7-33 ナリン王なるぞ
―1―
仕方ない歩くか。
少し歩くと近くにあったあばら屋から人が現れた。ん?
人は次々と現れ、俺らを取り囲んでいく。いや、何、ヤバイ? 不味い?
そして、人々が叫んだ。
「お恵みをー!」
1人が手を伸ばしたのをきっかけに周囲の人々が我先にと、手を、こちらをむさぼるように叫びながら手を伸ばしてくる。
「お恵みをー!」
こ、これはヤバイッ!
『14型!』
俺の天啓を受け、14型が小さく頷く。そして、構えた。いや、違うからね。ミカンも腰の刀に手を乗せる。いやいや、違うからね。
しかし、14型たちが威嚇したのがよかったのか、周囲の人々の動きは止まり――そして、俺たちを値踏みするように見つめ始めた。
はぁ、これは何なんだ。どういう国なんだ?
『14型』
俺が天啓を飛ばすと、今度は俺の意図が分かったのか、スカートの裾を摘まみ優雅にお辞儀をした。そして、一枚の銀貨を取り出す。周囲の視線は取り出された銀貨に集中する。
14型はそれをそのまま遠くに投げ捨てた。ぽーんとな。
「俺のだー」
「私のだー」
銀貨一枚に酷い有様だな……。
「では、マスター行くのです」
はいはい、行きましょうか。
門のトコロまで歩くと先程の騎士さんが待ってくれていた。例の大きな鳥の姿は見えないな。いよう、待たせたな。
待っていた騎士がキョロキョロと何かを探しているように見回していた。
『どうしたのだ?』
「すいません、ノアルジー商会のオーナーは可愛らしく可憐な少女だと聞いていたのですが……っと、頭の中に声がっ!」
可愛らしいと可憐ってかぶってるよな。と、それ、その姿は幻覚だから。
『それは自分の身内のことだろうな』
一応、天啓を飛ばして誤魔化しておく。
「え? あの、その、魔獣が、いや、え? この声、え?」
騎士の反応に14型が少し動いた気がする。いちいち反応しなくていいからね。
『この姿ゆえ、誤解されることも多いが、自分がノアルジ商会のオーナーだ』
俺の天啓を受けて騎士は頭を掻きながら「へぇ」とだけ呟いていた。おや、意外と驚かれないんだな。普通に受け入れられている感じなのな。
『驚かないのだな』
「え、ええ。まぁ、うちの王族も似たようなものですから、今更と言いますか……」
へ、へぇ。ナリンの王族って俺みたいな姿をしているのか?
「ああ、すいません、ノアルジー商会のオーナーに馴れ馴れし過ぎました。どうにも、うちの王族を相手しているような気分になったものですから……」
王族、結構、舐められているのか。この国、大丈夫なんだろうか。
―2―
大きな地響きを上げ、扉が開いていく。おうおう、俺たちの為だけに、この扉を開けるとか、何だか申し訳ないなぁ。
「王様がお待ちですので、どうぞ」
騎士が案内してくれるようだ。
門の中に入る。大きなメイン通路の正面には金色に輝く煌びやかな巨大な建物があり、その周囲が蓮の葉(のような葉っぱ)が浮かぶ池になっていた。大通りの左右には石造りのちょっと頑丈そうな建物と泥を何層にも塗りたくったような建物が並んでいる。
そして、正面の建物の前には武装した一団が並んでいた。おー、わざわざ出迎えてくれているのか。この距離だと人が豆粒にしか見えないけどさ、この門から、あそこまで結構な距離がありそうだよな、それでも待っていてくれるんだな。いや、と言うかだね、これだけ道幅があって、距離もあるんだから、何か乗り物を用意してくれていてもいいじゃないか。
黙々と煌びやかな建物を目指して歩いて行く。
その途中で、鎧姿の騎士は歩き疲れたのか足を止めた。
「後は直進すれば、王達がお待ちです」
そして胸に手を当てていた。この国の敬礼かな。まぁ、重い金属鎧を着たまま、直線を歩き続けるのは辛いもんな。ここでギブアップってことか。
では、俺たちは歩き続けますか。
人の姿のない大通りを歩き続けると目の前の武装した集団の姿がよく見えるようになってきた。何だろう、2人ほど、姿がおかしいのがいるな。ちっちゃいビヤ樽というか、服をきた小さなデブというか、でも肌の色は緑色だし、何だ、アレ?
豪華な服に豪華なマント、そして頭に王冠を乗せた潰れた顔の緑色。何だろう、えーっと、俺は昔に見たことがあるよな。
アレだ、蛙だ! 蛙が服を着ているッ! まさか、アレが王族なのか? 何だろう、蛙のくせに偉そうな口ひげを付けているぞ。付け髭か?
歩き続け、蛙たちの前に到着すると、周囲の武装集団が疲れたように左右へと分かれ剣を掲げた。あー、うん、君らも待ちくたびれた感じだね。
「私がナリン国王エカルテ・ノエル・ナリンなるぞ」
偉そうにふんぞり返った蛙が口ひげを伸ばしていた。いや、その口ひげ取れそうじゃねえかよ。やっぱり付け髭か。
「ところで誰がノアルジー商会のオーナーなるか。聞いていたのが見えぬぞ。商人どもは嫌いだが、帝国の貴族にして私の国に貢献したノアルジーは例外なるぞ」
何だろう、この蛙。王冠、滑り落ちそうですよ。
『自分がノアルジ商会のオーナーだ』
とりあえず天啓を飛ばして自己紹介をしてみる。
俺の天啓を受けて、周囲の武装集団が、あからさまに、え? そうなのって顔になってるんですけどー、この国の規律はどうなっているんですかねー。
「なんじゃ、話に聞いていたのと違い、まあまあなるぞ」
えーっと、王様、そんな反応でいいんですか? 周囲の武装集団が、更に、え? って顔をしているじゃん。
「よく来たノアルジー商会のノアルジー。商人どもは競売の時だけ私の宮殿を利用する嫌なヤツらなるが、その嫌がらせに道をぐちゃぐちゃにしているからおあいこなるぞ」
何だろう、よく分からない王様過ぎる。これ、まともに会話が出来るのか?
「ささ、王様方、ノアルジー商会との挨拶は終わりました。中に入りましょう」
周囲の武装集団から、1人が抜け出て王様を王宮へと入るように促す。
「分かったなるぞ」
王様ともう1人は、こくんと頷くとそのまま煌びやかな王宮の中へと消えていった。えーっと、何だったんだ?
この国、大丈夫か?