7-34 よくわからない
―1―
えーっと、王様、帰っちゃいましたけど、俺はどうしたらいいんでしょうか。にしても、どうせなら王様を鑑定しておくべきだったなぁ。何て名前の種族か気になるじゃないか。
周囲の武装集団もこれで解散とばかりにバラバラと動き、王宮の中へ帰ろうとする。いやいや、俺はどうしたらいいんだ?
『すまないが……』
とりあえず天啓を飛ばしてみる。
「ああ、ノアルジー商会のノアルジーさん、もう大丈夫ですよ」
1人の親切な兵士? が反応する。何が大丈夫なんだ?
「競売まで、まだ日数もありますから、他の商会の方々と同じようにアダンの町で待ってて貰って大丈夫ですよ」
えーっと、どういうことですかね。アダンの町って場所もよくわからないんですが、俺はどうしたらいいんですかね。
何だろう、色々と聞きたいのに、何も聞けないような状況だなぁ。向こうの知ってて当たり前みたいな雰囲気も気になる。
『ここら辺で人目の無い広場とかはないだろうか?』
俺が天啓を飛ばすと親切な兵士さんは、少し不思議そうな、そんな顔を作りながらも考え教えてくれる。
「商会の人々にはそういう場所が必要なんですかね。えー、そうですね。ここだと、この王宮をぐるっと回った裏側が人目に付かないと思いますよ」
なるほど。とりあえずそこで《転移チェック》をしておくか。
にしてもよく分からないまま、よく分からない王様の話を聞いて、よく分からないまま終わったな。王宮にも入れそうにないし、俺の相談――というかお願いも聞いて貰えそうにないし、これは競売の日まで本社や学院での雑用を片付けて過ごしますか。
―2―
王宮を取り囲んでいる池沿いに歩いて行く。にしても、何かが潜んでいそうな池だな。それこそ、さっきの王様が泳いでいても、俺は驚かないぜッ!
ぐるりと回り込み、王宮の裏側に到着する。王宮の裏側はすぐ近くが高くそびえ立つ岩壁だからか、人が寄りつきそうにない薄暗くジメジメとした日陰になっていた。
にしてもさ、他が寂れている割に豪華で大きな宮殿だよな。下手な球場三個分くらいはあるんじゃないか? ますます謎な国だ。これも競売が始まれば謎が解けるのか?
――《転移チェック8》――
とりあえず《転移チェック》をして、と。《転移》のチェック順番もそろそろ精査しないとなぁ。《転移》スキルは凄い便利だけどさ、8個までってのは、なぁ。ナハン大森林に居た頃は、それでもよかったけどさ、今のように大陸中を移動するとなると数が足りません。無限にチェック出来たらよかったのにな。いや、まぁ、そうなると、今度はどのチェックが何処だったか分からなくなるか。
『ミカン、一度、迷宮都市に戻るぞ。よいな?』
俺の天啓を受け、ミカンが一瞬、よく分からないと言った感じの表情を作るが、すぐに顔を引き締め頷いた。よく分からないけど、分かったって感じだな。うん、いつものミカンだな。
――《転移》――
《転移》スキルを使い迷宮都市のノアルジ商会支社へと戻る。あっ! どうでもいいけどさ、スキンヘッドとモヒカンのおっさんズたちよりも早く迷宮都市に戻ってきたんじゃないか? だって、彼らとは今日別れたばかりだもんな。いやぁ、彼らも《転移》で送ってあげた方がよかったのか? ま、まぁ、そこまで俺が手の内を見せる必要は無いか。
『ミカン、競売の日までここで腕を磨いてはどうか?』
俺の天啓を受け、ミカンは首を傾げた。
『また競売の日が近付いたら、戻ってくる。その時は護衛を頼む』
続けて飛ばした天啓を聞いてやっと意味が分かったのか、ミカンが力強く頷く。
さあて、ミカンは迷宮都市で降ろしたし、俺らは本社に戻りますか。
『では、またな』
――《転移》――
―3―
《転移》スキルを使い本社に戻る。
『14型、ユエを呼んでくれ』
俺の天啓に14型が優雅にお辞儀をし、そのまま消える。だから、消えるって何だよ、お前、忍者か? 忍者なのか? 超知覚スキルを持っている俺でも捉えきれないとか、おかしいよね、おかしいよな?
まぁ、いい。羽猫、会議室で待つぞ。
「にゃ!」
羽猫とともに会議室で自分専用の椅子に座ってくつろいでいるとユエがやって来た。
「ランさま、お呼びと聞いて来ました」
おうおう、ユエさん、いつもすまないねぇ。
「ランさまはナリン国に向かったと聞いていたのですが」
『もうナリンの首都には到着している』
しているのだった。ユエは顎に手をあて、少し考え込み、何かに思い当たったのか、一つ軽く頷いて顔を上げた。
「そういうことなのですね……」
そういうことなのだ。まぁ、ユエは《転移》スキルを知っているからな、すぐに想像出来るだろうよ。
『ところで、ユエ、少し聞きたいことがあるのだが、よいだろうか?』
「私で分かることであれば……大丈夫です」
ユエが片眼鏡を持ち上げる。
『アダンの町を知っているか?』
俺の天啓にユエが頷く。
「それなら私でも知っています。アダンという植物が名産品の町です」
へー。
「商人の間では有名な町ですね。何せ、商人の集う町ですから」
集う町?
「はい。商人同士の情報交換、物々交換、そういった商人の交流の場になっているそうです。それが発展して年に一度くらいの規模で大きな競売を開いていると聞いています」
へー、そうなんだ。
ん?
んん?
競売ってナリンで行うんじゃないのか? いや、でも王宮前での話では間違ってなかったよな。んー、よく分からんな。
まぁ、競売が開始されたら分かるか。