2-55 道化
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城に入ってすぐには、まるでかつては受付だったかのような古ぼけたカウンターがあり、その奥には沢山の小部屋があった。
そして城の中にもうじゃうじゃとホーンドラットが……。今更、ホーンドラットごときでどうにかなるかよッ! 俺はホーンドラットを蹴散らしながら城の中を進んでいく。
小部屋の中にもホーンドラット……、ホーンドラット……。いやさ、せめてMSPを持っている魔獣にしてくれよ。
沢山あった半ば崩れている小部屋たちには何も無かった。
はぁ……進むか。小部屋の多い通路を進むと普通に上に上がる階段があり、そこを上がるとまた複数の小部屋がある通路になっていた。
また小部屋かよ……。せめてさ、もう少し、もう少し歯ごたえのある魔獣が居るなら……、いやね、戦闘狂じゃないけどさ、こうも単調だと緊張感が薄れてポカミスをしそうでさ。
何も無いだろうな、と思いつつも全ての小部屋を確認し、ホーンドラットを蹴散らして、そしてやっぱり何も無くて……もうね。
仕方ないので通路の奥の階段を上がる。
階段を上がった先は大きな広間だった。そして広間の奥は一段高くなっており、そこに大きな椅子があった。もしかして玉座か?
大広間には魔獣が一切居らず、あれほど居たホーンドラットも存在していなかった。
あら? ミーティアラットは? ここで行き止まりみたいだけど、何処にも居なかったよな? もしかしてすでに誰かが倒してしまった?
仕方ない玉座でも調べてみるか……。
俺が玉座に近づくと視界の上端が赤く染まった。これは危険感知スキルか!? 俺はとっさに後方に魔法糸を飛ばし、その場を離れる。
そして天井が崩れ巨大なネズミが降ってきた。
―2―
巨大なネズミが猛る。
高さは3メートルほど、全長は5メートルほどか。片方の耳が丸く、角は無いが、もともと角だった物が大きく歪み、まるで王冠のような形になっていた。
巨大なネズミははっはっはと息を荒くしてこちらを睨んでいる。鑑定してみるか。
【名前:夢幻の道化師】
【種族:ラットキング(ミーティアラット亜種)】
……また名前付きかよ。しかしまぁ、ミーティアラットの亜種か。まさか倒しても討伐達成にならないとか……無いよな?
ま、まあ、頑張りますか。
まずは……どうしようかな。この睨まれているような近距離だと弓を番えているような隙は無いだろうしな。とりあえず、魔法でも当ててみるか。
――[ウォーターボール]――
水の球を当ててみる。水の球はゆっくりと飛んでいき、そのままラットキングに当たり弾け飛んだ。
ラットキングの『ぐああぁ』という叫び。……あら効いてる? 今まで魔法が聞いた試しが無かったから小手調べのつもりだったんだけどなぁ。よし、効果があるというのならば、がんがん魔法で攻撃してみよう。
――[ウォーターボール]――
――[ウォーターボール]――
――[ウォーターボール]――
――[ウォーターボール]――
水の球を当てる度に響く咆哮。このまま押し切れそうだな。
俺が水の球を当て続けていると崩れた天井からもう一匹の魔獣が降りてきた。
降りてきた魔獣は、そのままラットキングの上に乗っかる。
その鳥の姿を摸した魔獣は、今にも崩れ落ちそうな体をしており、崩れ飛ぶことの出来ない翼を必死に動かしていた。これ、アレだ、ホビロンみたい。キモイ。とりあえず鑑定だ。
【名前:夢幻の道化師】
【種族:フィーンドダック(ディアトリマクロウ劣化種)】
あ、こいつも夢幻の道化師なのね。にしても劣化種か。俺と同じだな。とまぁ、それよりもウォーターボールでラットキングを倒してしまおう。
――[ウォーターボール]――
ラットキングに飛ばした水の球は途中で軌道が変わりフィーンドダックに吸い寄せられた。そして、そのままフィーンドダックが水の球を捕食する。吸収された?
うんにゃろ、なら氷の塊だ。
――[アイスボール]――
俺は6個の氷の塊を浮かべ、飛ばす。それらも途中で軌道が変わりフィーンドダックに吸い寄せられる。そして、先程と同じように捕食された。
もしかして魔法食いか!? うーむ。多分だけどラットキングは魔法に弱いんじゃね? そしてそれをフォローするのがフィーンドダックと。逆に体が崩れているフィーンドダックは物理攻撃に弱そうだけどな。殴ったらぽろりと簡単に死にそうだ。が、ラットキングの巨体に隠れているフィーンドダックに攻撃を当てるのは難しそうだ。お互いを補っているのか?
とまぁ、そういうコンビじゃないかと予想する。
うーん、さすがに名前付きだけあって結構な強敵に見えるな。見えるんだけど危機感というか、ヤヴァイって感じがしないんだよなぁ。俺が強くなったからか、苦戦はするだろうが普通に倒せそうだってイメージしか湧かない。
フィーンドダックを乗せたラットキングがこちらへ突進してくる。お、巨体の割に意外と機敏な動作。しかし俺はそれを楽々と回避する。そういえば危険感知スキルが発動しなかったな。ラットキングの突進程度では危険が無いってことなのかなぁ。
突進したラットキングは玉座を吹き飛ばし壁にぶち当たり、そのまま壁にめり込んでジタバタしていた。攻撃のチャーンス。
喰らえ。
――<スパイラルチャージ>――
鉄の槍が唸りを上げ螺旋を描きラットキングへと突き進む。そしてヤツの硬質化した固い体毛に弾かれる。な、何だと!?
スキルの勢いが残ったまま弾かれた為、槍がねじ曲がり吹き飛ぶ。あ、また鉄の槍が……。もしかして物理耐性かあるって感じなのか?
ならば……もう一つはどうかな?
――<スパイラルチャージ>――
赤い槍が唸りを上げラットキングへ突き進む。槍がスキルの力を受け回転する。そして固かった体毛を削り、皮を削り、肉を削る。
ラットキングの悲鳴が上がる。
まだまだ終わりじゃあないぜ。再度、赤い槍で突く、突く、突く、突く。風槍レッドアイがラットキングの固い体毛を易々と貫いていく。
突き刺す度に上がる悲鳴。
さあ、決着を付けようか。