7-73 二つの塔魔法側下層部
―1―
14型が、珍しく慎重に2体の白い巨人の元へと歩いて行く。そして、ある程度、近づいたトコロで止まり、担いでいた俺を降ろした。何だ? 何だ? 別行動で戦うって感じなのか?
よーし、やってやるぜー。
14型が能面のような表情のまま、ちらりと俺の方を見る。
そして、目の前の2体の白い巨人が動き出した。その大きな腕を相手側に伸ばし、交差させる。何だ? 何をするつもりなんだ?
白い巨人の動きにあわせるように14型が動いた。片方の腕に取り付けていた凶悪な篭手を動かす。そして、その手に黒い光を集め、解き放った。あー、そういえば、塔の外で、魔素が放出できるとか――そのようなことが出来るようになったとか言っていたな。
14型の放った黒い光の刃は、何かをしようとしていた2体の巨人を背後の扉ごと斬り裂いた。
は?
へ?
2体の巨人の体が仲良く斜めにずれ落ち、そのまま霧散した。
あー、えーっと14型さん?
俺は14型の方を見る。しかし、14型は腕を振り払った体勢のまま、動かず固まっていた。何だ? 油断するなとか、そういうことか?
「マスター、先を急ぎましょう」
しかし、14型は何事もなかったかのように動き出し、俺を担ぎ上げ、そのまま歩き始めた。う、うむ。しかし、何だな、2体の巨人は、その力を見る前にあっさり倒してしまったな。14型が凄いのか、巨人が弱いのか、よく分からなかったなぁ。
白い巨人は霧散したまま、復活するような気配はない。しかし、驚くべきコトが起こっていた。14型は後ろの扉ごと2体の白い巨人を斬り裂いたはずだったのだが、その斬り裂いたはずの扉が、元通りになっていた。あれ? 後ろの扉も斬れたように見えたんだが、俺の気のせいか? 錯覚か?
14型が観音開きになっている大きな金属の扉の片方に俺を担いでいる方とは別の手を押し当てる。そして、そのまま強く押し込む。
14型の力にねじ伏せられるように金属の扉に隙間が出来ていく。さすがは14型、力持ちだな。
隙間の出来た金属の扉の中へ、14型が体を滑り込ませる。何かの膜を抜けるかのような感覚と共に俺の視界がクリアになった。あー、スキル無効化エリアを抜けたのか。とりあえず、これで休憩出来そうだな。
と、そこで、14型が俺を手放した。14型の手が力なく垂れ下がる。放り出される俺の体――へ?
――《魔法糸》――
《魔法糸》を飛ばし、そして《軽業》スキルで体勢を整え、着地する。あ、危ないなぁ。どうしたんだよ?
俺は振り返り、14型の方を見る。
「ま、ま、マスター、エラー、マス、マス……」
14型が何か良くわからない言葉を発しながら煙を吐き出していた。
お、おい? 大丈夫か? 大丈夫かよッ!
「エラー、エラー、オーバーロードが発生しています。エラー、エラー。システムの動作に深刻なダメージ。エラー、エラー、システムメモリをバックアップしスリープ状態に入ります。システム再生まで48時間」
14型がエラーの警告を繰り返している。
そして、完全に沈黙した。
まさか、壊れた?
う、嘘だろ?
いや、まて、エラーメッセージはどうなっていた? スリープ状態に入る、システム再生まで48時間って言っていたよな?
