7-37 あるいていこう
―1―
池の方を眺めると鴨のような鳥が水の上を歩いていた。何だ、アレ? 言葉通り、歩いているんだが……。
普通さ、水鳥はさ、足下は水の下で、すーい、すーいって感じで動いているんじゃないか? 何で、水の上を歩いているんだ? あの足指に水を弾くような謎の力があるんだろうか。うーむ、謎な動物だなぁ。
しばらくして王宮の中から、何処かで見たことのある兵士がやって来た。
「ノアルジー商会が来ている? どういうことだ?」
「隊長、言葉通りです」
先程の兵士と一緒に現れたのはアルマと名乗っていた巨大な鎧だった。
巨大な鎧に包まれた男がこちらを見る。
「君たちがノアルジー商会の……む?」
巨大な鎧の視線が俺の上で止まる。
「君は星獣様か?」
「ノアルジー商会のオーナー、ランさまです」
「私のふがいない素敵なマスターです」
ファリンと14型がはもるように喋る。あのー、14型さん、不甲斐ないの意味、分かってます?
「君が、か? 私の出会ったノアルジー商会のオーナーは少女だったように思うのだが、どういうことだろうか」
鎧が、うむ、うむと唸っている。
『あのものは自分の身内だ。アルマという兵士の話は聞いている』
「そうか。そうなのか」
そうなのだ。
「もう一つ聞いても良いだろうか。私には他種族の見分けがつかないのだが、以前、山岳都市ミアンで会ったことがないだろうか?」
なるほど。俺のコトを、星獣ではなく、こういう種族だと思っているのか。確かにファリンも14型も星獣だとは答えなかったもんな。
『いや、何のことだろうか?』
とぼけておこう。よっくわっからないなー。
「そうか。すまない、忘れて欲しい。それと、もし良ければだが、あの帝国貴族の少女にアルマが非常に感謝していたと伝えて貰えると嬉しいのだが」
アルマが金属鎧の胴部分に埋まりそうな勢いで頭を下げる。
『分かった。覚えておこう』
まぁ、過ぎたことだしな。
―2―
「しかし、君たちはどうやって、ここに入ったのだ?」
俺は小さな手を上に上げる。
『空からだ』
それを聞いたアルマは驚き、そして口を曲げ難しい顔になる。
「なるほど。確かに今日は門の出入りにばかり気を取られ、ルフを休ませ、空の注意を怠っていた。これは私たちの怠慢だ。申し訳ない」
あー、そういえば、今日は空に巨大な鳥がいないな。アレが、確かルフって名前なんだよな。
「隊長、ノアルジー商会は今回が初参加です」
「そうか、ならば、知らないのも仕方ないだろう」
うん? どういうことだ?
「説明しよう。王宮内で行われる競売が近付くと、数々の商会が、このナハトフロッシュにやってくる。その際、商人どもは自分の力を誇示するために豪華な竜馬車で門から王宮まで動くのだ。そして、それは商人どもの暗黙のルールとなっている」
なんだ、と。
「中にはお金をばらまきながらやってくるような商会もある。それ目当ての連中が門の外に集まって私たちとしては困っているのだがな」
あー、外の連中はそういうことだったのか。
「ノアルジー商会では何か乗り物を用意していないのだろうか? 他の商会が竜馬車の中、君たちだけ歩きというのは……」
うーむ。なるほど、それでパレードみたいになっていたのか。商会の力を誇示する意味もあるんだろうな。
乗り物、乗り物なぁ。
あ!
『とりあえず、一度門の外に出て、そこから乗り物で入ってくれば良いのだな?』
「強制ではないが、そうして貰えると助かる」
まぁ、俺もさ、うちの商会が、そんなことで舐められるのは嫌だしな。
「あ、自分が外までの道を案内します」
アルマの後ろにいた兵士さんが胸を張る。あー、助かります。
―3―
兵士さんの案内で建物の裏を通り、門まで歩く。そこから兵士専用通路を通らせて貰い、こっそりと門の外に出る。
「それではお願いします」
手を振っている兵士さんと別れ、荒れた道の途中まで進む。
「ランさま、どうされるつもりですか?」
ファリンは首を傾げている。
「ランさま、フルールは歩き疲れましたわぁ」
そのファリンに担がれているフルールはため息を吐いていた。いや、お前、自分で歩いてないじゃん。大変なのはファリンじゃん。
「マスター、人数は大丈夫なのですか?」
人数?
あ、ああ。14型は俺がやろうとしていることが分かっているのか。
『エミリオ、頼む』
俺が天啓を飛ばすとエミリオは仕方ないなぁ、とでも言わんばかりに一声「にゃあ」と鳴き、その姿を大きく変えていく。
『エミリオの上には俺と……』
そこでフルールと目が合ってしまった。仕方ない。
『フルールだな。すまないがファリンと14型は歩いて貰う』
俺の天啓にファリンが頷き、14型がお辞儀をする。
「私は体が大きいですから、前を歩けば護衛に見えるでしょう」
ファリン、すまないねぇ。本当は交渉とか、そういう部分で頑張って欲しいんだけどな。ま、まぁ、それは王宮に入ってからか。
力強く歩く羽猫と共に門の中へ入る。
その瞬間、大きな歓声が上がった。うわ、凄いな。本当にパレードって感じなんだな。
『ファリン、自分たちもお金をばらまいた方が良いと思うか?』
さっき、そういうことをしている商会もあるって聞いたからな。
俺の天啓にファリンは静かに首を横に振る。
「止めた方が良いと思います。私が言うのもおこがましいですが、ノアルジー商会らしくないと思います」
なるほど。まぁ、そういうのは、確かに、ちょっと下品な気がするもんな。
周囲の歓声を受けながら、俺たちは王宮へと進む。
2021年5月10日修正
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