7-40 競売の話なるぞ
―1―
「ご説明しますので、皆様、お席へどーぞー」
ハルマが部屋の中へと案内する。
そして、その先にはやはりテーブルと俺が座れない形状の椅子が置いてあった。ここも椅子の数は八脚なんだな。
「マスター、仕方ないです。余り、気は進まないのですが、特異な形状のマスターの為に仕方なくなのです。どうぞ、マスター」
14型が我先にと椅子に座り、膝を叩いていた。いや、座らないからな。
『話を聞こう』
俺はハルマに天啓を飛ばす。
「ま、マスター!?」
14型さんはそこでゆっくり座っていてください。
「あのー、よろしいーので?」
『構わぬ』
ハルマはちょっと顔を引きつらせながらも頷き、説明を始める。
「まずは競売についてご説明しーます。競売とは出品された品に皆で金貨をだしあって、一番多く金貨の枚数を提示した人が買う催しになりーます」
まぁ、そうだよな。俺の想像していた競売と同じだ。
「競売の取り扱いは金額ではなく、金貨の枚数になりーます。白金貨も小金貨も使えまーせん。金貨のみです」
へ? 金貨? 金貨って一枚327,680円だよな? 大丈夫か?
俺は思わずファリンの顔を見る。ファリンは心配しないでくださいと言わんばかりに力強く頷く。大丈夫そうだな。
「出品者の決めた最低金貨枚数から始まり、一枚単位で数を増やせーます。ただし、一度に増やす枚数は8枚までにしてくだーさい。それ以上は規則違反なのーです」
金貨8枚って……。最大で260万もの金額を一気に増やすのか? と、そういえば、ハルマさんの言葉、円に換算されずに枚数で喋っているな。何だろう、何が違うんだ?
「しかーし! 枚数が800枚を越えてからは何枚足しても大丈夫です。覚えておいてくだーさい」
って、へ、はっ? 800枚だと? それって2億6千万だよな? いやいや、2億を超えるような品が出てくるってこと? 何、この競売って、頭おかしいの?
さ、さすがにうちの商会でも億は用意できないよな? 出来ませんよね?
「1つの商会が購入できるのは3点までという決まりがありーます。1つの商会での買い占めを防ぐためでーすね。守ってくだーさい」
なるほど。確かに大金を用意して1つの商会に買い占められたら、その時は良くても、今後の競売が成り立たなくなる可能性があるもんな。
「明後日には皆様に最低枚数が記載された出品目録が配布されーます。それを見て狙う商品を決めてくだーさい」
あ、ちゃんと目録があるんだ。何が出るんだろうってワクワクするのもいいけどさ、そっちの方が迷わなくていいな。
「次に出品ですーね」
お、やっぱり出品も出来るんだ。一応、フルールが何やら準備していたもんな。今もファリンが大きな荷物袋を持っているしな。
「出品には一品につき、金貨1枚が必要になりーます」
へ? 出品するだけで金貨1枚? 32万円もお金をとるの? おかしくね?
「これは、もし、誰も買い手がつかなかった場合は戻ってきーます」
なるほど。売れた場合はもちろん没収されるんだろうな。それが王宮の儲けって感じなのかな?
「出品する品の金貨の枚数は自由に決めてくだーさい。ですが! 余りにも非常識な、商人としての品格を疑うような枚数の時は、こちらで出品を取り下げーます。最悪、今後、一切の競売への参加を禁止しーます」
な、なるほど。大きく儲けるチャンスかもしれないが、商人としての目利きも問われる、と。難しいなぁ。
「ノアルジー商会も出品されるものがあるーなら、本日中にお願いしーます。明日には目録を作る必要がありますーので」
なるほどな。にしても、どれだけ出品されるのか分からないけどさ、明日だけで目録を作ってしまうのか?
……いや、違うか。遅れてきたのは俺らくらいだから、他はもう、出品が終わっていると見てもいいかもしれないな。
『フルール、ファリン任せた』
俺の天啓にフルールとファリンが頷く。まぁ、出品するものを持ってきたのはフルールだからな、フルールとファリンに任せておけば大丈夫だろう。
「出品の品でーすね。分かりました。どうぞ、こちらに」
ハルマとともに大きな荷物袋をもったファリン、それに付き従う形でフルールが部屋を出る。
さてと、では俺たちはゆっくりとくつろぎますか。
―2―
ファリンとフルールは軽くなった荷物袋を持って戻ってきた。出品はうまく行ったのだろう。
そして、翌日。
俺たちは特に何かをする予定もないので食事をして、ゴロゴロすることにした。
ハルマから聞いていた食堂に向かうと何故かカエルの王様がいた。座って食事をしている商会に近寄っては離れ、また何かを探すように、といった感じで食堂内をうろちょろとしている。
この王様を放し飼いにしていても大丈夫なのか? いや、よく見れば壁際に兵士が立って、王様の動きを追っているな。下手なことをすれば、あの兵士たちがすぐに動く、と。
「おー、変わったのがおるぞ」
こちらに気付いた王様が、おうおう、と呟きながら、こちらへ飛び跳ねてくる。へ? 俺らを探していたのか。
「ナリン国王、エカルテ・ノルン・ナリンなるぞ」
あ、知ってます。それ、3度目ですよね。
『ノアルジ商会オーナーのランだ』
俺の天啓にカエルの王様は、うんうんと頷いている。
「ノアルジー商会は水が有名と聞いておるぞ。何故出品しないであるか?」
へ? そういうのって有りなんだ。有名って言われても俺が魔法で作った水だしなぁ。
『そちらは普通の商売に使う物ゆえ』
「なるほどなるぞ」
カエルの王様はうんうんと頷いている。あ、そうだ。
『ノアルジ商会でグァグの卵を食べたいので、グァグ自体を譲って貰いたいのだが、ダメだろうか?』
「構わぬぞ」
あ、構わないんだ。
「後でちゃんとお金を払うのだぞ」
もちろんです。
では、もういっちょ。
『ノアルジ商会でもルフを使いたいのだが、譲って貰えないだろうか?』
「構わぬぞ」
あ、構わないんだ。
「しかし、ルフは高額なるぞ」
はーい。払えるなら買って帰ります。
では、もういっちょ。
『拳士の石碑があると聞いたが、使わせて貰えないだろうか?』
「よく分からぬが、競売の後なら構わぬぞ」
あ、構わないんだ。王様の懐は広いなぁ。
では、最後に。
『料理人のタクワンをノアルジ商会で雇いたいのだが、ダメだろうか?』
「ダメじゃ!」
あ、王様凄い顔です。怒ったような顔で否定された。
「私から食べる楽しみを奪うのはダメなるぞ!」
そっかー、ダメか。これは交渉の余地も無さそうだな。
むむむ。
残念だなぁ。