7-64 14型の出番だ
―1―
未だ無数の幼虫がうぞうぞと蠢く螺旋階段を上がり、『二つの塔』の入り口へと戻る。はぁ、疲れた。
さ、羽猫戻るぜ。
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い、塔の外に出る。そのまま一気に大きな流砂を飛び越える。さて、と。
――《転移チェック8》――
《転移》のチェックをして、と。これでいつでも『二つの塔』に戻ってくることが出来るな。はぁ、どうせ、外に出ることになるんだから、と《転移》のチェックを後回しにして、危なかったな。場合によっては、もう一度、迷宮を探す所になる可能性があったぜ。もう少し考えよう、俺。うむ。
さて、戻るか。
「にゃ!」
――《転移》――
《転移》スキルを使い、羽猫とともに本社前に戻ってくる。
「あ、ランさまですわぁ」
と、そこで、ちょうど本社から出てきたフルールと出会った。あー、そうか、今の時間だと、ちょうど、おやつの時間か?
「ランさま、例の物はどうなっていますのぉ」
例のモノとは何でしょう? 覚えがないなぁ。あ、そうだ。
『フルール、属性を持った装飾品は作れるか?』
そう、水の腕輪とか風の腕輪とか、俺の小さなお手々でも装着できそうな、そういう感じの代物だ。
「ランさま、以前も話した覚えがあるんですのぉ」
あれ、そうだった? 覚えがないなぁ。
「属性を持ったインゴットからなら簡単な物なら。上質なモノを求めているなら、それこそ、錬金術師に頼むべきですわぁ」
ふむ。錬金術師か。ちょっと覚えておこう。まぁ、今の段階だと弓を持つしか無いのか……。何というか、水天一碧の弓が水属性だというだけで役に立っています!
「ランさま、待ってますわぁ」
フルールは、そう言い残して鍛冶工房へと消えていった。はいはい、精霊銀のインゴットね、ちゃんと覚えているってばよ。まぁ、次に《変身》スキルを使った時に作りますかね。
で、肝心の14型さんがいないんですが……。普段なら、俺が戻ってきた瞬間に、たまたまですからね、って雰囲気を出しながら待ち構えているのになぁ。
仕方ない、今日はポンちゃんのトコでご飯を食べたら、適当にくつろいで寝るとするか。『二つの塔』の攻略は明日だな。まぁ、期限が決まっているわけでもないし、ここまで来たら焦る必要も無いか。
―2―
翌朝、目が覚めると、目の前に14型の顔があった。うわ、びっくりした。
えーっと、14型さん?
……反応がない。目を開けたまま眠っているようだ。いや、だから、何で、この子は、無断で俺の部屋に入っているんだよ。怖いな、怖いじゃん。
『14型?』
俺が天啓を飛ばすと14型が跳ね上がった。
「寝てませんんんー、3の姉さま、14型は寝ていません。眠る必要の無い私が眠るはずがないのです」
……寝ぼけているのか?
「はっ!? マスターでしたか」
俺です。
「この私の寝たふり、寝ぼけたふりも、大分上手くなったと思うのです。まぁ、マスターには違いが分からないと思うのですが」
はいはい。そんなふりを練習しても意味がないよな。これだから、14型は……。
『14型、昨日は姿が見えなかったようだが』
俺の天啓に14型が謝るように頭を下げる。
「マスター、申し訳ありません。昨日は侵入者の処理に手間取ってしまいました」
ん?
『侵入者がいたのか?』
俺の天啓を受け14型がお辞儀をする。
「ええ。昨日は数も多く手練れもいたため、この私でも少し苦労したのです」
んんー? その事実、俺は初めて聞くんだが。まさか、羽猫や14型がたまにいないのって、侵入者を撃退しているからか? むむむ。
『14型、本日はお前を連れて迷宮の攻略に行こうかと思っていたのだが、もしかすると、だ。お前がいなくなると本社を守る者がいなくなり、危険な状況になりそうなのか?』
俺の天啓を受けた14型はわざとらしく首を横に振り、ため息を吐いた。
「マスターは私の力を見る機会が少ないため、考えの足りない想像で過小評価しているようなのです。昨日、私が、1日かけて殲滅したのですから、当分の間、襲撃はないと思われるのです」
長い! つまり、当分は大丈夫ってコトだよな。
『ならば、14型、お前を連れても大丈夫なのだな?』
14型がスカートの端を掴み、優雅にお辞儀する。
「当然なのです」
あ、はい。
ま、まぁ、14型さんも一緒に行くってコトで。
―3―
日課の水を作り、ポンちゃんのところで朝ご飯を食べて、お弁当と食材を預かり出発する。
――《転移》――
14型、羽猫とともに砂漠に降り立つ。
……。
あれ?
『二つの塔』のある流砂の前でチェックしたよな? 間違えたかな。
――《転移》――
もう一度、《転移》スキルを発動させる。
俺たちの体が空高くへと舞い上がり……いやいや、間違ってない、間違ってないぞ。
そのまま先程と同じ場所に降り立つ。
どういうことだ?
昨日は、ここに『二つの塔』があったよな?
妖精の鐘を取り出し、振ってみる。すると西側で小さく音が鳴った。
……。
もしかして、『二つの塔』って移動するのか? 移動するなら《転移》スキルが結構、微妙になるなぁ。むむむ。
「マスター、どうしたのです?」
14型が声をかけてくる。はぁ、仕方ない、妖精の鐘が鳴る方向に黙々と歩くか。
『14型、歩くぞ』