2-52 終わった後
-1-
目が覚めたら芋虫になっていた。
異世界に飛ばされていた。
冒険者になった。
……そして全てを失った。
その時に殺されたと思っていたグレイさんは生きていてくれた。全てが無くなったわけではなかった。
未だ血を流しているが動かなくなったラースを見る。その顔は苦悶表情を浮かべ目は見開かれたままだ。
ラースは倒した。
だが、まだ終わっていない。俺のステータスプレート(黒)は戻ってきていない。エンヴィーはまだ生きている。ラースがエンヴィーは大陸に帰ったと言っていた。
……大陸か。
「終わったなぁ」
『ああ』
俺たちが頷き合っていると……死んでいたはずのラースの体が跳ね上がった。俺はコンポジットボウを構え鉄の矢を放とうとするが、それをグレイさんが手で制する。
「いや、終わってる」
死んでいたラースの口が開く。口から大量の血がこぼれ落ちる。
「が……ぎ、ぎさまら……よぐも、やってくれた……な。俺の仇は……か、ならず……他の魔人族が……俺たちを……ただの……盗人だと……お、も、う……」
ラースは言いたいことを言って、そのまま前のめりに倒れ込み動かなくなった。ラースは今度こそ、完全に死んだようだ。
仇……か。
『生きててくれたんだな』
俺は改めて確認する。
「ああ、ランさんも生きていたんだな」
俺は頷く。
『あの後、イーラさんに助けられフウロウの里に、な』
「なるほどな。俺はフウロウの里で合流するはずだった俺の妹に連れられてモクロウの里で治療を受けていたんだ。妹からはランさんの死体があったって聞いていたからなぁ。お互い無事で良かった」
『ああ、そうだな』
「俺が生き延びられたのはランさんのおかげだな。あの時、貰った世界樹の葉が俺の命をぎりぎりでつなぎ止めてくれたらしい」
そうだったのか。俺が助かったのも……それだろうか。
「俺が先行して来たから、仲間達ももうすぐ来ると思う。後は軍人さんもな」
うん? 討伐は明日だったよな? 今日、動いているのか?
「あー、スイロウの里の冒険者にはワリぃけどさ、彼らは俺たちが失敗したときの保険だったんだよ」
なるほどな。そうすると彼らは何も出来なかったわけで報酬とか悪いことをしたかな。
「あー、報酬ね。帝国の方からちゃんと支払われるそうだよ。あいつらからしたら何もしなくてもお金が貰えたんだ、文句は出ないはずさ」
グレイさんはラースが持っていた真銀の剣を拾う。
「やっと返ってきたよ、俺の剣……」
グレイさんは戻ってきた真銀の剣を眺めてうっとりしている。仮面を付けていても分かるくらいの行動である……良かったな。
『これで盗賊騒動は終わりか』
「ジジジ、勝手に終わらせて貰っては困るな」
そう言って現れたのは蟻人族のソード・アハトさんだった。
「ジジジ、ランとグレイも良くやってくれた。が、私の捜し物がまだ見つかっていないからな」
確かにそうだった。竜の描かれたエンブレムだったよな。
「こやつも手配中の一人だな」
ソード・アハトさんはそう言ってラースの亡骸を見る。
「奥か」
「軍人さんよ、俺の仲間は?」
「ふむ。ジジジ、私の部下と一緒に入り口を見張って貰っている」
「りょーかい。じゃあ、奥に行きますか」
そう言ってグレイさんは真銀の剣で奥の扉に付いていた錠前を切り落とす。頑丈そうな錠前は綺麗に真っ二つだ。
『にしても、何時までその仮面を付けているつもりだ?』
グレイさんは俺の念話に「うっ」とどもり、すぐに仮面を外した。……その仮面、何の意味があったんだ。
―2―
奥の部屋は盗賊達の宝物庫だった。色々な美術品のような絵画や壺、魔法のかかっていそうな剣や盾、鎧等々。数は多くないが、どれもこれもが高級そうな代物だった。
「あった……。ジジジ、ここで当たりだったか」
ソード・アハトさんの捜し物も見つかったようだ。
「お、見つかったのか?」
ソード・アハトさんが頷く。
「うむ。ジジジ、あって良かった。ここがハズレなら、私たちはどれだけ国に帰れないか分からなくなっていたからな。二人とも恩に着る。ジジジ、この恩は忘れない。帝国に来たときは是非、私を頼ってくれ」
うむ、存分に頼らせて貰うよ。俺も大陸に行く用事が出来たしな。
「うむ。それとは別にもちろん報酬も支払わせて貰う。ジジジ、今回、一番活躍したランとグレイのパーティには多く支払うようにしておこう」
「ま、他の情報収集に動いていたパーティにもよろしくな」
その言葉にソード・アハトさんは頷く。
で、この宝の山はどうするんだ?
「あー、殆どが盗難品だろうから、冒険者ギルドの管轄になるなぁ。鑑定後、捜索依頼のかかっていない物は取得出来るから、それらは売るなり貰うなり自由だよ」
えーっと、分け方はどうなるんでしょ。
「ジジジ、私は出す方だからな、不要だ」
「俺はお金が欲しいから……ランさん、俺たちのパーティとランさんで山分けてことで、どう?」
『問題ない』
最終的に金額ベースで半分に割ることが決まった。欲しい物があれば、その半分の金額分まで貰えるって事だ。便利な魔法具があれば、それを貰うってのも有りかもな。
「では、冒険者ギルドのあるスイロウの里まで帰りますか」
「ジジジ、凱旋だな」
そして入り口で合流したグレイさんの仲間達――弓を持った森人族の女性と紫のローブを着た女性……ハーレムパーティだったのかよ――とソード・アハトさんの部下二人と共にスイロウの里へ帰ることになった。
さあ、帰ろう。
後で教えて貰ったんだが、紫のローブの女性はグレイさんの妹らしい。弓を持った森人族の女性をスカウトしに(真銀の剣の自慢をしに)フウロウの里に行く途中だったのだとか。妹さんはその為に先行してフウロウの里に行っていたらしい。