7-39 話がすすまない
―1―
「魔人族が……いるなんて……」
俺の天啓を受けてハルマが大きく驚く。
『どうするんだ?』
ハルマは、ゆっくりと頭を振り、こちらに向き直る。
「急ぎ兵長と相談します。ノアルジー商会の皆様はこちらでお待ちいただけますでしょうか」
焦っているからか、間延びした口調じゃなくなっているな。
さて、ではハルマに任せて、俺たちはゆっくりと待ちますか。
用意されていた席へと向かう。ちょうど席が1つ分空いているな。あれが俺たちに用意されたスペースかな。
驚いている他の商会の人間たちを無視して空いている席へと向かう。
と、そこで俺は足を止めた。用意された席を見る――少し大きめの円形状の机に、それを囲むように椅子が8個か。まぁ、今いる人員は14型、エミリオ、フルール、ファリンにミカンだから、椅子の数は充分足りるんだよな。フルールなんか、すでにちゃっかり椅子に座ってくつろいでいるしさ。
で、だ。俺が椅子に座れない。いや、あの、俺の体型だと椅子に座れないんですけど……。本社にあるようなマッサージチェアみたいな包み込むような椅子じゃないと無理なんだって。あー、もう、どうしたものかなぁ。
「ランさま、どうされました?」
背の大きなファリンが屈み、こちらの顔をのぞき込む。
『いや、椅子が、な』
座れないのだった。まぁ、俺は別に立ったままでも困らないから、最悪、芋虫スタイルでその辺りに転がっているけどさ。
「ランさま! 失礼します」
そう言うが早いか、ファリンは椅子を大きく引き、そして俺を持ち上げた。へ、今、ひょいと持ち上げられたぞ。いや、俺だって結構重いよな。
そして、だ。
ファリンが俺を抱きかかえたまま椅子に座る。いや、あの、え、へ? いやいや、え、ちょ、ま、お前。俺の背中に色々当たっているぽいが感触がない。ああ、この姿だからか……。
何というか、凄く恥ずかしいです。羞恥プレイです。俺が小さな子どもみたいじゃないか。
しかもファリンの力が凄く強くて抜け出せないんだぜ。気分はぬいぐるみだ……。
「ま、マスター!?」
―2―
ファリンに抱きかかえられたまま待っていると、アルマを引き連れたハルマがやって来た。
「話は聞いた。商人の中に魔人族が混じっていたとは……。ノアルジー商会には二度も助けて貰いっ!」
鎧に包まれたアルマが頭を下げる。亀が頭を出し入れしているみたいだな。
おー、下の方では兵士が例の商人を連れて行っているぞ。いやはや、何を企んでいたか知らないけどさ、事前に防げて良かったよ。
ホント、魔人族の連中はろくな事をしないからな。
「この恩は、このアルマ、忘れない」
ま、俺としても、競売で問題が起きたら目当ての品が手に入らないかもしれないからな、お互い様よ。ま、目当ての品が出品されるかは、分からないんだけどね。
アルマはもう一度頭を下げ、その場から去った。あー、魔人族の尋問とかするのかな。
「ノアルジー商会の皆様、いきなり……こほんっ、色々ありましたがー、王様の挨拶が始まりまーす」
ハルマはニコニコとした笑顔になり、お辞儀する。
あー、やっとか。
舞台の上では、待ちくたびれたかのような蛙の王様が動いていた。
「私がナリン国王、エカルテ・ノルン・ナリンなるぞ」
立ち上がった蛙の王様が偉そうに付け髭を伸ばしていた。俺ん時と同じ挨拶じゃねえか。
国王の第一声にあわせて、各席に料理が運ばれてくる。おー、ご飯だ。
飲み物や食べ物が、どんどん置かれていく。下の階では、こういうサービスはないみたいだな。上の席にいる商会専用か。
「今回も、私の国が主催する競売に参加し……私も食べたいであるぞ」
話の途中で王様がそんなことを言っていた。
「王様、話が終われば、食べられますから、ここは我慢してお願いします」
すぐ後ろに控えていた兵士が王にそんなことを言っていた。
「うむ、仕方ないなるぞ」
この王様、大丈夫か?
―3―
無駄に長かった王様の自慢話が終わり、その場は解散となる。席に座って、食事と会話を楽しんでいた他の商会の連中が立ち上がり、ぞろぞろと部屋の外へ出て行く。
俺たちも席を立ち、ハルマの案内で王宮内にある宿泊施設へ向かう。
「あのような王で大丈夫なのだろうか」
ミカンがぽつりと呟く。
「ナリンは、私たちの国はー、この水場を管理していた王様達を保護するために作られた国ですからー。この国でも水は貴重なのーです。それを管理する王様を敬うのは当然だったのです」
呟きを拾われたミカンは、驚き、恥ずかしそうにうつむいた。全然、敬ってないと思うが。どちらかというとマスコットぽい扱いのように見えたが。
最初のエントランスに戻り、今度は左側の通路に進む。
「ここにはー、王宮料理人がこの時の為に用意した数々の料理が食べられる食堂、ゆったりと体を休めるお部屋を用意しておりーます」
王宮料理人というとタクワンか。さすがにさっき食事をした所だからな、食堂は後だな。
「お部屋まで案内しまーした」
複数並んだ扉の1つをハルマが開け、お辞儀をする。
中は広く、家具なども一通り揃っているようだった。
「鍵を渡しておきます。この鍵は魔法具になっており、なくされると出入りできなくなるーです。注意してください。鍵をかければ外部からの侵入はなくなりますから、安心してお休みくだーさい」
何故か14型がハルマから鍵を預かっている。いや、14型さんに預けるのは不安だなぁ。
『ところで競売の事を聞きたいのだが、良いだろうか?』
俺の天啓を受け、ハルマが頷く。
「そうでした、そうでーした。初参加のノアルジー商会の皆様にご説明します」
ふぅ、やっと競売か。