7-66 二つの塔魔法側上層部
―1―
ふわふわと浮かんでいる二枚の白い布がこちらを取り囲むように動き出す。それを見た14型が首を傾げる。
「試します」
そして、俺を抱え持ったまま白い布へと突進し、殴りかかる。が、白い布はその拳をするりとすり抜けるように回避する。そして、そのまま絡みつくように14型の腕へと白い体を伸ばす。14型はとっさに後方へと飛び、距離をとる。いや、あの、俺を抱えたまま、激しい運動は止めてください……。
「マスター、対象物は衝撃を吸収、分散することで攻撃を無効化しているようです」
あ、はい。つまり、14型の凶悪な拳は効果がなかったと、そういうワケだな。となると、俺が真紅妃で攻撃をしても同じか?
あー、でも、前回、アシッドボールは喰らっていたよな? 魔法は効果があるのか?
ならば!
――[アイスランス]――
14型に抱きかかえられたままの俺の手から尖った木の枝ような氷の槍が生まれ、目の前の白い布を貫く。氷の槍に貫かれた白い布は「ウボァ」と謎の叫び声を残して霧散した。お、効いてる、効いてる。しかも、結構、弱いぞ。
――[アイスランス]――
もう一度、氷の槍を生み出し、もう一つの白い布を貫く。こちらも同じように「ウボアァ」と叫び霧散した。うむ、余り強くないな。まぁ、いくら八大迷宮って言っても最初の階層だもんな。出てくるのは雑魚か。スキルが一切使えないことを除いたら、もしかして、それほど難易度は高くないのか? まぁ、スキルが一切使えないのが一番キツいんだけどな。
さて、と魔獣? も倒したし進むか。
―2―
梯子を下りた先は円形の少し広さがある部屋になっていた。周囲にはフラスコのようなものやビーカー、何に使うか分からない金属の棒などが散らばっている。うお、ガラス容器だ。この世界だと結構レアな代物なんじゃないか? まぁ、使い道がないから荷物になるだけの現状では持って帰らないけどさ。でも、こんなものも存在するんだなぁ。
円形の部屋の梯子があった場所の正面側に通路がのびていた。俺は14型に抱えられたまま通路を進む。通路は塔の外周側へと続いており、そこから、また螺旋階段が現れた。また、この階段を降りる作業か。まぁ、塔だもんな。多分、こういう螺旋階段をどんどん降りていく感じなんだろうな。
螺旋階段を降り続けると途中、踊り場があり、そこに俺と同じサイズくらいの金属の箱が置かれていた。ま、ま、まさか、宝箱か?
開けよう。
俺は、ふらふらと吸い寄せられるように箱へと視線が――あー、14型に抱えられて移動しているから、動けないのがもどかしい……って、アレ?
何で、俺、いつまでも14型に抱きかかえられているんだ? もう、梯子は下りきったんだから、普通に自分の足で歩いても大丈夫じゃん。
もきゅもきゅ。
14型……って、声が出ない。天啓が使えないッ! 俺は14型の顔を見て、降ろせと意志を伝えるが、14型は能面のような顔のまま、ニコニコと微笑んでいるだけだ。つ、通じねぇ。
14型は金属の箱を無視して、そのまま歩いて行く。あー、箱がー。えーい、こうなったら!
――[アイスニードル]――
尖った針のような氷を生み出し、金属の箱へと飛ばす。すると、それを見た14型が足を止めた。危なかったぜ。14型は歩く速度が速いからな。俺が急いで行動しなかったら、そのまま無視される所だったぜ。
「マスター、この箱を開けろということですか? 家捜しをするなんてみすぼらしいと思うのですが、マスターのお願いとあれば仕方ないのです」
14型がくるりと向きを変え金属の箱へと歩いて行く。あのね、ここは家じゃないからな、迷宮だからな。っと、宝箱か。えーっと、罠の有無を調べて……って、あー、鑑定が使えないッ!
そして、14型は何も考えず、そのまま金属の箱をこじ開けた。あーッ!
しかし、罠はなかったようだ。中には……リュックのようなものが1個だけ入っていた。魔法の袋か? あー、もう、鑑定出来ないのがもどかしい。
14型はリュックを無造作に取り、そのまま背負った。うーん、メイド服にリュックって似合わないよなぁ。しかも元から持っていたのとあわせて2個もリュックを背負うとか、無茶苦茶だよ。
―3―
さらに螺旋階段を降り続けると、やがて階段が終わり、中央への通路が現れた。そのまま現れた通路を歩くと先程と同じような円形の部屋に到着する。
そして、その暗い室内の中央には、俺が生み出した光球の光を受けて白く輝く白い板がいた。白い板は横方向にくるくると回転している。何だ? これも魔獣なのか?
白い板は、思い出したかのように回転を止め、こちらへと少し動く。そして、また回転を始める。
「マスター、敵です」
やはり、これも敵なのか。ゴーレムとかそういう系統と同じ印象を受けるな。視力が悪すぎて細部まで見えないのがなぁ。俺の視力だと白い板にしか見えないんだよな。
と、考えている場合じゃないな。
――[アイスランス]――
白い板を目掛けて氷の槍を飛ばす。氷の槍に貫かれた白い板が破片をまき散らし、後退する。あれ? あんまり強くない?
――[アイスランス]――
もう一度、氷の槍で貫くと、白い板は更に破片をまき散らし、その体積を減らした。これ、このまま一方的に攻撃出来そうだな。
――[アイスランス]――
更に砕け散る。
――[アイスランス]――
さらに砕け散る。
――[アイスランス]――
そして、白い板は粉々になった。うーむ、楽勝だ。
アイスランスが5発も必要だったってのは、恐ろしく固くて大変だったワケだけどさ、どんな攻撃をしてくるのか見る前にあっさり倒せてしまったのは……。
まぁ、楽勝で困ることはないか。
さあ、先を進もう。