7-42 いざ、競売です
―1―
「ランさま、集まりました」
部屋へとファリンの大きな体が駆け込むように飛び込んでくる。さすがはファリン、有能だな。
「ノアルジー商会の皆様、準備は出来たようーですねー。競売の開催まで、もう余り時間がありません、会場に向かいーますよ」
ハルマは今にも駆け出しそうな勢いだ。しかし、俺はハルマの言葉に待ったをかける。
『すまないが、14型とエミリオを除き、皆、部屋の外に出て貰えないだろうか』
「どういうことでしょうか?」
俺の天啓にファリンが首を傾げる。それを見た14型が皆へと振り返り、スカートの裾を掴んでお辞儀をする。
「想像する力がないのならば、考えずに動くのです。マスターが外に出ろといっているのです。それに従うのが下々の役目なのです」
14型が皆を見回し、大きく口の端を引き上げる。
「わ、わかった。すまぬ」
まずはミカンが部屋の外に出る。
「申し訳ありません」
次にショックを受けたような顔のファリンが外に出る。
「あ、お待ちしておりーます」
ハルマも外に出る。
「へ、何なんですのぉ」
椅子に座ってくつろいでいたフルールが14型に引っ張り出される。
そして14型はそのまま部屋に鍵をかける。これで外からは侵入されない、か。
はぁ、これが必要だからな。仕方ないか。いざという時のために取っておきたかったんだが、今が、そのいざっていう時かもしれないからな。
さて、と。
――《変身》――
―2―
「もう構わないぞ」
俺は扉を開け、外で待っていた皆を呼ぶ。
「あら? ランさまが、ノアルジーさまに? どういうことですのぉ?」
フルールが、キョトンとした顔でこちらを見ている。
「へ、ほ、どういうことーです?」
ハルマは首を傾げいる。こういうことです。
「俺が……いや、私がノアルジだ。すまないが、もう少しだけ時間を貰えるかな?」
俺は気取った口調でそう言った。そう言ったのだ!
「はぁ、まー、まだ大丈夫だとー、です」
ハルマは、よく分からないとでも言いたそうな顔のまま、そんなことを言っていた。
「フルール、すまないが、すぐに出来るなら、だが、お前が持ってきている頼んでいた俺の鎧のサイズ合わせをして欲しい」
完成したって言っていたもんな。ついで、ついで、だよ。ハルマがまだ大丈夫って言ったんだ、それくらいの時間、あるよな?
そのハルマは何やら唸っていた。
「まさか、失われた転送魔法? いや、でも、それーとも転送の魔法具? むむむ、謎なのーです」
まぁ、時間は大丈夫そうだな。
「ノアルジーさま、すぐにやりますわぁ」
フルールがきらりんと目を光らせ、動く。自分の分野になると動きが素早いなぁ。
部屋に戻り、フルールが取り出した青と赤に輝く鎧を身につける。鎧というか、法衣って感じだな。聖騎士とか、そういうカッコイイ人たちがつけてそう。いや、聖騎士っていうとジョアンがそうだよな、そう考えると微妙な感じに思えてくるのは、なんなんだろうか。まぁ、一応、紅い瞳の方で鑑定しておくか。これも、普通の鑑定だと読み取れなさそうだしな。
【ガーブオブレイン】
【氷嵐の主専用の鎧。水と風の力を宿し、持ち主に癒やしの力と統治する力を与える】
よく分からんな。癒やしの力ってさ、着けていたら、傷が癒えるとか、そういう不思議なことが起こるのか?
まぁ、アレだ。水と風の属性を持っているということは何処でも氷魔法が使えるってことだな。これ、芋虫形態でも装備したいなぁ。便利だよね。
「完成ですわぁ」
俺が鑑定している間にフルールのサイズ合わせは終わったようだ。うむ、ぴったりフィットして、快適な着心地だ。いつまででも着ていたいと思わせる感じだな!
さあて、それでは、いざ競売。
ガーブオブレインにくっついているマントをバサッと翻しながら肩を怒らせ歩くのだ。うーむ、俺ってば、割とカッコイイかもしれない。