7-75 二つの塔試練の間
―1―
室内でバーン君達が料理を始めた。いや、迷宮内で料理ってどうなんだ? よく分からない魔法具で火を起こし、干し肉を焼き、それに何かの香辛料をまぶしている。
伸びた長髪を後ろでまとめたバーン君は楽しそうに料理をしている。バーン君、料理とかするキャラだったのか……。
「何だ、気になるのか? Aランクともなれば、こういった準備も怠らないわけだ」
バーン君は得意気だ。
バーン君が料理を始めた所辺りで興味が無くなったのか、羽虎が、ぽんと羽猫に姿を戻した。そして、そのまま部屋の端っこまで歩き、丸くなる。こいつは何がしたかったんだろうなぁ。
「今回は一月分の準備をしてるからなぁ」
狩人のレーンさんがぼやいていた。一月分って凄いな。
「ほらよ、レーン、お前の分だ」
バーン君がレーンに出来たての焼き干し肉とスープを取り分けていた。
「俺は、MPが多いからな。こうやって大量の荷物が運べるわけだ」
バーン君は得意気だ。
「もぐもぐ、そこはバーンすげぇと思うよー。荷物持ちとして優秀なんだぜー」
レーンの横からウリュアスが手を伸ばし、焼いた干し肉に噛みついていた。
「ちっ。だから、俺は紫炎のバーン様だ。呼び捨てにするんじゃねえ」
バーン君、ウリュアスから舐められてないか?
『MPと荷物の量に何の関係があるのだろうか?』
そこ、気になるよな。
俺の天啓を受けたバーン君パーティの面々が驚いた顔でこちらを見る。
「お前、どこの冒険者ギルドの出身だ?」
え? それ重要なのか?
『ナハン大森林だが』
それを理解した全員が納得顔になった。
「ナハンかぁ」
「ナハンなんだぜ」
「かよ」
え? どういうことですか?
「先輩冒険者として、俺が――このAランクの紫炎のバーン様が特別に教えてやる」
さすが、バーン様、偉そうだ。
「持つことが出来る魔法の袋の総量は登録したヤツの最大MPに依存している」
へ?
「普通は途中で登録出来なくなって気付くんだけどなぁ」
バーン君とレーンさんは呆れたようにこちらを見ている。
え?
それ、俺、初めて聞いたんですけど……。
俺、普通に魔法のウェストポーチXLとか持っているよな? 他にも沢山、魔法の袋を……。これ、俺が最大MPが多かったからなのか? だから、商人さんたちが魔法の袋を商品の搬送に使ってなかったのか。使わないのではなく、使えなかったんだな。
いや、でも、待てよ。
それだと説明がつかないことがあるぞ。俺の最大MPが減っていた時に魔法のウェストポーチXLを登録したよな? あれはグレイさんと魔人族を倒した時に手に入れた物だしさ。おかしくないか?
バーン君達は、それが常識だと納得しているけどさ、他にも何か関係することがありそうだな。まぁ、それが何かは分からないんだけどな。
まぁ、考えても仕方ないし、俺も食事にするか。といっても調理道具や素材は全部、14型に持たせていたからなぁ。
「ほら、お前の分だ」
バーン君が何故か、俺の前にスープの器を置いた。
「ちっ。普通は、パーティ外の他のヤツらの面倒なんて見ない。が! お前のせいで用意した食材が余りそうだからな」
バーン君……。
――[アクアポンド]――
床に水溜まりを作る。いや、ホントは地面じゃなくてさ、真銀の器とかに作りたいんだけどさ、全部、14型が持っているからな。
『水はこちらで用意しよう。好きに使ってくれ』
俺が作った小さな池のように広がった水溜まりを見て、全員が驚く。これ、不思議なんだけどさ、空間を削っているワケじゃ無いんだよな。空間を削るんだったら、それこそ、迷宮に穴を開けることが出来るワケだしさ。
よく分からないが池を作る魔法なんだろう。
「驚いたな。最近はやりのノアルジー商会製の水を作る魔法石か? あれは、結構、高かったと思うんだけどな」
「あー、芋虫ちゃん、自分のところだからかー」
―2―
休憩を終えたバーン君たちが出発の準備を始める。
「じゃあな。ラン、忘れるなよ。12時だ、12時。それと、この迷宮を攻略したら、ちゃんと冒険者ギルドに報告しておけよ。ふん、お前がBランクに上がるのはしゃくだがな」
うん? どういうこと? まさか、八大迷宮を攻略したらBランクに上げて貰えるのか? ま、まさか、そんな……。俺、世界樹も、世界の壁も、名も無き王の墳墓も、攻略したんだけど……嘘だろ。
