7-52 結局なにも無い
―1―
しばらく待ってみたが何も起こらない。仕方ない《魔法糸》を使って上に行くか。
――《魔法糸》――
上空、開いている天井部分に《魔法糸》を飛ばし、そのまま先程の部屋に戻る。するとかすかな振動と共に玉座がせり上がってきた。な、なんだと。俺の苦労を台無しにするつもりか。
う、うーむ。もしかして、玉座から降りると上昇するとか、そういう単純な仕組みだったのか? ま、まぁ、うん。
「主殿、大丈夫ですか」
ミカンが心配そうにこちらを見ている。
『問題ない、探索を続けよう』
俺は天啓を飛ばし、謁見の間の外に出る。そのまま今度は更に先へ、左手側へと進む。すると下りの螺旋階段が見えてきた。下の階か。
ミカンのランタンの灯りを頼りに螺旋階段を降りていく。今度は螺旋階段の途中で道が分かれる。このまま下に降りるか、この階を探索するか、か。上からの感じだと、ここが地上部分ぽいんだよなぁ。となると、地下に降りるかどうかってコトか。
まずはこの階を探索するか。
螺旋階段から通路に出て、そのまましばらく進むとすぐに大きな広間に出た。広間は右と左に大きく伸びている。左右、どちらにも進めるな。
右の方には交差するように緩やかにカーブした上への階段が見える。中二階への階段かな。
左の方には開かれた大きな扉と、その更に先に締め切られた大きな扉が見える。
ん?
アレ?
あの閉まっている扉の下の部分、何やら、キラキラと輝いているように見えるぞ。薄暗い、氷に閉ざされた城で何が光っているんだ?
ミカンと共に近寄って見る。するとすぐに線が見え始め、俺にはそれがなんであるかが分かった。
魔石だ!
大量の魔石が散らばっている。大小様々な、各色を取りそろえた魔石だ。うーん、どういうことだ? 何で、扉の前に魔石が敷き詰められているんだろう。
ミカンが魔石の山を掻き分け、扉に手をつける。そして、そのまま押し開けようとする。しかし、大きな扉はミカンの馬鹿力を持ってしてもビクともしない。このまま、この先に進むのは無理そうか。
とりあえず勿体ないから魔石を回収しておこう。大量の魔石をゲットだぜ。
俺とミカンが魔石を回収していると、俺が履いていた黄金妃と背中に回していた真紅妃が凄い勢いで魔石を吸収していた。それこそ、召喚で疲れたから仕方ないといわんばかりの勢いだ。おいおい、俺が回収する分がなくなるだろうが。
―2―
城内の探索を続ける。
今度は中二階への階段がある方へと向かう。にしても、この部屋ってば、広いよな。これだけ広ければ屋台とか出店が並んでいてもおかしく無いって感じだな。
中二階の先は沢山の個室になっていた。どれも似たような、部屋の中に何も無い、質素な部屋が全部で20個ほど並んでいる。いくら大きな城とはいえ、無駄に多い個室だな。何の意味があるんだろうか?
今度は中二階から一階に降り、階段の下を進む。途中で通路が折れ曲がり、それでも、そのまま進むと、今度は中庭に出た。何の手入れもされていない、寒さで氷の木が生まれているだけの中庭だ。
「主殿、この寒さは辛い。中に入ろう」
ミカンが震えている。屋上はそうでもなかったのにな。この中庭では、何か、寒さを防ぐ結界的な物が働いていないのだろうか。
うーむ。この階は外れか。まぁ、大量の魔石が手に入ったのはラッキーだったけどさ。
仕方ない、螺旋階段の下へと降りるか。
螺旋階段まで戻り、下へと降りていく。すると周囲の雰囲気が変わった。氷の壁から金属の壁へと変わっていく。これ、俺、靴を履いていて良かったよな。素足で歩いていたら、寒さで足が金属の階段に張り付いていたかもしれないぞ。
螺旋階段を降り続けると、何やらゴチャゴチャとした部屋に出た。部屋の至る所に巨大な試験管のような物が置かれており、そこから何かのチューブが地面を這うように伸びている。
これ、ガラスか? この世界では余り見かけない物だな。中に浮かんでいるのは……魔石か?
何で試験管の中に魔石が浮いているんだ? 何かの薬液にでも浸かっているのか? どの試験管の中も浮かんでいるのは魔石だった。小さな魔石や魔石になりかけの物まである。
うーん、ここは魔族の実験場か何かだったんだろうか。
しかし、誰も居ない城だなぁ。てっきり、レッドカノン配下の魔族や従っている魔獣とかがいると思ったのにさ。
人の気配がまったくないぜ。
屋上では無限とも思えるくらいに魔獣が現れていたのにさ。いざ、中に入ったら影も形もないなんて化かされている気分だよ。
まるでこの世界に俺とミカンしかいないみたいな恐怖体験だよ。
にしても、全部、まわってみたけどさ、何も無いな。
となると、残るは、あの部屋か。
仕方ない、適当にボタンを操作してみるか。運が良ければ、何とかなるだろう。