7-60 ふおんなくうき
―1―
《転移》スキルを使い、本社前に戻ってくる。何だか、久しぶりの本社だなぁ。
「疲れたから工房に戻りますわぁ」
全然、疲れて無さそうな元気いっぱいの狼頭が工房へとスキップで飛び跳ねていく。あの狼頭は、何をしに競売までついてきたんだろうな……。
「あ! ランさま! ちゃんと精霊銀の塊をインゴットにして持ってきて欲しいですわぁ。待ってますわぁ」
陽気な顔の狼頭が途中で振り返ってそんなことを言っていた。俺がインゴットにする前提かよ。ホントさ、鍛冶の腕がなかったら放り投げている所だよ。
「マスター、あの犬に飼い犬としての身分をしつけるのがよろしいと思うのです」
14型さんは14型さんで物騒だな。そのー、腕の凶悪な武器をガチャコンと動かすのは止めてください。って、あれ? そういえば、俺がレッドカノンの城から戻ってきた時は身につけていなかったよな?
『14型、それは?』
「マスターの敵との戦いで壊れたため、あの犬に、簡単には壊れないよう作り替えさせたのです」
あ、はい。壊れないようにとか、無茶苦茶言うなぁ。ま、まぁ、当分は本社での仕事に戻って貰うから、その危険な篭手はしまってくださいねー。
と、そうだ。
『14型、ポンにお土産を渡したいので呼んで貰えるだろうか?』
俺が天啓を飛ばすと14型は深く優雅にお辞儀する。そして、俺が視線を外した一瞬の間にその姿を消した。ホント、忍者みたいになってるな。もう完全に戦闘メイドではなく、忍者だよな。
さて、と。俺はポンちゃんがやってくるまで会議室で待ちますか。
羽猫行くぞ。
「にゃ!」
俺の隣をふよふよと飛んでいた羽猫が片手を上げる。そういえば、こいつも最近は俺の頭の上に乗らなくなったなぁ。頭の上に居た時はうざいと思っていたけどさ、のらなくなると、それはそれで寂しいぜ……。
―2―
会議室の前に陣取っている豚頭のオークさんに扉を開けて貰い、中へと入る。すると、そこには先客がいた。
「ああ、戻られたんですか」
そこにいたのはフエだった。鍛冶工房ではなく、会議室に何の用があったんだろう? フエさんってばさ、余り会う機会がないから、キャラクターが掴めないんだよなぁ。
「ちょうど良かったです。オーナー、いえ、ランさんに聞きたいことがあったんです」
ん? 何だろう。にしても、ランさん、か。最初に会った時は怯えたような口調でラン様って呼んでいたのになぁ、俺の威厳が足りないのだろうか。
「神国にも手を伸ばすと聞いたんですが、本当ですか?」
フエが問い詰めるような口調で話しかけてくる。フエって、こんな性格だったか? うーむ、やはり普段、コミュニケーションを取っていないのが祟っているなぁ。
『一応、その予定だが、何か問題があるだろうか?』
俺の天啓にフエは首を横に振る。
「いえ、オーナーのお好きなように」
フエは何か言いたそうな顔のまま、口を閉じる。
う、うーむ。よく考えたら、フエってば、唯一、うちの商会の人員じゃないんだよな。帝都の東側にある鍛冶ギルドからの出向社員だもんなぁ。ヤポさんとかの部下だよな。よその商会の人間だから言えないこととかあるのかもしれないな。
さて、何と言ったら良いものやら……。
「オーナー、帰ってきたそうじゃんかよ」
と、そこへポンちゃんがやって来た。おー、おー、ポンちゃん、ただいまだぜー。
「では、オーナー、自分はこれで」
フエが軽く会釈して会議室を出て行く。あ、うん。にしても、ちょっと気になるな。ユエとかに頼んで、それとなーくフエのことを聞いておくか。
『ああ、ポン殿、今戻った所なのだ』
ポンちゃんに向き直り天啓を飛ばす。
「オーナー、さっきのフエのやつ、思い詰めたような顔をしていたが、どうしたよ?」
やっぱりポンちゃんも気になるか。
『いや、な。神国にまで手を伸ばすつもりか、とフエに聞かれたのでな。そのつもりだ、と答えたのだ』
俺の天啓を受けたポンちゃんは腕を組み、そり上げた頭を光らせる。
「フエは帝都の東側の人間だからよ、今でも敵対している、そんな神国まで手を伸ばすことにわだかまりがあるのかもしれないじゃんかよ。もしかすると、それで、なー」
な、なるほど。俺は、普通に神国も他の国も行き来していたからさ、考えてもなかったけど、帝国と神国って敵国同士なんだったか。すっかり頭から抜け落ちていたなぁ。
うーん。
でも――姫さまと友人になっているからってワケじゃないけどさ、神国は神国で良いところだよ。辺境伯のトコも、学院も、俺には結構楽しいとこだったもんな。
「ま、フエはフエだぜ。あいつも餓鬼じゃないんだから、大丈夫だと思うぜー。それより、何のようじゃん?」
そうそう、ポンちゃん、お土産だぜ!
『ポン、お土産だ』
ポンちゃんに小さな小瓶を渡す。
小瓶を受け取ったポンは蓋を取り、中を確認し、そして匂いをかぐ。
「この緑色の粉は――少し匂いがキツいようで、むむむ、調味料ですかい?」
そうじゃんよ。
『それはナリン国で手に入れた特製の万能調味料だ』
俺の天啓にポンちゃんがニヤリと楽しそうに笑う。
「そいつは……量が少ないのは残念ですが、嬉しいお土産ですぜ」
そうだろう、そうだろう。
『水に溶かしスープ状にしてご飯に……』
いや、この世界に米はないんだったな。
『饅頭の皮に使っているようなパンを浸けて食べると美味いと思うぞ』
「なるほど。後で試してみますぜ」
ポンちゃんがつるつるの頭を叩く。
ああ、楽しみに待ってるぜ。
さてと、後は14型にパーツを渡して、効果を確認して……落ち着いたら八大迷宮『二つの塔』に挑戦だな。
いやぁ、やっとだな。結構、苦労したぜ。