に包まれる。そして、俺は、そのまま伸びた黒い手を斬り払う。黒い手は空中で霧散し消えた。よし、これでこちらは何とかなったか?
よし、このままもう1本の黒い手を……
「あ、あが、な、なんで……」
突然、大きな悲鳴が上がる。俺が声の方を見ると、もう一つの黒い手がスカイの体内へと侵入していた。
しまったッ!
くそっ、スカイの方が間に合わなかったのか。このまま、この光の槍で斬り払うか? いや、違う。そうじゃない――もう、間に合わない。
ならばッ!
俺がやることは一つッ!
――《変身》――
《変身》スキルを使うことだッ!
黒い手がスカイの体内にあったであろう魔石を握りつぶし、そして、満足したかのように光る板の中へと消えていった。
「ちゃ、ちゃんぷぅ……さむいよぅ……な……ん」
魔石を砕かれたスカイは今にも死にそうだ。ホント、何なんだよッ! って、死なせるかよッ!
――《魔素操作》――
周囲の魔素を操作し、早く魔石を作るための環境を整える。
――《魔石精製》――
俺の手の中に魔石が作られていく。そして、俺は魔石を作りながらも魔素を吸収し、MPを回復させる。同時に行えばッ!
さあ、行くぜッ! 生き返れッ!
――《リインカーネーション》――
そして作成した魔石を埋め込む。新しい魔石がスカイの体内に入り、そして内部組織と繋がっていく。
一応、だめ押しにッ!
――[エルキュアライト]――
癒やしの光を浴びせる。こ、これで大丈夫だよな? とっさの判断だったけど、間に合ったよな? 死んでいないよな?
スカイ君には色々と聞かないと駄目なことがあるんだから、死ぬなよ。
「げほっ、げほっ」
スカイが咳をし、血やよだれをまき散らす。うわ、汚いなぁ。
――[クリーン]――
覚えてて良かった、クリーンの魔法ッ!
「あれ? ちゃんぷ――じゃない? 誰? 俺? 生きている……?」
おうさ、ノアルジさんですよ。まぁ、芋虫が急に人に変わっていたら驚くよな。と、スカイは大丈夫そうだな。はぁ、間に合って良かったよ。
にしても、さっきの黒い手は何だったんだ?
「スカイ、もう大丈夫だな? 教えろ、この光る板は何なんだ?」
俺の言葉を聞いたスカイはキョロキョロと周囲を見回している。
「あれ? チャンプは?」
だから、俺がランだろうが。この姿も見せたことがあるはずだぞ。
ホント、この犬頭は……。