7-46 炎の陣羽織です
―1―
今日は隣がドラド商会じゃないんだなぁ、なんてどうでも良いことを思いながら、競売の様子を眺めていると、突然、14型が立ち上がった。ど、どうした?
「マスター、マスターの敵が迫っているのです」
俺の敵? 何のことだ?
14型は、そのままバルコニーの外へと歩いて行く。いやいや、ホント、どうしたんだ?
「あのー、ノアルジー商会の皆様ー、あのー」
ハルマは、バルコニーを出て行く14型と俺たちを見比べ、おろおろとしている。
まぁ、14型はポンコツそうに見えて、やっぱりポンコツだけどさ、それでも俺に不利益になることはしないヤツだからな。
俺はファリンの膝の上から飛び降りる。それを見たミカンが刀を手に立ち上がる。
「ランさま、どうされたのです?」
ファリンが不安そうにこちらを見ている。
俺の敵、か。
『ファリンは、いざという時に備えて、ここで待機だ。フルールを守ってくれ』
「かしこまりました」
俺の天啓を受け、ファリンが頷く。
「はぃー? どうしたんですのぉ」
フルールはご機嫌でお酒を飲んでいる。昼間からお酒とは、ホント、この犬頭、いい身分だよなぁ。まぁ、飲み物をお酒しか出してくれない、この国にも問題があると思うがね。
『ミカン、いくぞ』
「うむ」
ミカンと共に14型の後を追う。
王宮の外に出ようとしたトコロで兵士に呼び止められる。
「さっきの人といい、あんた方、競売中は許可のない外出は遠慮してくれ。無駄に疑われることになるぞ」
まぁ、そうなんだけどさ。
『外の様子はどうなっている? 何か異常が起きていないか?』
俺が天啓を飛ばすと、兵士の1人が頭を掻きながらも、外を見に行った。
「あいつが見てくるから、ここで待っててくれ」
兵士の一人は嫌そうな顔で俺を見ている。大丈夫か? にしても、よくもまぁ、14型は上手く外に出たもんだな。
閉じられた外への扉の前で待っていると、そこへ大きな音が響き渡った。何だ? 何かが壊れたというか、突っ込んできたかのような?
『おい、大丈夫か?』
どう考えても大丈夫じゃないよな。
「お、俺も見てくるから、待ってろ」
残ったもう一人の兵士も扉を開け、外へと走って行く。
扉の前には俺とミカンだけが残された。俺はミカンと顔を見合わせる。これは、アレだな、行くしかないよな!
「ラン殿」
『ああ』
―2―
扉を開け、外に出る。
そこは戦場だった。
空飛ぶ魔獣の群れと地を這う魔獣の群れが風の刃を飛ばし、火を吐き、都市を破壊している。こちらも兵士や空を飛ぶルフにのった騎士が迎え撃っているが、状況は余りよろしくないようだ。
「ノアルジー商会の方か! ここは危険だ、中に入っていて欲しい」
扉の側に長い斧槍を持ち鎧に包まれたアルマがいた。
『状況は?』
俺の天啓にアルマは少しだけ眉を上げる。
「突然、魔獣が出現した」
突然? 転送でもされてきたって言うのか?
『自分たちも手伝おう』
俺の天啓にアルマは首を横に振る。
「守りに長けたナリン国の底力をお見せしよう」
いやいや、そういうことを言っている場合じゃないだろ。
ルフにのって空を飛び、魔獣の群れを押さえ込んでいた騎士が、突然、吹き飛んだ。
「何事か!」
扉を守っていたアルマが空を見て叫ぶ。
「ククク、僕の敵じゃないなー」
そこには白銀のグリフォンに跨がり、巨大なカマを持った白髪の少女が居た。
こいつは、こいつはッ!
俺は知っている! 魔族、ホワイトディザスター!
そして、俺の目の前に腕を交差させ構えた14型が吹っ飛んできた。
「マスター、どうして、こちらへ?」
いやいや、お前こそ、何をやっているんだよ。吹っ飛んできた割にはのんきだな。
「お前、機械人形の癖に何なんだ? こいつが例のナンバーズか? なかなかやるじゃねえかよ」
火を吐く犬のような魔獣の群れの中から、炎を纏い全身を真っ赤に染め上げた女が現れる。
お前はッ!
「お前はっ!」
ミカンが叫ぶ!
そうレッドカノン。俺の敵、そして、ミカンの仇だ。
「他に骨のあるヤツはいねえのか」
レッドカノンが巨大な炎の固まりを浮かべてお手玉をしている。火属性……そうか。ミカンが炎の陣羽織を欲しがった理由、そうだよな。
『ミカン、お前は王宮に戻れ』
「ラン殿、それは出来ぬ、出来ません!」
ミカンが叫ぶ。
「たくよー、使いに出したヤツらから連絡がないと思ってみれば、俺様達はこれでも穏便に済ませようと思っていたんだぜ」
レッドカノンはニヤニヤと笑っている。
「ホントにねー。青は青で姫さまを見つけたって何かやってるしさー」
俺はミカンを見る。
『違う、俺がここで、こいつらを足止めする。その間に、お前は炎の陣羽織を取ってこい』
俺の天啓を受け、ミカンが息を飲み、そして頷く。さあ、行け。
『アルマ殿、こいつらは魔族だ。それも凶悪な、な』
俺の天啓に、アルマが驚きの声を上げる。
「何故、魔族が!」
さてと、真紅妃、お前の仇だな。前回よりも強化された力を見せつけないとな。
俺は真紅妃と槍形態のスターダストを構える。それを見たアルマも斧槍を構える。
「僕と赤もいるのにー? ククク、どうにかなると思っているんだ。おかしなヒトモドキたち……って、あれ?」
「どうした? 白」
「あいつ、あの巨大な芋虫、見たことがある」
「ヒトモドキに使われている、ただの魔獣だろ」
こいつら、俺のコトを好き勝手言いやがって。特に赤いの! 俺のコトを忘れているのか。そうかよ、そんなに雑魚に見えていたのかよ!
いいぜ、それを後悔させてやる。