7-72 二つの塔魔法側下層部
―1―
シェルターの中に戻ると東側と西側にも扉が出来ていた。よし、これで先に進めるぞ! にしても、このスキルが使える部屋に戻った時の充足感よ。どれだけスキルに助けられて――補助されて人並みに活動出来るようになっているかってコトだよな。最初はスキルが何も無い状態から頑張ってきたんだよなぁ。しみじみ。
ホント、この部屋から出たくなくなるぜー。
これで先に進めるようになったはずだが、どうしようかな。時間的には、まだまだ余裕はあると思うが、各部屋への往復で無駄に時間を取られてしまったからな。余り進んでしまうと休憩出来るエリアがなくて大変なことになりそうな気もするし……うーむ。
とりあえず東と西に架かっている橋の先を見て、長そうなら休憩するって感じにしよう。『まだ行ける』は、危ないからな。
まずは東からか。
『14型、東から進むぞ。この先でもフォローを頼む』
俺の天啓に14型が綺麗なお辞儀で答える。ホント、頼りにしているんだからな!
東の扉をサイドアーム・ナラカを使い、開ける。金属の扉が上下に分かれ開いていく。そして、膜のような壁をくぐり、部屋の外に出る。
ああ、視界がぼやける。歩くのも困難な気分になってくるぜ。
俺は芋虫スタイルになり、橋の上でもぞもぞする。あー、まー、うー。
「マスター、下ですっ!」
と、そこで14型が叫んだ。14型が声を大きくするなんて珍しいな……って、え、下? どういうこと?
「仕方ないのです」
14型が俺の体を持ち上げ、飛び上がる。それを追いかけ橋の下の液体から白い液体のような触手がなぎ払われる。危なッ! あの高速で動くスライムみたいなのか。もしかして、この下の液体の中にうじゃうじゃいるのか?
「マスター、私が合図をしたら、攻撃する約束だったと思うのですが、まぁ、マスターの小さな記憶領域では忘れてしまっていても仕方ありません。いつものことだと思うだけなのです」
いや、酷くぼろくそに言われていないか? って、さっきのが合図だったのかよ。下から来るぞ、ではなく、下に攻撃しろっと。分からない、分からないよ、14型さん。
「マスター、正面です」
あ、はい。
――[アイスランス]――
俺たちの正面に飛び上がっていた白い液体は氷の槍に貫かれ、そのまま下の液体の中に落ちる。ぶくぶくと泡を立て、液体の奥底まで沈んでいった。
倒せてはいないが、とりあえずは大丈夫そうだな。
「この間に先へと進みます」
おう、14型、頼むぜ。
橋の先にあった金属の扉を14型が蹴破る。中には重そうな金属のレバーがあるだけだった。何これ? トロッコや線路の切替機を想像してしまうような形状だけどさ、ホント、何だろう、これ?
14型が躊躇いもなくレバーを動かす。すると背後から大きな音が響いた。
俺を担いだ14型がシェルターのある部屋へと駆けていく。橋の下を見ると明らかに水位が減ってきている。まさか、この落ちたらじゅわじゅわしちゃいそうな液体の中に先へ進む道があるのか? いやいや、いくら液体が全て消えたとしても降りたくないな。少しでも液体が残っていたら――触れた瞬間にどうなるか、分からないじゃないか。
―2―
今度は西側の扉を開け、その先へと進む。こちらでも14型が俺を担いで運んでいく。14型さん、ホント、力持ちですね……。
途中、何度か、橋の下から白い液体で作られた触手が伸びてくるが、水位が減ったためか、橋まで届かないようだった。やっぱり、この液体の中、あのスライムモドキが沢山いそうだな。
こちらも14型が金属の扉を蹴破り、中に入る。中にあったのは東側と同じ金属のレバーだった。
「どっせい」
重そうな金属のレバーを14型が動かす。やはり、背後で何かが渦巻くような大きな音が響いた。これ、俺だったらレバーを動かすの無理だったろうな……。俺が3人くらいは必要だよ!
「戻ります」
戻った橋の下は謎の液体が抜けきり、床が見えていた。そして、その上に無数の白い液体スライムモドキが蠢いているのが、俺の視力でも見て取れた。わー、これ、無理だわー、絶対、無理だわー。
あー、でも《変身》スキルが使えたらエルアイスストームを使って一掃出来たかもしれないな。ま、《変身》が使えないんですけどね!
14型、羽猫とともにシェルターの中に戻ってきた。さあ、どうしよう。
『14型、どう思う?』
俺の天啓に14型が首を傾げる。
「どう、とは? どうも思わないと思うのです」
はーい、ごめんね、俺の言い方が悪かったです。
『あの橋の下が先へと進むルートだと思うか?』
「マスターが自殺をお望みであればお手伝いするのですが、私が見た限りでは先へと進む道のようなものは見えなかったのです」
あ、はい。俺は自殺を望んでいません。そ、そうか。
と、なると、だ。後は行き止まりだった北側かなぁ。もう怪しいのって、そこだけだもんな。
「マスター、それよりも休憩をすべきだと思うのですが? マスターが一日中動いても疲れを知らないと言うのならば、付き合うのですが」
あ、はい。もう、そんな時間か。
いや、なんつうか八大迷宮って大きすぎるよな。今までの迷宮の中では小さく感じる、この『二つの塔』でも中に入って二日経とうとしてるんだぜ? どれだけ巨大な建物なんだって話だよ。
しかも、だ。
この塔って外から見る限り、もう1個あったよな? 多分、二つ攻略しないとダメなんだよな? この規模を二つ!? ここの攻略が終わったら、もう1個だろ?
ホント、塔が二つで苦労も2倍だよ。
―3―
翌朝。昨日と同じように羽猫に起こされ、まだ眠っていた14型を起こす。何で生物の羽猫の方がしっかりしていて、機械の14型が寝坊しているんだよ。普通、逆じゃないか?
『今日は北側の通路を探索する。そして、そこで進展が無いようなら、こちらの塔の探索を切り上げ、もう一つの塔の攻略を開始する』
俺の天啓を受け、14型が綺麗なお辞儀をする。ま、やるべきコトはやったはずだからな。これでダメなら仕方ない。
さあ、行くのです。
もう当たり前のように14型に担ぎ上げられ、北側の橋を進んでいく。そして、螺旋階段を降りていくと……あれ? 前回は行き止まりがあったはずなのに、螺旋階段が続いているぞ。
やはり、昨日のアレで先へと進めるようになったのか。ここもさ、もし、普段と同じように線が見えていれば、隠し通路とか、そんな感じで見えていたのかな? スキルが使えないのは不便でしょうが無いぜ。
長い長い螺旋階段を降りていく。途中、現れた、漂う白い布などの魔獣は、俺のアイスランスで難なく倒していく。これさ、昨日、先に進まず、ちゃんと休んで良かったよな。こんなに長かったら、途中で疲れていたかもな。まぁ、俺は14型に運ばれている立場なんですけどね!
長く、長く、長く続く螺旋階段を降り続けていると終わりが見えてきた。またも中央側に進む通路に出るようだ。
通路の先には観音開きの大きな金属の扉が見えた。おー、何だか、終わりって感じの雰囲気が漂ってきたぞ。もしかして、最深部か?
そして、大きな金属の扉の左右には2体の白い巨人が立っていた。阿吽の像じゃあるまいし……あー、でも、これ、間違いなく、近寄ったら襲ってくる感じだよなぁ。