7-47 戦うものたちと
―1―
「何にせよ、蹂躙するだけだぜ!」
レッドカノンの言葉に空にいたホワイトディザスターが頷く。
「ククク、まずは僕からっ!」
ホワイトディザスターが白銀のグリフォンに跨がったまま腕を振るう。そこに何かが生まれる。不味いッ!
『アルマ殿、貫通する攻撃が来る。打ち返せ!』
俺の天啓を受け、アルマが驚いたようにこちらを見、そして上空のホワイトディザスターを見る。
――[アイスウォール]――
俺の目の前に氷の壁が生まれる。ホワイトディザスターから放たれた見えない風の刃が氷の壁を貫通する。氷の壁に空いた穴の位置で軌道は読めるぜ!
俺の目の前に迫るように生まれた赤い線と共に飛んできた風の刃をスターダストと真紅妃で弾き返す。
横を見ればアルマも斧槍で見えない風の刃を弾き返していた。うん、大丈夫か。
「上空を取られているのは痛いようだ」
アルマは上空を見つめている。確かにな。
「おいおい、俺様を無視して何処を見てやがる」
俺の正面に爆発的な赤色が灯る。レッドカノンの魔法かッ!
燃え盛る大きな球体が飛んでくる。
――[ウォーターミラー]――
俺はとっさに水の鏡を作り、炎の球を跳ね返す。
「ほぅ、青みたいな魔法を使う魔獣かよ」
レッドカノンが跳ね返ってきた炎の球を手で受け取り、そのまま握りつぶす。
「何処まで持つかな?」
レッドカノンが次々と炎の球を作り出し、こちらへと飛ばしてくる。
――[ウォーターミラー]――
跳ね返す。
――[ウォーターミラー]――
跳ね返す。
跳ね返った炎の球がレッドカノンの体に炸裂する。しかし、炎の球は、衝撃を吸収されるように、かき消えた。
「所詮、魔獣、考える頭はないだろうなぁ」
レッドカノンがニヤリと笑う。そして、更に炎の球を作り、こちらへと投げてくる。だから、効かねえっての。跳ね返すだけだッ!
――[ウォーターミラー]――
跳ね返す。
「マスター! あの女はマスターが跳ね返した元素を魔素として吸収し再利用しているようです」
14型が叫ぶ。14型が叫ぶなんて、めずら……なんだと?
「機械人形の方が賢そうだな。その跳ね返す魔法、後、何回使えるんだ?」
レッドカノンが口の端を上げ、歪んだ笑顔を作る。くそっ、そういうことか。ウォーターミラーのMP消費、結構キツいからな。
「赤ー、クヒヒヒ、手加減した方がよかったんじゃない?」
白いのは白いので高みの見物かよ。
「ラン殿」
隣にいたアルマが俺に呼びかける。そして、俺を見て、さらに上空にいるホワイトディザスターを見る。何かやるつもりだな?
そこへ、またも炎の球が飛んでくる。
――[ウォーターミラー]――
跳ね返す。
「やはり、所詮は、あの悪魔が作った魔獣だなぁ! 考える知能もないか」
レッドカノンは楽しそうに笑っている。
と、そこへアルマが手に持った斧槍を投げ放った。しかし、斧槍は見当違いの、遙か上空へと飛んでいく。
「おいおい、何処へ……」
レッドカノンは笑いながら、炎の球を受け止め、吸収する。お前は吸収行動でも取ってろ!
空へと放たれた斧槍は空中で軌道を変える。
「クヒっ!? まさか!」
空のホワイトディザスターが気付き、白銀のグリフォンを動かす。しかし、遅い。斧槍がホワイトディザスター目掛けて迫り、グリフォンの頭を貫く。ちぃ、ホワイトディザスターは外したか。
斧槍に頭を貫かれたグリフォンが浮力を失い、落下する。その途中でホワイトディザスターが手に持った死に神の鎌を回転させ、飛び降りる。
「このヒトモドキがっ!」
難なく着地したホワイトディザスターが猛る。
落下したグリフォンが頭を振り払い、よろよろとだが、立ち上がろうとする。おいおい、頭を斧槍で貫かれているのに生きているのかよ。しぶといヤツだぜ。
『14型、とどめだ』
俺の天啓に14型が頷き――駆ける。そして、そのままの勢いでグリフォンまで迫り、凶悪な拳を、その頭へと叩き付ける。グリフォンの頭が地面にめり込み、砕ける。
これで、まずは目障りな白髪を地面にたたき落としたか。
「お前ら、お前らーーーー! 赤、ここは僕がっ!」
ホワイトディザスターが風を纏っていく。周囲に風の壁が作られていく。
あのさ、その攻撃さ、俺は見たことがあるんだぜ。通じるかよッ!
――《飛翔撃》――
槍形態のスターダストを構え、空へと飛ぶ。そして、そのまま、お前の無防備な上空へッ! 喰らえッ!
