7-63 二つの塔魔法側入り口
―1―
俺の周囲から、こちらへと集まる悪意を感じる。視界が悪い、ぼやける、線が見えない、暗い――何だ、何が、どうなって……まさか、スキルが使えない場所なのか?
いや、考えている場合じゃない、急いで何とかしないと……。
武器、武器、武器……。
真紅妃は? スターダストは? 武器を持っていた感覚が……。まさか、サイドアームが消えている!?
そうだ、真紅妃を呼び寄せて、
あ、
声が、
天啓が発動しない。
遠くからカタカタと何かが揺れている音は聞こえるが、それだけだ――何も動かない。
どうする、どうする?
まずは灯りだ。
――[ライト]――
俺の頭上に光の球が飛び上がる。生み出した光の球が周囲を照らし出す。光に照らし出されたのは蠢く三枚の白い布きれ? だった。白い布が俺の周囲を飛び交っている。
鑑定は……出来ないか。
とにかく、攻撃だ。スキルがダメなら、魔法で――よし、アイスランスだ。
……。
しかし、魔法が発動しない。ど、ど、ど、どいうことだ? い、いや、いやいや、落ち着け、落ち着け、よく考えろ。
そうだ、属性。属性だ。光属性の魔法が使えたってことは光の属性は大丈夫ってコトだよな? 魔法が使えないワケじゃない。アイスランスは風と水だから……水が足りないのか。いや、今、手元に真紅妃がないんだから、風も足りない!
となると、後は……? 俺は何かに釣られるように足下を見る。黄金妃ッ!
そうか、金属性ならッ!
――[アシッドボール]――
酸の球を作り出し、漂っている白い布へと飛ばす。酸の球を受けた白い布は、耳をつんざくような悲鳴を上げ、空中を転がるように俺から離れた。効果は……あるのか?
しかし、白い布は、すぐに動きを取り戻し、空中を滑るように俺の元へと飛んでくる。他の二匹もいるし、これは、何か壁になるような魔法が必要だ。アイスウォール? ファイアウォール? いや、どちらも今は使えない。
考えろ、考えろ。
酸で、それらと同じように壁を作れば……。出来るか? いや、出来るはずだ。魔法のコツは掴んでいる。後はイメージするだけだ。大事なのはイメージする力ッ!
俺なら出来るはずだ。
アシッドウォール!
しかし、何も起こらない。何でだ? 何が今までと違う? 何で魔法が習得出来ない?
この状況はヤバイ。こんな頭に電球を浮かべた状態なんて、狙ってくださいと言わんばかりじゃないか。どうする、どうする?
その時だった。
「にゃーーーーーーー」
俺の頭上から叫ぶような羽猫の鳴き声が聞こえた。俺が慌てて上空を見ると大きくなった羽猫が――いや、羽虎が俺の元へ落ちるように飛んできていた。
そのまま羽虎が俺を咥え、Uターン、上空へと飛び上がる。急に加わった、俺の体へのしかかるような負荷で、目眩がする――が、我慢する。羽虎が恐ろしい勢いで上の階へと飛び上がる。
俺の体が上の階を越えた瞬間、視界が戻った。周囲に線も表示されるようになる。
もしかして、いや、もしかしなくても、この塔の、ここから先、下の階層はスキルが一切使えないのか? どうでもいいことだけどさ、羽猫が大きくなるのはスキルじゃなかったんだな。
にしてもさ、まさか、常時効果系のスキルや装備品のスキルも使えなくなるとは思わなかったよ。書いてあった言葉通り魔法しか使えないエリアなんだろうな。でもさ、魔法しか使えないのに、使える属性が限られるって酷くないか? 無茶苦茶だよ。
あ、真紅妃とスターダスト……。
今から回収に行くのは、自殺行為だよな。《変身》して力業で取ってくるか? いやいや、《変身》もスキルじゃん。降りた瞬間に元の姿に戻るんじゃないか?
『エミリオ、すまない。もう一度、下に降りて真紅妃とスターダストを回収して貰えないだろうか』
俺の天啓を受けた羽虎は、仕方ないなぁという感じで首を横に振る。
「にゃう」
羽虎は一声、鳴き、再度、下へと降りていく。
……。
しばらくして、2本の槍を咥えた羽虎が戻ってきた。
「にゃ」
羽虎が咥えていた槍を落とす。そして、片手を上げる。えーっと、貸し1ってコト? う、うむ。すまぬ。
にしても、これは、このまま進むのは無理そうだな。ちょっと様子見って感じで入ってみたのがダメだった。最悪、コンパクトで脱出出来るしなぁ、なんて考えていたけどさ、サイドアームが使えなかったら魔法の袋からアイテムを取り出すのもままならないぞ。それにコンパクトの転送の力が発動するかも分からないし……。
これは一旦戻った方がいいな。魔法のランタンは光属性の魔法が使えるから必要無いとしても、荷物持ちや俺の手足の代わりとして動いてくれる――そう、14型さんが必要だ。とりあえず本社の仕事をやらせておけばいいか、何て軽く考えていたのが間違いだった。
よし、とりあえず外に出て、《転移》スキルのチェックをして、本社に戻って一から準備をし直すか。まぁ、どういう感じか分かっただけ幸いか。