7-67 二つの塔魔法側中層部
―1―
粉々になった白い板を横目に室内を見回す。先程の通路と向かい合う正面には同じような通路が続いている。あちらが正解ルートだろうな。何というか、ホント、一本道だなぁ。
壁側には本棚があり、並んでいる本の背表紙は俺の読めない文字で書かれている。異能言語理解スキルがあれば読めただろうになぁ、悔しいぜ。
何を思ったのか14型が本棚に近付き、そのまま一冊の本を手に取った。その瞬間、14型の手の中に入った本が、まるで急激に時が動き出したとでも言わんばかりに粉となって消えた。風化していたのか?
「千年以上経っていると推測します」
千年! また14型さんが適当なことを言っているんじゃないだろうな。千年って凄い日数なんだぜ。
「先を急ぐのです」
年代を確かめて満足したのか14型が歩き出す。ホント、14型の行動はよくわからないなぁ。
通路を進むとまたも螺旋階段が現れた。もしかして、こんな感じで単調に続くのか? 塔の外周側まで進み螺旋階段を降りて、通路から中央部分を抜けて、また螺旋階段を降りて……うわぁ、自分の足で歩いていたら、と思うとげんなりするな。
「にゃうぅ」
羽猫が一声鳴いた。そうか、お前もそう思うか。『世界の壁』でも思ったが単調なのは精神的にまいってくるよな。
ま、進むか。
螺旋階段を降りてすぐに白い布が現れた。またかよ。まぁ、アイスランスで一撃なのは分かっているからな、この程度、楽勝だぜ。
――[アイスランス]――
俺の手から生まれた木の枝のように尖った氷の槍が白い布を貫く。白い布は「ウボァ」と謎の叫び声を残し霧散した。はい、楽勝っと。
更に螺旋階段を降り続けると、今度は2体の白い布が漂ってきた。
――[アイスランス]――
氷の槍が白い布を貫く。もういっちょ。
――[アイスランス]――
もう1体の白い布も氷の槍に貫かれ、あっさりと霧散した。はいはい、楽勝っと。
2体の白い布を楽勝で倒し、螺旋階段を降りていると灯りが消えた。ああ、ライトの魔法の効果が切れたのか。
――[ライト]――
俺の頭上に光の球が浮かぶ。これで灯りは大丈夫っと。にしても、ライトの効果が切れるなんて、もう結構な時間を、この迷宮で過ごしているってコトか。螺旋階段を降りているだけなのに、結構、キツいぜ。
黙々と螺旋階段を降り続けていると、今度は3体の白い布が漂ってきた。またかよ!
――[アイスランス]――
――[アイスランス]――
――[アイスランス]――
3本の氷の槍が3体の白い布を貫く。はい、お終いっと。にしても、このペースで襲われたら、たまったもんじゃないな。いくら、俺の最大MPが多いといっても、無限じゃないしさ、それにこの周囲ってさ、白い靄しかないからか、なかなかMPが回復しないんだよなぁ。
物理的な攻撃が無効化される、魔法しか効果が無いってさ、こちらはどんどん消耗していくから、結構、追い詰められてくるな。
俺は最大MPが多いから一気に進めているけどさ、普通の冒険者なら、何度にも分けないと満足に進むことも出来ないんじゃないか?
―2―
それからも黙々と螺旋階段を降り続けると金属の扉が見えてきた。おや? てっきり真ん中部分に進む通路があるのかと思ったんだが。
「にゃ」
羽猫が一声鳴く。何故か、それを聞いた14型が軽く頷き、金属の扉を蹴破った。
14型が蹴破った先は広いドーム状の室内になっていた。中央にシェルターのような建物があり、そこから橋が八方向に伸びている。俺が今、14型に抱えられて立っている場所からもシェルターまでの橋が架かっている。そして、その橋の下は、薄暗く、よく見えないが何かの液体で満たされているようだった。
「マスター、敵です」
俺たちがいる余り幅のない橋の途中に、それはいた。
どろどろとした白い粘液が集まった物体。まさか、スライムか?
「マスター、来ます!」
白い粘液が何かを飛ばしてくる。14型と羽猫はそれを器用に回避する。遠距離攻撃とか卑怯だぜ!
――[アイスランス]――
俺は氷の槍を生み出し、白い粘液へと飛ばす。しかし、白い粘液は器用に、その体を動かし槍を回避する。目にもとまらない速度で、ぐにゃあって、ぐにゃあって動いたぞ。
そして、14型と白い粘液が動いた。《超知覚》スキルの無い、今の俺では認識出来ない速度での攻防。白い粘液が形を変え、動き、触手を伸ばし、こちらへと攻撃をしている。しかし、それらは俺の目には、多分、そうだろうという感じにしか認識出来ない。14型が狭い橋の上で、俺を抱えたまま、それらを全て器用に回避していく。
高速戦闘過ぎて、どのタイミングで魔法を使ったら良いのかわからない。どうする、どうする?
下手にアイスウォールなんかで氷の壁を作って14型の行動を妨げてしまったら、その瞬間に終わりそうだし、攻撃魔法をあてようにも早すぎて……。
余り余裕があるように見えない回避の仕方をしていた14型が口を開く。
「マスター、仕方ないですね。私が合図をしたら、攻撃するのです」
合図ってどういう合図だよ。いやいや、そんな、いきなりでは……。
と、そこで14型が俺の外皮のお尻にあたる部分をつねった。
もきゅー。
――[アイスランス]――
俺はとっさにアイスランスを放つ。生まれた氷の槍が覆い被さるように迫っていた白い粘液を貫く。
――[アイスコフィン]――
更に、そこを起点として氷の棺を作り、白い粘液を閉じ込めていく。氷の壁に挟まれ、潰され、四角い氷の棺と化した白い粘液は、そのまま消滅した。
……14型、よくも俺の外皮をつねったな。傷になったらどうしてくれるんだよ。まぁ、魔法で治せるけどさ。