7-74 二つの塔魔法側下層部
―1―
ぺちぺち。
俺のほっぺ部分を誰かが叩いている。誰だよ、またエミリオか?
俺が目を開けると、そこには、何故、ここにいるのか分からない、見知った顔があった。
「ちっ。やっと起きたかよ。芋虫、状況を説明しろ」
そこにいたのはバーン君だった。あれ? 何でバーン君がここにいるんだ? 神国に渡っていたんじゃないのか?
バーンの他にもごつい弓を持った狩人の人、杖を持った幼い少女、探求士3姉妹の……えーっと、次女のウリュアスか。
何で、その4人がいるんだ?
『バーンか。神国に渡っていたと思っていたが』
俺の天啓を受けたバーンが長髪を掻き上げていた。
「お前は! 紫炎のバーン様だ。ちっ、相変わらず馴れ馴れしいヤツだ」
『それなら、自分も芋虫ではなく、ランだ』
バーンが長髪を掻き毟る。
「俺よりも下のランクのヤツが……ちっ。神国での探し物――目的の物は見つかったからな。辺境伯の依頼の方はいつの間にかノアルジーのヤツが……いや、それは今は関係が無い。ラン、こちらが聞いている側だ、答えろ。状況を説明しろ」
探し物? バーン君は何を探していたんだろうか? それにしてもバーン君って、俺がノアルジと同一人物って知らないんだったか。うーむ、うーん。
で、状況だよな? 俺の方が説明して欲しいくらいだよ。
『妖精の鐘を手に入れ、八大迷宮の一つ『二つの塔』に挑戦して眠りの罠にかかったところだと思うが』
俺の天啓を受けたバーンが大きなため息を吐いた。
「はぁ、そういうことかよ。そこの眠っている神国の女に、そこの神獣、そしてお前。妖精の鐘の3つはお前が持っていたってワケか。ちっ、見つからないワケだ」
ん? 3つ? それに神国の女って、14型のことか? 何故か羽猫も羽虎になってるし……何だ、何だ。眠っている間に何があったんだ?
『いや、持っている妖精の鐘は一つだけだが?』
俺の天啓を受けたバーンが驚いたように、目を剥いてこちらを見た。
「お前は何を言っている……。パーティの人数分の鐘が無ければ、『二つの塔』には辿り着けないはずだ」
あー、だから、バーン君のパーティは4人なのか? って、ことは4つも妖精の鐘を持っているのか?
『バーンは4つも妖精の鐘を持っているのか?』
「ちっ。理解力の無い、いも……ちっ。その通りだ。その為に俺が神国に行って、普通では入り込めない魔法学院から手に入れてきたんだろうが」
ん?
んん?
今、バーン君、なんとおっしゃいました? 魔法学院から妖精の鐘を手に入れたと言ったのか? う、嘘だろ。俺、魔法学院に通っているんだぜ……。探し物が、そんな、足下に、あった、なんて……。
「魔法が使えない塔を苦労しながらも――いや、余裕で、だ、あらかた終えて、スキルの使えないこっちの塔に来てみれば、魔獣に出くわすこともなく、仕掛けもなく、お宝もなく、行き着いた先にはお前が寝転がっていた訳だ」
「足手まとい……」
バーンの言葉に魔法使いの少女が杖を両手でもって落ち込んでいた。あー、もう一つの塔は魔法無効なのか。そっちの方が俺には向いていたかもなぁ。《変身》も使えるしさ。って、いやいや、魔法が使えなかったら、今だと攻撃の決定打が……。《変身》しても人間の手足があって、魔法が強化されるくらいだから、余り意味がないし、むしろ弱体化しているようにしか思えないし、そっちはそっちで大変だったかもなぁ。
「こちらの攻略を見越して、少ない枠にセッカを入れたのが無駄になるとはな!」
「無駄……」
バーンの言葉に魔法使いの少女がさらにショックを受けていた。おいおい、泣かすなよ?
