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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
8  二重螺旋攻略
656/999

8-8  新天地へ

―1―


――《スパイラルチャージ》――


 赤と紫の螺旋を描いた真紅妃が蟻の顎を打ち砕く。えーっと、これで何匹目だ? もう数えるのも馬鹿らしくなるくらいの数の蟻を倒していく。


 蟻1匹でMSPが1+《早熟》分の8で9増えるんだよな。耐性スキルを全部上げるには1,200×残りの3属性で3,600もMSPが必要っと。

 一日に倒せる蟻の数が大体30匹ほどだから、一日に稼げるMSPは270+魔石分の30で、ちょうど300か。

 4日で一つあげきれる計算だから、残り三つは、(この世界は8日で一週間だから)一週間と4日で終わる感じだな。


 まぁ、すぐと言えば、すぐに終わる日数だな。


 ここ最近、駆け足で進みすぎたからな。こうやって、ゆっくりと自分を強化していく時間も必要だろう。

 これでGPも貰えたら最高だったんだけどなぁ。何故か、冒険者ギルドが蟻退治のクエストを取り下げたからな。まぁ、それで不人気になったおかげで、俺しか狩りに来ない、専用の狩り場になったってワケだけどさ。


――《スパイラルチャージ》――


 はい、これで何匹目だ? まぁ、黙々と狩ろう。今の俺には出来ることがない。


 結局、あの後、俺は何も出来なかった。


 学院が復興するまで試験はなし、復興を手伝おうにも国の事業だから、と一介の生徒には何も出来なかった。

 セシリア姫はセシリア姫で魔族対策で忙しく、一個人としての俺では何もすることがない。俺が何かしようとしても邪魔をするだけだ。

 紫炎の魔女は、未だステラが連れ去られたことも知らず、前線で戦っているそうな。


 そのステラの救出は魔族の戦いが落ち着くまで行われないらしいし、俺がそれを申し出れば、エミリアの親父さんのゼーレ卿に「場を混乱させないで欲しい」と必死で止められるしさ。


――《スパイラルチャージ》――


 えーっと、これで……。


 だから、俺はノアルジ商会として手助けしようとしたら、商会のフエに「敵国を手助けするつもりですか」って無茶苦茶怒られるし、ユエにすら「いくらノアルジー商会が神国にまで手を伸ばしていると言っても、本社が帝国にあることは知っているはずです、そんな商会からの手助け、受けられると思いますか」なんて言われてしまうしさ。いやいや、でもさ、俺とセシリア姫は友人なワケじゃないか。それなら、話は上手くいくんじゃないかなぁって思ったんだけどな。


 はぁ……。


 八大迷宮を攻略しようにも、まだファットが戻ってこないから『二重螺旋』には挑戦出来ないし、雨期が来るまで『名を封じられし霊峰』には挑戦出来ないし……あー、もう!


 何だろうな。知り合いも増えて、大きな商会も持って、俺、結構、凄くなったつもりだったのにさ、結局、何も出来ないじゃないか。


 こうやって蟻を退治しているだけなんてさ。


――《スパイラルチャージ》――


 これで、300匹目かな?


 はぁ、今日のノルマ達成!


 ……商会の自室に戻るか。




―2―


 迷宮の外に出る。いつものように迷宮を見守っている兵士の人に挨拶しようとして、その姿が見えないことに気付く。あれ? いくら寂れた迷宮でも、女神の休息日のことがあるから、誰かがいるはずなのに? どういうことだ?


 そして、帝都の方を見て、俺はその理由に気付いた。


 何だ……? 外壁で余り良く見えないが、帝都の方から火が、煙があがっていないか? あれは帝城の方か?


 おいおい、どういうことだ?


 魔族の襲撃か? それとも魔獣の襲来か?


 と、とにかく、急ぎ本社に戻ろう。そして、状況の確認だな!


――《転移》――


 《転移》スキルを使い飛び上がり、そのまま本社前に降り立つ。空中から見たが、やはり、帝城から火の手が上がっているな――の割には、何かに攻撃を受けている様子もなかったが、どういうことだ?


 とりあえず本社に入るか。


「ラン様……ですか?」

 と、そこで声がかかった。俺が声の方に振り返ると、そこには鍛冶士のフエがいた。お、ちょうど良いところに。


『フエ、現状を教えてくれ。何がどうなっている?』

 帝城からは火の手が上がっているし、本社は静かだし――いや、この帝都自体が静かだしさ、何がどうなっているんだ?


