7-54 しせるおうこく
―1―
さ、とりあえずミカンを迎えに行くか。って、ん?
俺の視界に陽の光に反射する何かが写った。何だ? 特に線も伸びていないから、どうでも良い物ぽいけど、気になるな。
反射する何かまで歩いて行くと、それは折れたミカンの刀だった。あー、そういえばレッドカノンとの戦いで折られていたな。
……。
なんとなくだけど持って帰るか。後でフルールに修理して貰うかな。とりあえず、折れた刃先と柄部分を拾う。細かい破片は……まぁ、仕方ないか。
そのまま螺旋階段を降り、玉座のあった部屋まで戻る。
しかし、そこにミカンの姿はなかった。あれ? 何処にいったんだ? パーティを組んでいないから、どの方向にいるかも分からないし、困ったなぁ。玉座に座る前にさ、ミカンに待っておくよう言っておけば良かったよ。
ミカンを探すように部屋の中を見回すと玉座の周りだけが何か強い力で斬り裂かれ傷だらけになっていた。おいおい、これはどういうことだ? 何か強力な魔獣でも現れてミカンが襲われたのか? しかしまぁ、かなり強い力を加えられただろうに、それでも傷しか残っていないのか。ここの壁ってば、氷ぽい感じなのに随分と頑丈なんだな。
……ま、そんなことに感心している場合じゃないな。急いでミカンを探さないとな。
ミカンを探し城の中を彷徨っていると、開かなかった大きな扉の前に立っている姿を見つけた。おー、いるじゃん。無事だったか。って、アレ? 何をしているんだ?
おい、ミカ……。
俺が天啓を飛ばそうとした所でミカンが動いた。
ミカンが鬼神の小手で扉を殴りつける。何度も何度も殴りつける。そして、それだけでは我慢出来なくなったのか、腰にさした鞘のない刀に手を伸ばし、そこから一閃させる。
何度も刀の軌跡が舞う。
そして、ついに扉は細切れとなり、吹き飛んだ。お、おい、何しているんだ。
『おい、ミカン』
俺が天啓を飛ばすと、ミカンは驚いたようにこちらへと振り返った。
「主殿!」
いやいや、主殿じゃないよ。どうしたの。
「いえ……、いや、主殿が消えたので、外へ出て助けを呼ぼうかと思ったのだ」
それで、そんな力業かよ。もしかして、玉座の傷跡もミカンの仕業か。心配して損したよ。
ミカンが無理矢理こじ開けた扉の先は少し肌寒いだけの平原だった。こんな平原のど真ん中に城があったのか。で、ここは何処なんだろうか?
この氷の城が魔族の城だったんだから、やはり永久凍土なんだろうか? にしても少し寒いくらいで普通に平原だよなぁ。
ま、考えても仕方ない。とりあえず14型たちが心配だからな、急いでナリンに戻ろう。
『ミカン、パーティを組んでくれ。急いでナリンに戻る』
「主殿、も、もしや、あの、あれですか……」
そう《転移》スキルを使うのだ。
「う、うむ」
ミカンが頷き、パーティに加入する。そして、すぐに目を閉じた。
――《転移》――
俺たちの体が空中へと舞い上がる。その瞬間、ちらりとだか、少し南の方に『世界の壁』が見えた。うん? 南側に『世界の壁』がある? ということは、この城は帝国領? 魔族の前線基地か、何かだったのか?
―2―
俺たちはナリン国に戻ってきた。
そこは別世界だった。ナリンの王宮は酷い有様だった。戦いの激しさを物語るように建物は崩れ、原形をとどめていない。
そして、王宮の瓦礫の下では兵士達が力なく座り込んでいる。生き残りがいるということは、一応、魔族のホワイトディザスターは撃退したのか?
「主殿……」
ミカンが俺の側に寄る。分かってるって。
俺は兵士の元へと駆け寄る。
『自分は治癒術の心得がある、怪我人の元へ案内してくれ。それと、何があったのかも教えて欲しい』
俺の天啓を受け、兵士が驚いたように顔を上げる。
「あなたは! 負傷者は殆どいません。しかし……」
しかし、何だというのだ?
「こちらへ」
先程までうなだれていた兵士がゆっくりと力なく立ち上がり、半壊した王宮の中へと進んでいく。
俺とミカンはその後をついて行く。
そして、緊急で作られたであろう、避難場所には……。
「マスター、申し訳ありません」
腕と足が折れ曲がり、倒れ込んでいる14型と、
兜を取り、全身鎧を脱ぎ捨てた傷だらけのナリン国の兵長のアルマ、
そして、
今にも、
息絶えようとしているファリンがいた。
「こんな、こんな、酷いですわぁ」
ファリンの上にフルールが泣き顔を埋めている。
「ら、ランさま、おかえり……なさ……いま」
角が折れ、青い顔のファリンが何とか喋ろうとするが、血が喉に詰まっているのか、途中で言葉が止まってしまう。
――[キュアライト]――
癒やしの光がファリンの傷を癒やす。しかし、ファリンの顔は青く生気のないままだ。
『どういうことだ?』
俺は天啓を飛ばす。
「ファリンがフルールをかばったのですわぁ! そして心臓に傷を」
フルールは泣き喚いている。心臓に傷? まさか?
『14型!』
俺の天啓に14型が頷く。
「魔石に傷を負っているようです」
14型は自己再生モード中か。こちらは何とかなりそうだ。
しかし、ファリンは……。この世界の住人は魔石に傷を負ったら助からないはず。それはバーン君も言っていたもんな。
『人払いを頼む』
ここにエリクサーがあれば良かったんだろうがな。そんな物は都合良く転がってはいない。
「わかり……ました」
傷だらけのアルマが立ち上がり、兵士達に指示をだす。そして、自身もヨロヨロと歩きながら、この場を離れようとする。アルマの傷も癒やしてやりたいが、今はMPの無駄遣いが出来ないからな。周囲の魔素を吸い込んでどれくらい回復している? 急いで全快させないと……。
『アルマは、残ってくれても良い。その代わり他言無用で頼む』
さすがに怪我人に無理して出て行けとは言えないもんな。
さあ、俺の持ちうる全てを使ってファリンを助ける!
俺なら出来るはずだ。
失敗は出来ない。
くそ、ここで《変身》が出来れば……、いや、もう一つあるはずだ。
俺にはもう一つ、力を底上げするスキルがあるはずだ。
――《限界突破》――
俺の中の魔石が跳ね上がる。そして生まれる全能感。久しぶりだが、この高揚、癖になりそうだ。
さあ、やるぜ。
ここでファリンを死なせてたまるかよ!
――《魔石精製》――
俺の中からMPがごっそりと奪い去られる感覚とともに周囲の魔素が俺の手の内へと集まっていく。
そして色鮮やかな青と赤の混じった煌めく魔石が生まれる。よし、《限界突破》の効果か、普段の時よりも優れた魔石が出来たぞ。
さあ、失敗は出来ないぞ。
『ファリン、俺を信じろ』
俺の天啓にファリンが頷く。
俺はファリンの心臓に真紅妃を突き立てる。真紅妃がファリンの魔石を喰らう。
「ラン殿、何を!」
「ランさま!」
アルマとフルールの叫び声があがる。
さあ、行くぜ!
――《リインカーネーション》――
ファリン、新たな魔石とともに甦れ!