7-44 妖精の鐘落札だ
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さて、どうする?
向こうの様子を見るに、相手が提示してきたのは、結構、ギリギリな気がするな。
「ふん、無異品だというだけで、よく分からない物に、いきなり大金をつぎ込んで目立とうという魂胆だろうが、無駄だったようだな! ふん、新興の商会らしい浅知恵だな」
このターバンのおっさん、汗をだらだらと飛ばしているような状態なのに、ドヤ顔で鬱陶しいったらないな。
はぁ、何だろう、このおっさんの顔を見ていたらさ、思いっきりやるべきだって気持ちになっちゃうよな!
「ハルマ、5,000だ」
「へ、は、い、今ー、何と言われまーした?」
ハルマは、余りの事態について来られていないようだ。
「ハルマ、もう一度言うぞ、金貨5,000枚だ」
俺の言葉にハルマがいやいやいやとでも言わんばかりに手を振る。
「申し訳ありまーです。5,000枚だと半端が……4,800枚で、どうーです?」
むぅ、そうなの? それなら、とりあえず4,800枚でいいか。
「分かった。4,800枚で頼む」
「本当によいーですね?」
構わぬよ。
俺が頷くとハルマが恐る恐ると、赤い旗と二つの白い旗を取り出し、それを振る。
「何と! ノアルジー商会、ここで4,800枚です! 4,800枚です!」
司会の人の声にあわせて下で状況を見ていた商人達が大きく驚きの声を上げる。そりゃまぁ、15億円だもんな。俺もびっくりだよ。自分のお金だって実感が湧かないからこそ、今みたいにガンガン使えるけどさ、普通だったら無理よ、無理。
隣のドラド商会を見るとターバンのおっさんがこちらを取り殺しそうな勢いで血走った目を大きく見開いていた。
「ぐぐぐ、ぎぎぎ、こちらも4,801枚で……」
ターバンのおっさんが口を開き、ナリン国の案内人に提示しようとする。
「ダメです、ドラド様! それ以上は、商会に痛手が!」
しかし、それをターバンのおっさんの隣に座っていた男が止める。
「しかし、だ! あのような新興に舐められて」
「冷静になってください!」
男の言葉に、ターバンのおっさんが手を止め、大きく息を吸い込み、そして、ゆっくりと吐き出す。さらに男がターバンのおっさんに何事かを耳打ちする。それを聞いて落ち着いたのか、ターバンのおっさんは嫌な笑顔を作り、こちらへと向き直った。
「ふむ。ここらで私の商会は降りるぞ。お前のところが! 私の商会に、あんなよく分からない物を掴ませて、散財させようと企んでいたことは分かった。だがな! そのような手にのるものか!」
いや、そんなことは考えてないぞ。お前のところが勝手にのってきただけじゃん。俺はさ、普通に3,200枚で手に入れるつもりだったんだぞ。無駄に散財させやがって……ッ!
「さてさて、あくどいことを考えていたノアルジー商会に4,800枚もの金貨が払えるかな? 何なら貸してやってもよいぞ」
ターバンのおっさんが小狡くさえずる。
「ファリン」
俺はファリンに呼びかける。俺の言葉を聞いたファリンは力強く頷く。
「他にいませんか! ではでは! 『古代の鐘』はノアルジー商会様が4,800枚で落札です! ついに、この『古代の鐘』が旅立つ時が来ました!」
司会の人はノリノリだ。
そして、表情が見えない程度の薄い布で顔を隠した色っぽいお姉さんが、台車を押して、俺たちの前に現れる。
「ノアルジー商会の皆様、金貨をお願いしーます」
こちらを見て、ハルマがにっこりと微笑む。何だろう、怖い笑顔だな。
「ファリン」
俺の言葉にファリンが頷き、懐から魔法の小袋を取り出す。そして、中から金貨の束を1つずつ取り出し台車の上に置いていく。
「1つの束が80枚、それが60個あるはずです」
台車の上には金貨が積まれ山のようになっていた。うむ。ちゃんとあるな。さすがはファリン、有能だなぁ。
「ええ、確かにありーます」
ハルマの笑顔が柔らかい物に変わる。
「これで『古代の鐘』はノアルジー商会のものになりーます。お渡しは競売後になりーますので、それまで引き続き、競売をお楽しみーです」
ああ、今すぐ貰えるワケじゃないんだ。まぁ、もう1個、エリクサーって目的があるから、ゆっくり競売を楽しみますか。
「ありえん! ありえん! 認めんぞ!」
お金のやり取りが済んだトコロで隣のターバンのおっさんが騒ぎ出した。何だよ、いちゃもんをつけるつもりかよ。
「お前らの商会は金貨の枚数が足りないはずだ! 私のドラド商会が手を回したんだからな! どこも両替には応じなかったはずだ!」
何を言い出すんだ、このターバンのおっさん。
それを聞いたファリンは、それこそ、胆の小さな者なら震え上がるような恐ろしい顔で笑った。
「なるほど。やはりドラド商会でしたか」
「お前は! 何をした!」
「あなたの商会よりも、ランさまの、ノアルジーさまの商会に未来を感じた人が多かったというだけです。そして、先程の競売での様子で、あなた方の商会の内情もほぼ見えました。ユエさまに良いお土産が出来ました」
鬼の顔だなぁ。
「お前は、何を言っているんだ……」
ターバンのおっさんはファリンの視線から逃げるように顔を逸らし、震え上がっていた。ファリンは怒らせない方が良さそうだ。
まぁ、俺は妖精の鐘ゲットです。