「ラン様、どうやって、この中に入ったんですか?」

 どうやって、て、《転移》スキルでぴょーんと。


『フエ、状況を教えてくれ』

 俺が飛ばした天啓を無視してフエは何か独り言を呟いている。

「何故、ラン様が……いや、これで良かったのか……?」

 何を言っているんだ?


『フエ、もう一度聞くぞ。状況を教えてくれ』

 やっと俺の天啓が届いたのか、フエは大きなため息を吐いて、それに答えていた。


「ラン様、現状を説明する前に、こちらへどうぞ」

 フエが俺の前を通り過ぎ、本社へと歩いて行く。何だ? いったい、何が起きているんだ?

「ラン様、こちらです。時間が余りありませんから、急いでください」

 フエは本社の前に立ち、焦ったように催促する。あ、ああ。何かが起こっているのは間違いないようだな。




―3―


 フエの案内で本社の中を歩いて行く。人の気配がない。静かなものだ。


 えーっと、この先は、地下室か? 何か、地下世界(アンダースフィア)に用があるのか? まさか、また女神の休息日みたいなことが起きているのか?


「さあ、ラン様、中へどうぞ」

 フエがフルールの作った豪華な装飾の施された扉の前に立つ。やはり女神の休息日みたいなことが起きているのかな?


 俺が中に入ると、そこには……、


「ははは、旦那、ランの旦那なんだぜ」

「ラン様!」

「オーナー!」

「主殿!」


 傷だらけで座り込みながらも、何かをかばうようにしているキョウのおっちゃんと、ナリンから戻ってきたばかりのファリンとミカン、それにユエと、その子ども達の姿があった。


「チャンプぅー」

「なんなんですのぉ」


 あ、スカイ君やフルールもいるな。疲れ切った顔のクニエさんやポンちゃんの姿も見えるし、他にも商会の人間が居るようだけど、どういうことだ?


 後は――14型と羽猫の姿が見えないが、何処だ? それにキョウのおっちゃんが負傷してるのが……。


――[キュアライト]――


 とりあえず癒やしの光を発動し、キョウのおっちゃんの負傷を治す。

「助かったんだぜ」

 キョウのおっちゃんが苦笑いしている。


『これは、どういうことだ?』

 俺の天啓にフエは再度、大きなため息を吐いた。


「ラン様、ご説明しますよ」

 あ、ああ。


「この帝国は、帝都は腐りきっていた」

 うん? いや、何か大きな話になってますか? ま、まぁ、俺も八常侍には会ったことがあるけどさ、無駄に贅沢をして、私腹を肥やしているゴミ虫だとは思ったけどさ。


「その原因の八常侍も! 腐りきったままにしていたゼンラ帝も! それに取り入って甘い汁を吸っていた貴族も!」

 む?


「ついにフロウ様が立ち上がったんです。そう、国が変わったんですよ」

 ど、どういうことだ? フロウの名前が何で、ここで。


「明日には帝城の前に八常侍の豚どもの首が並べられるでしょう」

 いやいや、どういうことだってばよ。


「ラン様が持っている貴族の証も、今ではただのゴミですよ」

 へ? 俺はキョウのおっちゃんの後ろを、そのかばっていた人物を見る。


 幼さを残した少年が怯えたように座り込んでいた。ま、まさかッ!


 ゼンラ帝!


 そうか、キョウのおっちゃんはゼンラ帝を連れて、何とか帝城から逃げ延びたのか。そして、俺の元に、助力を求めて来たところを、このフエに捕まったのか?


「ラン様、確かに、この商会、ノアルジー商会はラン様の商会でした。ですが、ラン様は、それに相応しくない」

 いやいや、相応しい相応しくない以前の話じゃね? だって、ノアルジ商会は俺が作った、俺の商会だしさ。


「ラン様、ここに居るのは、俺が商会を引き継ぐことに納得しなかった者達です。この革命が終わるまで、ここで大人しくしていてください」

 フエは何を言っているんだ?

『フエ、何を言っているのか分かっているのか?』

 フエは俺の商会を乗っ取るつもりってワケか。


 ……。


 俺を、俺の力を甘く見すぎていないか? 今は回復したキョウのおっちゃんもいるし、侍マスターのミカンだっているんだぞ?


「分かってます」

 フエは再度、大きなため息を吐く。


「ラン様のお力も分かっているつもりです。後ろの方々も。その方々が何故、大人しくここに居ると思っているんですか」

 言われてみれば、確かに。

「ラン様を待っていたというのもあると思います。ですが、それ以上に無駄だということが分かっているからだと思いますよ」

 無駄?


