8-10 犬頭たちの理由?
―1―
ユエが先頭に立ち、その後を皆がついて行く。あー、非戦闘員のユエが先頭で大丈夫なのかな?
「ちょっと待った。俺が先行するんだぜ。侍さん、あんたの実力が確かなのは知っているから、しんがりを頼むんだぜ」
俺が気にしたからか、キョウのおっちゃんが先行してくれるようだ。その後をゼンラ少年がついて行く。何だろう、無表情で感情がないように見える少年だな。容姿が整っているだけに人形的というか、生きているという感じがしない。
ま、キョウのおっちゃんに任せておけば大丈夫か。ミカンが俺と一緒に、前回、この城を探索しているから、主な部屋の配置は分かっているはずだしね。
俺はどうしようかなぁ。このままここで魔素を変換し続けるのもアリだと思うし、皆と一緒に探索するってのもアリだよなぁ。むむむ。
「フルールは急いでいるので先に行くのですわぁ」
「あ、俺も行きまーす」
俺がそんなことを考えていると犬頭の2人が列から外れ、バタバタと駆け出した。この犬頭どもは、団体行動も出来ないのかよッ!
「お、おい待つんだぜ」
犬頭の2人はキョウのおっちゃんの制止も聞かない。やれやれ、仕方ないなぁ。
『自分が、あの2人の面倒を見よう』
俺は天啓を飛ばし、キョウのおっちゃんの横を駆け抜ける。
「マスター、私も……」
「にゃ」
14型がついてきたいのか、声を上げるが、その下にいる羽虎は動こうとしなかった。まぁ、お前はちゃんと、ゆっくりと時間をかけて自己修復してなさい。
屋上から下に通じる螺旋階段に入り、少し進んだところで2人は見つかった。
「暗いですわぁ」
「ぐわぁぁ、罠かー、暗闇がー」
……はぁ。何やっているんだ、この2人。
俺は魔法のカンテラを取り出し、先程、倒していたワーカーアントの魔石を入れる。俺だけなら《暗視》スキルがあるから、灯りってば、要らないんだけどな。ちょっともったいない気もするけどさ、仕方ない。
魔法のカンテラからほのかな光が溢れ、犬頭達を照らし出す。
「あ、チャンプ」
「明るくなりましたわぁ」
この脳天気な2人を見ているとため息しか出ないよ。にしても、こうも暗いのはダメだな。何とか、灯りを確保しないと、拠点として使うにしても不便でしょうがないよなぁ。その辺は後で皆と相談するか。
『あまり、単独行動をするな』
俺が天啓を飛ばすと二つの犬頭は、さも心外だと言わんばかりの表情を作った。
「理由があるのですわぁ」
「そーだよ」
はぁ、そうですか。くだらない理由だったら許さないんだからな。
『どんな理由だ?』
「フルールが育てた炉の定着ですわぁ!」
フルールが大きな声を上げる。お前……、
「あのごたごたの中、これだけは持ってきたのですわぁ!」
なかなかやるじゃないか!
「炉の火が弱くなる前に、定着出来そうな場所を探さないと不味いのですわぁ」
確かに、それは、急がないと不味いな。
よし、もう1人の犬頭の理由は分からないが、そちらを優先しよう。
えーっと、何処か良さそうな場所とかあったかなぁ。むむむ。
あ! そうだ、あそこならいいんじゃないか!
『フルール、自分が案内しよう』
案内するのだ。
――[ハイスピード]――
フルールに風の衣を纏わせる。さすがに、いくら急いでいるからと言っても《飛翔》スキルでフルールを引っ張ることは出来ないからなぁ。
さぁ、行くぜ。
「はわわわ、チャンプ、置いてかないでくれよー」
何だか、もう1人の犬頭が叫んでいた。
―2―
謁見の間を通り過ぎ、螺旋階段に入り、そのまま下へと降りていく。
そして、やって来ました、魔族の実験室跡。ふははは、フルールにはお似合いの部屋であろう!
「コレは……陰鬱な部屋ですわぁ」
フルールさんにはお似合いだと思います。
「何やらゴチャゴチャしてゴミが一杯ありますわぁ」
まぁ、魔族の実験施設だったみたいだかなぁ。でも、ゴミではないと思うぞ。
「片付けたら、結構な広さみたいやし、もう、ここでいいですわぁ」
フルールが何か小さな四角い箱を取り出し、床に設置する。
「後はこちらでやりますわぁ」
フルールはよく分からない作業に没頭している。まぁ、これで後は任せても大丈夫か。これで鍛冶施設は何とかなりそうだな。まぁ、道具類がないから、その辺は、いずれなんとかしないと不味いんだけどな。
じゃ、戻りますか。
フルールを放置して謁見の間の方まで戻ると、皆が集まっていた。
「あ! ラン様、とりあえず、こちらを拠点にするようです」
大柄なファリンがこちらに手を振りながら、話しかけてきた。
「はい、そうですね。慌てていたため、余り道具類や食料を持ち込めなかったのが難点ですが、それでも、とりあえずポンさんに食事の準備をして貰っています」
そう言いながらもユエは腕を組んで唸っていた。なるほど、前回の女神の休息日の時に用意して地下世界の入り口に置いてた物を持ってきたのか。その辺はちゃっかりしているな。よくもまぁ、俺が転送させる前に確保したものだよ。
『ユエ、必要な物があれば取ってくるぞ?』
そう、俺なら《転移》スキルを使って、いつでも帝都の元本社まで戻れるからな。こちらに戻るのもコンパクトを使えば一瞬だし、楽勝、楽勝なんだぜー。
「はい、その時は頼みます。ただ、今はまだ危険だと思いますので……」
なるほどな。後は、心配なのは……、
『ファットは……』
そうファットのことが気になっていたんだよな。あいつはまだ船の上だしさ、今回のことを知らないワケじゃん。帝都に戻ってきたら大変なことになっていた――じゃあ、すまないよなぁ。
「あの馬鹿は、あれでしっかりしているので、大丈夫だと思います」
ユエはファットのことを信頼しているんだな。
「にゃう」
それを聞いていた羽猫が何故か話に割り込むように鳴き声を上げた。あ、羽猫に戻っているじゃん。となると――14型は床に無残にも転がされていた。何だろう、無表情なのにぐぬぬって感じのオーラが出ているのを感じる。ま、まぁ、休んでなさい。
『ところでスカイを見なかっただろうか?』
「何やら、1人になれる場所を探して、何処かへ行きました」
ユエも行方は分からないようだ。
「灯りが欲しいって言っていたから、貸したんだぜ。下の階に降りていったようなんだぜ」
キョウのおっちゃん――そんな灯りを貸すだなんて、スカイ君に気を遣う必要なんてないのに。まぁ、下の階に行ってみますか。
ホント、うちの犬頭どもは好き勝手なことばかりするなぁ。