7-65 二つの塔魔法側上層部
―1―
14型、羽猫とともに砂漠を歩いて行く。途中、砂漠の上を満足に歩けず、ゆっくりと蠢いていた俺にしびれを切らしたのか、14型が俺の体を持ち上げる。
「マスター、この鐘を鳴らしながら動けばよいのですね」
あ、はい。
「ここは不純物が多く、機体に異常をきたしそうなため、急ぐのです」
あ、はい。14型が恐ろしい勢いで鐘を振り回しながら、砂漠を滑るように移動していく。ほ、ホバー移動ですか?
早い。凄く早い。14型さん、砂漠をものともしない。う、うん、最初から14型を頼っていれば良かったかなぁ。
と、そうだ。
『14型、手に入れていたパーツを渡そう』
そうそう、競売で落札していたパーツがあったよな。
14型に魔力のパーツを手渡す。
「やっと……、しかも、このような空気の読めないタイミングで渡してくるのはマスターらしいです」
いや、あのね。
『ちなみに、そのパーツは、どんな効果があるのだ?』
俺の天啓を受け、走り続けていた14型が首を傾げる。
「追加すれば分かることを聞く必要は無いと思うのですが」
そう言って14型は魔力のパーツを飲み込んだ。いや、お前、単純に、どうなるか知らないから、誤魔化すために言っているだけだよな?
で、何か変わりましたか?
14型は何も語らず砂漠を走り続ける。
えーっと、何か変わりましたか?
何か変わりましたか!
「マスター、見てください」
はい、何かありましたか?
「魔獣です」
14型は、そう言うが早いか砂の中から現れた甲殻をもった蠍のような魔獣を叩き潰していた。いや、あのー。
何か変わりましたか?
―2―
砂漠が凍る前に本社へ戻るぞ、と俺が主張しているのに、14型が、無理矢理、調理を始めようとするなど困ったこともあったが、概ね順調に砂漠の探索は進み、二日目の昼には流砂に到着した。
流砂の向こうには『二つの塔』の姿が見える。
14型の移動速度を持ってしても二日、か。うーむ、それを考えると今日で攻略してしまいたいなぁ。まぁ、最悪、迷宮内で泊まるか……。『名も無き王の墳墓』の時なんかは安全な部屋があって、体を休めることが出来たんだけどさ、今回の迷宮は、(あんな蠢く蓋があったんだしさ)まだ誰も探索していない、まっさらな迷宮ぽいからなぁ、ちょっとそういう部屋を探し出すのは――安全って確証を得るのは無理そうだよね。となると見張りを立てて休憩か。
最悪、入り口まで戻るを繰り返すか?
むむむ。ま、考えても仕方ないナ。考えすぎても失敗するだけだ、なるようになるだぜ!
じゃ、迷宮に挑みますか。
「マスター、お待ちください」
と、そこで14型からの待ったがかかった。どうしました?
14型が流砂の前へと進み出る。そして、手を縦に構え、そのまま横薙ぎに振り払った。それに合わせて燃えるような紫の閃光が走る。閃光が流砂に刺さり、穿つ。
14型が無表情な能面のような顔のままこちらへと振り返る。しかし、その体から沸き立つ得意気なオーラは隠し切れていない。えーっと、何をしたんだ?
『14型、今のは?』
14型がよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりにしゃべり出す。
「昨日溜めた紫の魔素を放出したのです」
はぁ、凄い攻撃だな。で?
『それは便利そうな攻撃だな。それが魔力のパーツの力というわけだな。迷宮の中でも、その力、期待しているぞ』
しかし、14型は首を横に振る。
「いえ、次はありません。先程、放出したため、再度、魔素を溜める必要があるのです。放ったのだから、無くなるのは当然だと思うのですが……マスター、どうしました?」
こ、こいつは……。そ、それならさ! 何で、これから迷宮に入るってタイミングで放ったんだよ。
ま、まぁ、確かに、効果の分からないものをいきなり実戦で使うのは危険だよな。試すことは必要だよな。でも、何で、このタイミングなんだよ!
14型さんは俺をおちょくっているのか? ホント、最近は有能になってきたなぁ、と思ったのに、やっぱりポンコツじゃないか!
はぁ、考えたら負けか。
『14型、迷宮に入るぞ。お前の力を頼りにしている』
それでも頼らないとダメなんだから、辛い所だよなぁ。
―3―
《飛翔》スキルを使い、14型の攻撃で歪な流れになってしまった流砂を乗り越え、前回と同じ方側の塔の中に入る。
そのまま、幼虫が飛び跳ね蠢く螺旋階段を抜け、大きな蓋のある室内へ。
『14型、ここから先はスキルが使えない。自分は、今のように天啓で会話することも武器を持って戦うことも困難になるだろう。お前が頼りだ』
俺の天啓を受け、14型がスカートの端を掴みお辞儀をする。いや、ホント、14型さんが頼りだからな。会話も出来ないから、14型の判断に任せるしかないし、ホント、頼みますよ。
俺は水天一碧の弓を左の腕に通し、真紅妃を自身の右手に持つ。今回、スターダストはお休みだな。仕方ない。
そして、『俺自身を』14型に、片手で抱え持って貰う。
「マスター、行きます」
14型が片手で器用に梯子を下りていく。さあて、ここからが本番だな。
――[ライト]――
ライトの魔法を使い、光を灯す。迷宮内を反射する拙い光とともに14型が進む。そして、そのすぐ後を羽猫が飛んでついてくる。
梯子を途中まで下りた所で、14型が梯子から手を離し、飛び降りた。
「マスター、敵です」
そして声を飛ばす。ああ、ぼんやりとだが、見えているぜ。前回と同じ、白い布だな。
今度は、しっかり倒してやるぜ。
2016年10月20日修正
どうなるか知ららない → どうなるか知らない