にしてもバーン君はちゃんと塔の情報を手に入れてきているんだなぁ。
『バーンは塔のことに詳しいようだな』
俺の天啓を受けたバーンが呆れたように舌打ちをしていた。
「俺を誰だと思っている? Aランクの冒険者、紫炎のバーン様だぞ? Aランクだからこその伝手を使っての情報収集、そして文献を読み解き、攻略出来ると確信出来たから、今、ここにいるんだぜ」
Aランクは伊達じゃないってか。
「その数年の苦労を、あっさり乗り越えたムカつくヤツがいるようだがな」
誰のコトでしょう。
「下水の芋虫ちゃーん」
俺がバーンと話し込んでいる横からウリュアスが声をかけてきた。
「おい、俺が話を……」
「バーン、話長過ぎなんだぜー」
「だから、俺を誰だと……」
「でさー、この罠を解除したのって下水の芋虫ちゃん?」
バーンを無視してウリュアスが話しかけてくる。
『ああ』
俺の天啓を受けたウリュアスが転がっていた毒針を手に取り、クルクルと回す。
「よくこんな物で罠を解除しようと思ったんだぜー。解除道具なら探求士のギルドで売ってるから買っておくといいんだぜー。その際は、ウリュアスから聞いた、上物をくれって言うんだぜー。じゃないと安物を掴まされちゃうからね」
なるほどな。ありがたい情報だ。
「ノアルジー商会の芋虫ちゃんなら余裕で払える金額だと思うんだぜー」
あ、結構、お高い感じなんですね。
「あ、中に入っていた小瓶は渡しておくんだぜー。これは芋虫ちゃんの物だよ」
ウリュアスから陶器製の小瓶を受け取る。あ、こっちも小瓶なんだ。
【鑑定に失敗しました】
で、やはり鑑定は出来ない、と。
「おい、今、ノアルジーのことを言ったか?」
と、そこでバーン君が話しに割り込んできた。それを大きな弓をかついだ狩人の人が大きなため息と共に見ていた。
―2―
「危険な魔獣の排除、通路の確保が出来れば、スキル禁止の塔を俺とセッカが、魔法禁止の塔をレーンとウリュアスで挑むつもりが、お前の登場で狂ったぜ」
言葉とは裏腹に、バーンは楽しそうな顔でこちらを見る。
『どういうことだ?』
俺の天啓を受けたバーンは、楽しそうな顔が一瞬で不機嫌そうな顔に変わった。
「それすら知らずに来ていたのか、こいつは!」
あ、はい。すいません。
「お前は! ちっ。それで、よく今まで生きてこられたものだ」
あ、はい。よく言われます。
「ここから先は最後の扉を守っている魔獣がいる。塔ごとに、だ。そして、そいつらは二つの塔で同時に倒さないと、もう一つの塔の魔獣が、倒した魔獣を甦らせるようになっていやがる」
へー、そうなんだ。魔族が使っている復活する魔獣と似ているな。俺のスリープ、ナイトメアコンボでなんとかならないかなぁ。
「この塔を、ここまで攻略したのはお前だ。ちっ。だから、譲ってやるって言ってるんだよ」
うん?
「あー、紫炎のバーンさまーは、照れ屋だからー、俺たちが魔法禁止の塔を分担するから、一緒に攻略しようって言っているんだよ」
大きな弓を担いだ狩人のレーンさんが補足してくれた。なるほど、そういうことか。
「レーン、てめぇ。な、何を言っていやがる」
バーン君、俺様なツンデレだもんなぁ。
『分かった。受けよう』
「ちっ。下位ランクのくせに返事だけは大物だな」
バーン君が腕を組んで横を向いている。あ、でもさ、バーン君が受け持つのって魔法禁止だろ? 魔法使いの少女は大丈夫なのか?
『そちらには魔法使いがいたと思うのだが、大丈夫か? 何なら、こちらで受け持つが』
俺の天啓を受けた魔法使いの少女はショックを受けたように俺とバーンを見比べていた。
「芋虫のラン、馬鹿にするなよ。俺が俺のパーティメンバーを手放すと思うか?」
はいはい。バーン君が守るなら安心だな。
『で、どのタイミングで突入するのだ?』
魔獣を同時に倒さないとダメなんだろ? タイミングが重要だよな。
「ちっ。まずは休憩させろ。さすがに疲れた」
バーンが座る。
「お前もステータスプレートは持っているだろ? その時刻が――明後日だ、明後日の12時に突入する」
明後日!? そんなにも! この迷宮の中で待たないとダメなのか……。
ま、まぁ、14型が復活するまで待たないとダメだったから、ちょうどよいのか? いや、俺がどれくらい寝ていたか分からないからさ、今にも14型が目覚める可能性だってあるワケだよな。
うーむ。
まぁ、でも待つしかないか。
にしても、バーン君たちがこっちに来ているってコトは、向こうの塔は、殆ど攻略が終わっているってコトだよな? あー、お宝がー。先に向こうから手をつけるべきだったかなぁ。いや、でも、それだと途中でバーン君たちと鉢合わせしていたか。
あー、でも、お宝……。