「おい、俺様を忘れていないか、よ!」
飛び上がった俺の横に、いつの間にかレッドカノンがいた。そして、そのまま俺へと炎を纏った蹴りが飛んでくる。くそっ! 《飛翔撃》の途中で軌道が変えられない。俺は、とっさにサイドアーム・アマラに持たせた真紅妃を構え、レッドカノンの蹴りを防ぐ。が、そのまま吹き飛ばされる。
「あなたも誰かを忘れている無能です」
と、そこへレッドカノンの背後に14型が飛び上がっていた。そのまま握りあわせた両拳をたたき落とす。レッドカノンはとっさに拳を振り上げ、14型の叩き付けを防ぐ。が、そのまま地面に叩き付けられる。
俺は地面に叩き付けられ、跳ね飛びながら、転がる。
転がりながら見れば、14型が、その怪力でレッドカノンを押さえつけている。レッドカノンは歯を食いしばり、14型の怪力に耐え続けているが、少しずつ地面が凹み、押し込められていた。
そこで、レッドカノンに何か赤い靄が立ち上る。何か、不味いッ!
『14型、離れろ!』
俺の天啓を受け、14型が素早く飛び退く。そして、そのまま、転がっていた俺を拾い、抱きかかえて王宮の扉前まで飛ぶ。それを追うようにレッドカノンを中心として大きな爆発が巻き起こる。
俺たちの前にアルマが飛び出し、爆発を防ぐように両手を広げる。
――[アイスウォール]――
――[アイスウォール]――
――[アイスウォール]――
俺はとっさにアルマの前に氷の壁を張る。
爆発が氷の壁を打ち砕き、アルマへと迫る。しかし、アルマは、それを受けきり、防ぐ。
「ラン殿が魔法の壁を作っていなければ、危なかったかもしれぬ」
アルマは篭手に覆われた手を振り払い、大きく息を吐いていた。無事か。
「赤ー、僕まで殺す気?」
ホワイトディザスターも先程の爆発に巻き込まれたのか、こちらから大きく離れたトコロでため息を吐いていた。
「お前ら、お前ら、お前ら! ヒトモドキに! 機械人形ふぜいに! それに使われている魔獣ごときがっ!」
レッドカノンの手に大きな全てを飲み込む恒星の如き赤が生まれる。
「喰らえっ! 全てを殲滅するアニヒレーションの魔法をっ!」
レッドカノンから恒星の赤が放たれる。
全ての視界が真っ赤に染まる。いくら吸収されるだけだとしても、跳ね返してやるぜっ!
「ラン殿、待たせたっ!」
そこへ、後ろの扉が開け放たれ、炎の陣羽織を纏ったミカンが飛び出した。
ミカンは赤い恒星へと駆け、そのまま恒星に両の手を突き出す。そして、それを無理矢理2つに分け、打ち砕いた。何という力業……。でも、これでっ!
「お前の火の魔法は効かない! 姉上と両親の仇、取らせて貰う!」
ミカンが長巻を構える。ミカンがレッドカノンの魔法を防いでくれるなら、無駄に反射して吸収されることもないからな、これでこちらがジリ貧になることはないぜ!
「あー、何なんだよ、お前ら、何なんだよ! 俺様は、な! 黒みたいに強いヤツと戦うのが好きなんじゃあないんだぜ! 俺様は強いヤツを蹂躙するのが好きなんだ! あー、くそ、あー、あー」
レッドカノンが長く伸びた赤い髪に手を入れ、その頭を掻き毟っている。
「赤、まさか、僕を置いて……」
「白、後で回収する。お前は残って俺様達の王のために使命を果たせ」
何だ、何をするつもりだ?
「厄介なのは、そこの魔法を使う芋虫と、俺様の火の魔法を防いで得意気になっている猫型のヒトモドキか」
レッドカノンが狂気の瞳でこちらを見る。
その瞬間、レッドカノンの姿が揺らめいた。
ミカンがとっさに長巻を構える。が、その構えごと吹き飛ばされる。しかし、すぐさま空中で体勢を整え、着地する。
『ミカン、大丈夫か?』
俺の天啓にミカンは頷いて答える。
「捕まえた」
そして、何故か、レッドカノンが俺の目の前にいた。
「マスター!」
14型が叫ぶ。
レッドカノンが俺の頭を掴む。ぎぎぎ、そこは掴む場所じゃねぇ……よッ! そして、そのまま俺を引っ張り、ミカンの近くまで走る。そして、ミカンの手を掴む。
「お前ら、俺様の城に招待してやるよ」
まさか、何かやらかす気か?
『14型! お前とエミリオに任せる。二人で守り抜け!』
俺が天啓を飛ばすと同時に視界が、周囲の風景が変わった。
2016年9月29日修正
姉と両親の仇 → 姉上と両親の仇
14型! お前に任せる。 → 14型! お前とエミリオに任せる。二人で