2-58 双月
―1―
『ちなみにEランクの承認試験は何になるだろうか?』
そうそう、これも聞いておかないとね。
「ああ。さっきのでポイントが溜まったんだな? 次は世界樹上層に居るウッドゴーレムだな。まぁ、こいつはさすがにまだ早えだろ。無理すんじゃねえぞ?」
なるほど、これは非常に良いタイミングだな。丁度、次の世界樹攻略でウッドゴーレムを倒してしまおうと思っていたもんなぁ。
『ふむ、分かった』
俺はそう言って冒険者ギルドを後にする。
外に出て空を見上げると夜空に欠けた月が輝いていた。欠けてはいるがその姿は俺の世界の月とよく似ている。そして、その月を守護するかのように紫? 黒? 見方によって色を変える魔獣の中に存在する魔石とそっくりな、もう一つの月があった。そうそう、この世界には二つの月があるんだよなぁ。遠視スキルの効果で遠くの物がはっきり見えるようになって(眼帯のおっちゃんの皺まで見えるようになったぜ)月の姿もはっきりと見えるようになり、その異常さが改めて良くわかる。
ここは本当に俺の居た世界じゃ無いんだな……。
とまぁ、感傷に浸っている場合じゃ無い、換金所に行こう。
換金所で出迎えてくれたのはお姉さんのお姉さんの方だった。
「あら、ランさんじゃない。さっきの持ち込まれた物の換金よね」
お姉さんは前回よりも随分と親しく砕けた感じだ。前回の時はもっと仕事仕事していた喋りだったもんな。2度目で少しは仲良くなれたってことだろうか。
しかし換金か……うーん、ラットキングの硬質化した体毛は防具に出来そうな気がするんだよなぁ。
『素材としては何と何になったのだろうか?』
「そうねぇ……」
ミーティアラットの上質な毛皮:81920円(小金貨2枚)
毛皮の傷み具合:▲10240円(銀貨2枚)
ミーティアラットの王冠:40960円(小金貨1枚)
ミーティアラットの肉:1280円(銅貨2枚)
解体代:▲5120円(銀貨1枚)
「って、ところね。残念ながらもう一匹の方は素材になりそうなものが無かったわね」
そっか……無理して持って帰ったのにな。そうそう素材から何が作れそうかも聞いておかないとな。
「そうねぇ、毛皮がもう少し傷んでなければ防刃のマントや防刃のコートに出来たかも。後は王冠から盾が作れそうね。お肉は……ホーンドラットよりは……まだ、美味しいから……」
さ、最後、言葉を濁したよね? やっぱりホーンドラットって無理して食べるものじゃないんじゃあ……。宿屋の女将さんよ、スープの材料にホーンドラットの肉を使うのは間違っていると思いますぜ。
にしても防刃のコートって、てっきり魔法を付与した物かと思っていたんだがミーティアラットの素材から作られたコートだったのか。この毛皮は作って貰いたい物があるから、持ち帰りでっと。
後は換金をお願いします。麻のマントも換金してください。
そして俺は報酬を受け取る。
総計37440円(銀貨7枚、銅貨2枚、潰銭40枚)であった。その場で両替して貰い、現在の所持金は305568円(小金貨7枚、銀貨3枚、銅貨5枚、潰銭36枚)になった。これで明日、服飾店で何かを作って貰おう。
―2―
翌朝。いつものようにいつものスープを飲んで出発です。少し普段のホーンドラットの肉よりも美味しかった気がしたので、多分、ミーティアラットの肉だったんだろうと思う。丁度、昨日に入荷があったはずだしね! つーかね、それでも正直、スープは飽きたんだよなぁ。……しかしッ! 今日は食堂でご飯を食べる予定なので飽きたスープも、それを思えば我慢できるのです。
まずは鍛冶屋だな。
「相変わらず朝がはえぇよな」
朝一番のホワイトさんの言葉である。
『うむ……、ところで』
ホワイトさんは俺の荷物の中に『ある物』が無いことに気付いてため息をつく。