ま、まぁ、後でスカイ君に聞いておこう。
バーン君たちが出発してから、しばらく経って、14型が復活した。
体がぴくぴくと動き、そして跳ねるように起き上がった。そして、能面のような無表情はそのままだが、小憎たらしい、こちらを小馬鹿にしたようなオーラが漂い出す。あー、再起動完了ですか。
眠ったままの14型はバーン君たちも、ちょっと気にしていたからな。俺が、疲れて眠っているだけだから気にするな、とは言っておいたけどさ。
「マスター、思い出したのです!」
14型が大きな声を上げる。隅っこで丸くなっていた羽猫がうるさいなぁと言わんばかりにぺちぺちと床を叩いていた。で、何を思いだしたのかね。
「地下世界の探索を再開するのです」
いや、だから、今はそれどころじゃないだろう。
『14型、忘れたのか? そこには大きな扉があって、お前の力でも開くことは出来なかっただろう?』
俺の天啓を受け、14型がハッとしたようにこちらを見た。
「……そうだったのです。記憶力の乏しいマスターに指摘されるとは、まだ私はシステムに異常をきたしているのかもしれません」
はいはい、そうだね。
『14型、先程、冒険者のバーンたちが来ていた。この扉の向こうには、左右の塔で同時に倒さないと復活してしまう魔獣がいるようだ。今は、バーンたちと連携をとって突入するために準備しているところだ』
「了解です。では、マスター、休憩になさいますか?」
なさいません。もう食事も終わった所だからな。
『14型、この先は、先程までと同じスキルが使えないエリアだろう。お前の力が頼りだ』
俺の天啓を受けた14型がスカートの端を掴み、優雅にお辞儀した。
―3―
ステータスプレート(螺旋)の時間は11:58になっていた。
さあて、突入の時間だな。
待ちくたびれたぜー、てなもんだ。
『14型、時間のようだ。行くぞ』
14型が頷き、ローブを着た宇宙人が描かれた扉に手をかける。そして、そのまま押し開けた。
さあ、行くぜ。
扉を抜けると、今までと同じように視界がぼやけ、スキルが使えなくなった。そして、その様子を確認したであろう14型が、すぐに俺を持ち上げる。もう抵抗するのも諦めたよ……。
扉の先は螺旋階段になっており、深く、暗い、怪しい雰囲気を放っていた。あー、ホント、ラストって感じだな。
螺旋階段を抜けると、かなり広い部屋に出た。メチャクチャ広いな。野球とか同時に三試合くらいは出来そうな広さなんだぜー。
そして、その室内の半分を仕切るように透明な壁があった。うん? どういうこと? 透明な壁の向こう側にも階段が見える。あー、もしかして、ここ、隣の塔と繋がっているのか? でも、隣の塔、倒れていたよな? 大丈夫なのか?
俺を担いだ14型が広い室内を歩いて行く。結構、明るいな。謎の光源があるのだろうか? でも、敵というか、魔獣の姿が見えないな。それに12時を過ぎたのにバーン君たちが現れる気配がない。どうしたんだ?
「マスター、下です!」
そこで14型が叫んだ。へ? 下? 下は床だぞ?
その瞬間だった。
足下の床が割れ、崩れ落ち、俺たちの体が宙に投げ出される。
《魔法糸》を……は、使えないんだった!
14型が俺を担いだまま、崩れ落ちていく床を蹴り、飛ぶ。
そして、何かの背中に着地した。
何か巨大な物がとぐろを巻くように空に浮かんだ状態で動いている。そして、その生き物の下は、シェルターのあった部屋の外にあった液体で満たされていた。おいおい、落ちたらじゅわじゅわーっと溶かされるって感じなのか。
巨大な何かが、体をくねらせ、その顔をこちらへと向ける。
それは東洋風の蛇のような龍だった。巨大な龍が体をくねらせ、謎の液体の上を飛んでいる。ま、ま、まさか、この龍が同時に倒すべき魔獣?
いやいや、スキルも使えないのに、こんな落ちたら死ぬような場所で、これと戦うのか? バーン君、これを2人で倒すつもりだったのかよ。無謀すぎるだろ……。
巨大な龍が目を光らせる。
元の階段までは戻れそうも無いし、はぁ、倒すしかないよな。しかも、復活しないようにバーン君と連携を取ってか。まぁ、透明な壁があるだけで向こうの様子は見えるからさ、同時に倒すのは何とかなるか。
未だ現れないバーン君達が心配だけどなッ!
2016年11月4日修正
さすが、 バーン様、偉そうだ → さすが、バーン様、偉そうだ