7-57 競売の終わりに
―1―
聖騎士長さんが扉の外に出る。そのすぐ後に凄い勢いで扉が開かれた。扉が閉じられたと思ったらすぐに開くとか、何かのコントかよ。
「マスター、もう、あのようなことはされないことを推奨するのです!」
勢いよく入ってきたのは14型だった。あのようなこと?
『14型、落ち着け』
「にゃあ、にゃあ!」
ほら、エミリオも落ち着けと言っているじゃないか。
『14型、あのようなこととは、限界突破のスキルを使ったことか?』
また俺の体内の魔石にヒビが入ったとか、そんな感じなのだろうか。14型に心配をかけてしまったな。
しかし、14型は首を横に振る。
「それは後先を考えないマスターの自業自得だから構わないと思うのです。その後の話なのです」
あ、はい。そうなんですね。って、その後……? 魔石精製のことか? それとも、それをファリンに埋め込んだことか? いや、でもさ、どちらのスキルもグレイさんを助けた時に、14型に見せているはずだ。それが何で今更?
『14型、どういうことだ?』
「余り強い力で干渉しすぎると、あの女を呼び寄せることになるのです。今のマスターの力ではけちょんけちょんにされてしまうと思うのです」
けちょんけちょんとか、日常生活で使わない言葉をよくもまぁ。これも異能言語理解さんが勝手に変換したのだろうか。
にしても、あの女、か。14型の記憶が曖昧過ぎて、よく分からないんだよなぁ。何というか、前後がかみ合わないというか、矛盾しているというか。
まぁ、アレだ。
『とりあえず限界突破を使ったような状態で魔石の精製はするな、というコトだな?』
もしかすると《変身》した状態でも、か。
俺の天啓に14型がゆっくりと優雅に頷く。こういう時にいちいち動きが流麗なのは14型を作った人の趣味なんだろうか。
「それとマスター、ファリンたちが来ていますが、通しても良いでしょうか?」
ファリンが来ているのか。《リインカーネーション》スキルの結果がどうなったか気になるし、早く会いたいな。にしても、ファリンが動けるようになるくらい、日数が経っているのか。てことは、競売が終わっているのも覚悟しないとダメか。
何だかなぁ。魔族の襲撃のせいでさ、ちょっとしか参加出来なかったじゃん。お金を湯水のごとく使える状態だったんだしさ、もっと色々楽しみたかったなぁ。
―2―
「ランさまー、大丈夫ですのぉ」
何故か、一番にフルールが入ってきた。
「主殿が急に倒れられたので驚いたのです」
あー、ミカンちゃん、それ、ただの感想だよね。この子はホント、何というか。
そして、最後にファリンが部屋の中に入ってきた。
「ランさまのお目覚め、お待ちしておりました」
ファリンが巨体を曲げ、14型のようなお辞儀をする。こう、サイズが大きいとしゅっしゅっとキレがあって動作が映えるなぁ。
そしてファリンが顔を上げる。その顔には折れたはずの角が――しかし、以前とは違い青く輝く角が伸びていた。そして、赤髪に青が一房混じっている。髪の色も変わったのか? 何だろう、俺の作った魔石が原因なのか? って、それしか考えられないよな。これはファリンにとって良いことなのか悪いことなのか。うーむむむむ。
「ランさま、ありがとうございます。ランさまのお陰で死なずに済みました」
そう言ってファリンはにっこりと笑う。えーっと、少し性格が変わった? これも俺の作った魔石の影響だろうか。で、でもさ、死ぬよりはいいよね。そうそう、死ぬよりはマシだよ、うん。
「ランさまが眠っている間に競売は終わってしまいましたが、めぼしい物は取りそろえておきました」
ん?
「まずは、こちらです」
そう言って、ファリンが持ってきたのは水垢離の陣羽織だった。あー、三品目は、それにしちゃったのか。まぁ、でもさ、今回の競売には、魔人族や魔族が絡んでいたからさ、もしかしたらミカンの両親や姉の形見の品なのかもしれないし、これで良かったのかもしれないなぁ。
「次はこちらです」
ファリンが何やら小さな瓶を持ってくる。ん? んん?
「特製万能調味料らしいです。色々な調味料を合成したものらしく、何でも、どんな食材でも、ある程度は食べることが出来る味に出来るそうです」
ほー、それは凄いな。俺の知っている世界にも似たような物があったぜ。そう、カレー粉って名前で、な!
「次は癒やしの魔石です。ランさまがエリクサーを探されていることは聞いていたのですが、出品されなかったため、似たような物としてこちらを落札しておきました」
いや、あのファリンさん?
「次は精霊銀の塊です。フルールさんがどうしても欲しいというので、こちらも落札しておきました」
いや、だから、ファリンさん?
「最後に、何かの金属です。鑑定すると魔力のパーツと表示されるそうですが、よく分からない品です。こちらは14型さまのたっての願いと言うことで落札しました」
えーっと、ファリンさん?
『ファリン、落札出来るモノは3つまでだと聞いていたのだが』
俺の天啓にファリンが頷く。
「はい。ですので、他の商会や商人に頼み、手数料を握らせて有用な物を落札しておきました」
そして、にっこりと笑ってそんなことを言っていた。
『それはアリなのか?』
「はい。さすがにやり過ぎると睨まれるでしょうが、他の商会もやっていることです」
談合だ。談合が行われている。
何だかなぁ。そういうことをし出すとさ、真面目に競売を楽しんでいる人が楽しくなくなっちゃうと思うんだけどなぁ。
うーん、俺が真面目に考えすぎていたのかな。もしかすると、この競売は商人たちの――商会の話し合いの場ってコトの方が重要だったのかな。商人達の社交界、か。
【癒やしの魔石】
【込められた魔力の数だけ『キュアライト』が使用出来る。残数は21】
【精霊銀の塊】
【属性を付与出来る精霊銀の鉱石】
【魔力のパーツ】
【魔素を溜める機関を増加させる何かの部品】