「国が変わるんですよ。ここで俺を討ったとしましょう。ですが、その先、どうしますか? もう商会はないんですよ。後ろ盾の国もないんですよ? 後はお尋ね者として追われ続けるだけですよ?」

 ノアルジ商会が……ない?


 ユエの方を見れば、ユエとファリンが悔しそうに拳を握りしめていた。


 どうする、どうする?


 フエの言うことが間違っていないなら、俺に、俺たちに――確かに、俺たちには何も手が無い。


 ……。


 いや、待てよ。俺は、再度、ユエの方を見る。


『ユエ、先程、フエはお尋ね者になると言っていたが、それはフエを殺したり、この商会に固執して取り戻そうとしたり、新しい国に反逆しようとした場合のみであっているか?』

 ユエに限定して天啓を飛ばす。


 ユエは、大きな猫目を見開いて俺を見る。そして、ゆっくりと頷いた。


 そうか、それなら、まだ手段はある。


『すまない、14型とエミリオの姿が見えないが、何処だろうか?』

 俺の天啓にフエは大きくため息を吐いた。

「ラン様の従者の方ですか。恐ろしい方ですよ、剣聖様と戦って命があるんですから。上で休んでますよ」

 14型が戦った? しかも、あの剣聖のじいちゃんと? つまり剣聖のじいちゃんはフロウの側ってコトか?

『連れてきて貰えないか?』

 俺の天啓にフエが首を横に振る。

「動けない状況みたいですから、無理ですね」

『側にエミリオがいるなら、エミリオに言えば連れてきてくれるはずだ』

 俺が再度、天啓を飛ばすと、フエは疲れたようなため息を吐き、「少し待っていてください」とだけ言葉を残して、扉の外へ出て行った。




―4―


 さて、と。


 俺は皆を見回す。


 今はフエが居ないから自由に話せるな。

「ラン様、フエは、フエで仕方ないのです」

 ユエがぽつりとこぼす。

「フエは、フエのやり方で、この商会を残そうとしているんだと……思います」

 この国の上がフロウに変わって、その時に、俺が大商会のオーナーだと都合が悪いんだろうな。そりゃあ、敵国である神国と仲の良いオーナーが、自分の国の中にいたら、面白くないだろうな。


 落ち着いて考えてみればさ、皆が無事なコトや、フロウに差し出せば恩賞が貰えるであろう、キョウのおっちゃんやゼンラ帝が、ここにいることでさ、俺だって分かるよ。


 分かるけどさ、むむむ。


『皆に聞きたい』

 皆が俺に注目する。俺は聞かなければならない。


『新天地で、新しく商会を、新しい国を作る。それについて来てくれる者は俺の周りに集まってくれ。それが無理な者はフエについてやってくれ。アイツも悪い奴では無いはずだ』

 反逆者にならずになんとかするには、これしかないか。指名手配されて、何も出来なくなるよりは、な。


 俺の周りに人が集まっていく。キョウのおっちゃんやゼンラ帝、ユエやファリン、何かごそごそとかき集めているスカイやフルール、それにミカンやポンちゃん、クニエさん。その他にも商会の人間の多くが俺の周りに集まってくれた。


『ありがとう。それでは皆で手を繋いで貰っても良いだろうか?』

 皆で手を繋ぎ、フエを待つ。


 しばらくすると体中が折れ曲がったままうすら怖い笑顔を浮かべている14型をのせた羽虎のエミリオとフエがやってきた。

「マスター、お帰りなさいませ。無様な姿をさらして申し訳ありません」

 14型さんの能面のような笑顔が怖いです。まぁ、喋れるってコトは自己修復が効いているってコトだろうから、そのうち、元に戻るか。


「ラン様、連れてきましたよ。それで、どうするんですか?」

 フエはもう一度、大きなため息を吐いた。


『フエ、この商会はお前に任せる。ノアルジ商会の名前は今日で終了だ。お前の商会として頑張ってくれ』

 俺の天啓を聞いたフエが驚いた顔でこちらを見る。

「ラン様……? 何を言って……?」

 言葉通りの意味だよ。


『エミリオ、こちらに来い!』

 エミリオがこちらに飛んできたのを確認して、俺はコンパクトを開く。


 その瞬間、風景が変わった。


 そして、俺たちは、一瞬にして氷で作られた城の上に移動する。

「ラン様、ここは?」

 ユエたちが驚いたように周囲を見回している。


『新天地だ!』

 ま、準備が出来なかったのは残念だが、仕方ない。また1からやり直すだけだ!

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