今までも14型は自力で怪我や傷を治していたからな、48時間ほど待てば治る可能性は高いだろう。それに、ここはちょうどいい具合にスキルが使える休憩室のような部屋だから待つことは出来そうだ。
14型が復活するまで、ここで待機するか。
そうだよな、今回、14型を働かせすぎたかもしれない。
14型、しっかりと休憩して、ちゃんと復活しろよ、な。
―2―
改めて室内を見回す。
動かなくなった14型の前には羽猫が見守るように丸くなっている。
室内の広さは――さっきのシェルターと同じくらい、か。そして、正面にローブを着た宇宙人の絵が描かれた扉が一つ。もしかすると、あの先が、この八大迷宮『二つの塔』のラストかもしれないな。
そして、この部屋の中央にはお約束の転送の台座が一つ。その左右に金属の箱があった。宝箱かぁ。
俺はとりあえず台座に手を乗せる。すると二つの画像が浮かび上がった。一つは、現在の部屋、そして、もう一つは先程のシェルターだ。これで、行き来が出来るようになったな。でもさ、どうせなら、塔の入り口にも、この台座が欲しかったよなぁ。まぁ、無い物は無いんだから、言っても仕方ないな。
となると次は金属の箱だな。まずは鑑定ッ!
【ばくだん】
う、爆弾かよ。爆弾だよな? 金属の箱が爆発するのか?
【スリープクラウド】
もう一つは眠りの雲か?
うーむ、両方、罠があるのか。このまま開けるのは得策じゃないよなぁ。さすがに、俺でも、それくらいは学習するぜ。となると、だ。
やることは一つッ!
まったく使う予定がなかった《探知》スキルを4まで上げる! そして《解除》スキルをゲットすることだ!
【《探知》スキルがレベルアップ】
【発見できる種類が更に拡大】
はい、4まで上げたけどさ、種類が増えるだけなんだな。まぁ、この線でオブジェクトが見える能力が無かったら上げていたかも、って感じのスキルだな。
【《探知》スキルの上昇に伴い《解除》スキルが発生します】
そして、《解除》スキルをゲットです。こちらはスキルレベルはなく、熟練度だけか。しかも使うタイプなんだな。
熟練度0で使うのは怖いけど、とりあえず試してみるか。
――《解除》――
爆弾の罠がある金属の箱の前に立ち、《解除》スキルを使ってみる。すると頭の中に罠の構造とどうすれば解除できるかのイメージが湧いてきた。へぇ、こんな感じなんだ。で、お約束のように連続では使えない、と。
えーっと、この爆弾の罠の構造は随分と簡単みたいだな。何か細い鉄の針みたいなものがあれば、簡単に解除できそうだ。簡単と言っても、外周に触れることなく、一瞬で針に糸を通すくらいの繊細で集中力の要る作業になりそうだけどな。ま、それも俺なら正確に動かせるサイドアームがあるから余裕っすよー。
でも、針か。うーむ、何かあったかな。
あー、そういえば、毒針を袋に入れたままだったな。それで代用できそうだ。
よしッ!
――《集中》――
《集中》し、
――《サイドアーム・ナラカ》――
サイドアーム・ナラカを発現させて毒針を持つ。さあ、さっき浮かんできたイメージの通りに作業をするだけだぞ。
自分自身の手で金属の箱を少しだけ開ける。そして、《暗視》スキルで暗い箱の中をのぞき込み、その中の一点に毒針を通す。これで箱の中の流れが変わったはずだ。
俺は金属の箱を開ける。
……。
罠は発動しない。よっし、成功。
箱の中身は……陶器製の小瓶だった。何だ? とりあえず鑑定だな。
【鑑定に失敗しました】
む? 鑑定が失敗?
ま、まさか――エリクサーか? いや、まだ分からないけどさ、可能性はあるぞ。これは良いものをゲットした予感だぜー。今度、《変身》したら確認してみよう。
さて、次は眠りの雲の罠か。《解除》スキルは連続では使えないからな、もう少し待つか。
――《解除》――
しばらく待ち《解除》スキルを使うと罠の構造が浮かび上がってきた。先程よりも罠の難易度は低そうだ。よし、頑張ってみますか。
――《集中》――
《集中》し、罠の解除を行う。さっきよりも簡単なはずだから、いや、この、あれ、いや、え、おや、くそ、だから、え、うん、おおっと。
あ、しまった。
箱から白い煙が立ち上がる。白い煙? まさか魔法的な何かか?
――[ウォーターミラー]――
これで、反射でき……な……ん……だか、ねむ……。
ああ、やば……い。