「はあぁぁ……。ま、ま、まさか、またかよぉ……」
そうです、またなんです。またも鉄の槍なんです。
「ちくしょう、自信を無くすぜ……。まるで俺が粗悪品を作っているみたいじぇねえかよぉ」
いあいあ、ホワイトさんの一品は素晴らしい出来だと思いますぜ。ホワイトさんの武器に何度、命を救われたか分からないしな。風槍レッドアイの造りなんて感動ものだしな。というわけで鉄の槍をください。
「たくよぉ、鉄の槍のストックがなくなりそうだぜ……」
『ああ、後、一応、この風槍レッドアイの状態を見てもらっても良いかな?』
ホワイトさんは分かった分かったと頷き風槍レッドアイを受け取る。
そして丁寧に状態を確認し、今度は先程と違うため息を吐いた。
「ぐうぅぅ……。こいつはすげぇな。自分で作っておいて何だが、すげぇとしか言えねぇよぉ。しっかりと自己修復が効いて傷一つないぜ。更に何らかの魔獣の力を吸い込んで武器自体が進化していやがる。以前よりも硬質化しているな。これなら折れたりすることはまず無いだろうしよぉ、更に魔法なんかも弾けそうな感じだぜ」
そ、そうなのか。まさかラットキングとフィーンドダックの力を吸い取ったのか? 話を聞くとそうとしか思えないくらいの関連性だな。良いよ、良いよ、最高だよ。
俺はホワイトさんから鉄の槍を銀貨3枚で購入し、鍛冶屋を後にした。
次は服飾店だな。
「ああ、いらっしゃいませ」
はい、いらっちゃいました。
「前回、お話していたシルバーウルフの素材が大量に入荷しまして、マント以外にも色々な服を提供できるようになりました」
へぇ。まぁ、大量のシルバーウルフって……どう考えてもアレだよね。俺も素材を剥ぎ取っておけば良かったよ。あの時は急ぐことばかり考えていたからなぁ。
ととと、今回はそれじゃないんだった。
『こちらは持ち込みの素材での加工も頼めるのだろうか?』
「はい、服飾に関する物であれば……さすがに鎧とかは無理ですけどね」
大丈夫だとは分かっていたけれど、良かった良かった。
『では、こちらを頼みたい』
俺はラットキングの素材、ミーティアラットの上質な毛皮を渡す。
「これは……ミーティアラットの毛皮ですね。しかも、かなり上質な物ですね。これほどの品は見たことがありません。ですが、素材として使うには使える部分が少ないですね。となると余り大きな物は作れないですね」
うん、そうみたいだね。ということで、だ。
『この夜のクロークと一緒に使えて、首回りを守るような物が欲しいのだが、どうだろうか?』
俺の言葉に店員さんは考え込む。いやまぁ、考え込んでいるのは俺に首回りがあるのか? と疑問に思ったからじゃ無いよな。無いはずだよな?
「そうですねぇ……。これだとストール……、いえ、スカーフが良いでしょうか。お客様のクロークは前を閉じるタイプですが、その中から外に出すような形で首に巻くと良く似合うと思います」
よし、じゃあ、それで。
「では加工代として327680円(金貨1枚)……いえ、163840円(小金貨4枚)戴きたいと思います」
ふむ……安くなった理由はなんだろうか。
「そうですね。上質な素材なので加工がし易そうだというのが一つと、これほどの素材を使わせて貰えるというのは職人冥利に尽きるというのが加工費用を安くした理由ですね」
思っていたよりも職人魂に溢れる人だったんだね。というか、てっきり接客専門の店員さんかと思っていたんだけど、あなたが作成もしていたのか……。
とりあえず小金貨4枚を渡し作成を依頼する。こちらは二日ほどで完成するそうだ。槍の作成よりも早いなぁ。
さてと、それじゃあ冒険者ギルドに行って、久しぶりにクエストを受けますかッ!
4月22日修正
こちらは二日ほど完成する → こちらは二日ほどで完成する