7-50 戦いをおえて後
―1―
レッドカノンを降したミカンがこちらへと振り返り、小さく笑う。そして、そのまま崩れるように膝をついた。お、おい大丈夫か?
俺は慌てて駆け寄り、ミカンを助け起こす。
「すみませ……すまぬ」
ミカンが刀を手に立ち上がる。
「どうにも終わったと思ったら気が抜けたようだ」
まぁ、レッドカノンはミカンの姉と両親の仇だったわけだからな。これでミカンの目的は――強くなって復讐するという目的を果たしたわけだ。
『ミカンはどうするのだ? これから実家の道場に帰るのか?』
もう目的は果たしたんだからな、実家の道場を継ぐのが筋だろう。
「ラン殿!」
と、そこでミカンが俺の小さな手を取り、顔を近づける。な、何だ?
「私の力だけではヤツに勝てなかった。ラン殿の力添えがあったからこそ、私は姉上と両親の無念を晴らすことが出来た」
そして、ミカンは俺の手を離す。そして俺から少し離れた場所で膝をつき、刀を置く。
「私の刀の主になって欲しい」
ん?
んん?
えーっと、どういうこと? 俺がミカンの主? いやまぁ、名前に主は入っているけどさー。
え、へ?
俺、芋虫ですよ。
超お間抜けですよ。
ミカンが真剣な表情でこちらを見ている。いや、あの、ここで目を逸らしたら怒られそうだなぁ。
でも、ミカンは14型とは違うからなぁ。主というのは……うーむ。
『分かった。考えておく』
答えを引き延ばすのだ。
「かたじけない」
ミカンがゆっくりと微笑む。
―2―
『ところで、その刀だが、何をやったのだ?』
鑑定してみるが、やっぱり失敗する。今度、《変身》した時にでも見せて貰うか。
「主殿から刀を受け取った時に、この刀がささやいたのだ。私は、その刀の思いに応えただけなのです……だ」
ふーむ。ミカンもよく分からないってコトか。
『刀の名前は? 銘が入ったようだが、それは分かるのか?』
ミカンが抜き身の刀を横に、刃紋をこちらへと見せてくれる。
「猫之上葉月蜜柑式らしい」
何じゃそりゃ。ミカンの名前が銘として入ったのは、まだ分かるけどさ、ミカンの名字って葉月ではなく、シラアイ(白藍)だろ? 関連性が分からないな。ミカンには刀の名前が分かるってのも、良くわかんなしさ。まぁ、その辺も《変身》した時に見せて貰えれば判明するか。うん、ちょっと楽しみだな。
まぁ、刀のことは良しとしよう。
で、だ。
どうやって、ここから脱出するか、だよな。
周囲を氷と風の嵐に囲まれているからなぁ。抜け出しようがないぜ。先程の戦いで打ち止めになったのか、とりあえず魔獣は出なくなったようだが、それでもさ、城の中には、まだまだうじゃうじゃ居そうだしさ。うーむ、それでも城の中を探索するべきかなぁ。
「主殿これを」
ミカンが何やら丸いコンパクトのような物を持ってくる。
「それとこれも」
もう一つはレッドカノンが使っていたルビードラゴンの剣か。俺は自身の小さな手でミカンから剣を受け取り、眺めようとして、そのまま地面に張り付けられた。な、何だコレ、無茶苦茶重い。重すぎる。俺の体が剣の重みで千切れそうだ。
「主殿、大丈夫か」
ミカンがすぐに剣を持ち上げ、助けてくれる。ミカンさん、凄い力持ちですね。って、鬼神の小手の力か。
この剣ってさ、もしかしてルビードラゴンの質量がそのまま凝縮されているとか、そんな感じなのか? ミカンてば、良くそんな剣と打ち合いをしていたな。この子も、意外と規格外だよなぁ。
で、例によって、この剣も鑑定出来ない、と。中級鑑定さんの株、だだ下がりだよ。
この剣、鑑定出来ないってコトからも分かるけどさ、凄い剣なのかもしれないな。けどさ、それでも微妙に要らないかも、なんだぜー。俺の知り合いに剣使いはいないし……あー、グレイさんがいるか。でもグレイさんには真銀の剣があるからな。よし、とりあえず本社の倉庫に保管だな。というわけで魔法のウェストポーチXLにしまっちゃいましょう。
後はコンパクトか。
これを開けたら、どうなるんだろうか。魔法少女に変身とか出来るのだろうか。
とりあえず開けてみよう。
コンパクトを開けると、周囲の風景が変わった。一瞬、闇に閉ざされ、それが晴れた先は氷の嵐に包まれた城の屋上だった。少し離れた場所にミカンの姿も見える。
ん?
んん?
転送された?
いや、でも、さっきと同じ屋上だよな?
もう一度、試してみよう。
コンパクトを開けると、俺の周囲が一瞬だけ闇に閉ざさる。そして、俺は、氷の嵐に閉ざされた城の屋上にいた。一瞬前とまったく同じ場所だ。
よし、少し離れて使ってみよう。
屋上の外壁部分まで近付き、コンパクトを開ける。すると視界が変わり、先程と同じように、一瞬、視界が闇に閉ざされる。そして俺は先程と同じ場所に移動していた。
『ミカン、自分はどう見えただろうか?』
「主殿が消え、この屋上の中央に現れたように見えました」
あー、ここって、この屋上の中央なんだ。
もしかして、これって、この城の屋上に転送する魔法具か何かなのかな。多分、レッドカノンが俺たちをナリンから転送させたのも、この魔法具の力だろうな。
凄いのか、凄くないのか。戻ってくるのが、必ず、この城の屋上ってコトだと、使い道が……。やっぱり《転移》スキルの方が便利だよなぁ。まぁ、何かの使い道があるかもしれないしさ、貰っておこう。
何か逃げ出さないと駄目な時に、一瞬で、この城に逃げることが出来る魔法具だもんな。
さって、となると、後は城の中の探索か。そこで上手く、この氷の嵐を抜ける方法を見つけ出さないと、このまま、ここで餓死確定だな。