1-6 物語が始まる
―1―
「ということは、ランちゃんですね」
……何のことだ? 最初、それが自分の名前のことだとは理解出来なかった。
「むふー、ち、違いましたか?」
『い、いや、それで良い』
と、というか、さっきから、この娘の字幕の最初に『むふー』って単語が殆どの場合に表示されているんですが。でも実際には『むふー』って言ってる感じがしないんですよね。何を変換しているんだろう。あー、言葉が理解出来たならなぁ。
『と、ところで、もし良ければ色々教えて欲しいのだが。良いだろうか?』
「え、ええ。私で答えられることなら……?」
そう、まずは……、
『この世界のことを教えて欲しい』
「せ、世界ですか? そ、それは宗教的な何か……ですか?」
う、質問が大雑把過ぎたか。まずはここが何処か知りたいんだけど、うーん。
『人里というか、この近くで買い物したり食事したり出来るような場所ってあるだろうか?』
「むふー、なるほど。なんとなく聞きたいことの意味がわかりました。ここはナハン大森林という島国です。今居るのは迷宮王の作った八大迷宮の一つ、世界樹ですね。ナハン大森林には16の氏族と16の村落があり、ここから一番近いのはスイロウの里ですね。もしクラスを得たいのであれば、ここから北東に二日ほどの距離にあるフウロウの里に行くのが良いでしょう。と、知りたいコトって、こういうことで間違ってませんか?」
『あ、ああ……』
「あ、そうそうスイロウの里って言うと、私の名前がスイロウなんで勘違いをされる方が多いんですが、特に大陸からの方に多いんですけどね、スイロウの里で生まれた森人族は皆、スイロウって名前が付くんですよ。なので、私はスイロウの里生まれってことですね。スイロウの里は、冒険者ギルドなどもあり、ナハン大森林で一番発展していると言っても過言では無いですね。もう、街って言った方が良いくらいなんです」
『あ、ああ……』
こ、この娘、勢いが凄すぎる。文字を読むだけで一杯一杯になりそうだ。ろ、ログが流れるぅ状態です。にしても聞きたいことをちゃんと理解し想像して答えてくれるのは有り難い。
『ち、ちなみにクラスというのは……、』
「むふー、そうですね。ランちゃんさんはクラスを持ってますか? クラスというのは職業に近いのですが、就職するという意味では無く、スキルを得たり、ステータスを補正する冒険を助けてくれるモノですね。ちなみに私は『狩人』のクラスを持っています。『狩人』は『弓士』の派生クラスですね。冒険に役立つスキルが多いので、メインとは言わなくてもサブクラスに付けている冒険者が多いクラスですね。『弓士』のクラス自体は先程言ったフウロウの里で取得出来ますよ、ってこの説明で理解出来ますかねぇ」
『だ、大丈夫、り、理解できます、はい』
「聞きたいコトって、それくらいですかね? ホントは情報って凄い価値があるので、余り教えたり伝えたりしないんです。命の恩人だから教えてあげるんですからね。里の方に行った時にあれこれ聞いていると信用がガクガク落ちちゃいますよ」
『ちなみに自分が里にお邪魔しても大丈夫なのだろうか?』
「むふー、私が里に行った後のことを話している時点で理解して欲しいんですが……、まぁ、お答えしますと、多分、大丈夫だと思いますよ。その辺は行けばわかりますね」
『さ、最後に、よく落とし穴の下で生き延びられたね?』
「ホント、聞きたがりさんですね。まぁ、お答えしますと、コレですね」
――[クリエイトフード]――
シロネさんの右手に黒っぽい塊が生まれる。これ○ロリーメイトか!?
「後はこれですね」
――[サモンアクア]――
今度は左の手の平の上に水球が浮かぶ。
「木の魔法、クリエイトフードですね。見た目はアレで、食べ物って色じゃないんですが、食べるとある程度の栄養は取れるんです。まぁ、とてもとても不味いので、ホント、ぎりぎりまで食べたくなかったんですけどね。後は水魔法のサモンアクアで水分は取れるんですが、この魔法の水だけだと魔法で作ったからか本当の水ほど乾きが取れないので何れ死んじゃいますけどね。それとクリーンの魔法ですかね」
なるほど、そんな魔法があるのか。と、クリーンの魔法は多分、アレですね。というか魔法万能。
「ふぅ。このまま探索するのも無理そうなので、私はいったん里の方に帰ろうと思うんですが、もし良ければ一緒に来ますか?」
お、これは願ってもない。この世界のことを知っている人と一緒に里に行けるのは凄い助かる。
『もちろん、お願いしたい』
「では、一緒にこの世界樹の迷宮を戻っていきますか」
ん?
『一つ聞きたい。里はこの世界樹の麓にあるってことで間違いないよな? 世界樹の途中にあるとかでは無く』
「それはもちろん」
『なら、近道がある』
「むふー、さすがは世界樹の星獣様ですね」
『少しアレな道だが、よろしいか?』
「私としては早く里に帰りたいので、命の危険が無いのならば、何でもー」
『では、御免』
俺は糸を吐き、シロネさんを捕まえ自分の背中に乗っけ、落ちないように結びつける。そのまま糸を飛ばし高速移動する。背中からぎょえーとか女子にあるまじき悲鳴が聞こえるが気にしないことにする。
そのままホーム葉っぱまで戻る。
「ちょ、ま、ま、まさか、ここから」
最後まで言わせない。俺は葉っぱから飛び降りる。
グッバイ、マイホーム。
死ぬ死ぬとか字幕が見える気がするが気にしない。多分、風の声を字幕として拾ったのだろう。時々、糸を幹に飛ばし減速をかける。減速をかけるたびにむぎゅうとか内臓が出るぅとかの単語が見える気がする。
俺が頑張ったおかげが一瞬で地上に到着。初めての地上である。
「し、死ぬかとおほった、は、はひう」
シロネさんの息は荒い。まぁ、なんというかジェットコースター感覚で楽しめたと思うんだがね。
『では、スイロウの里に案内してもらっても良いかな?』
「ちょ、ちょっと、待って。息を整えるから、う、うう、酷い」
さて人里か……。何というか『ここからが本当の戦いだ』とか『俺の物語は始まったばかりだ』みたいなフレーズが浮かぶシーンだなぁ。
ま、この異世界? の本番は……、本当にこれからだね。
名前:氷嵐の主
所持金 :0
ギルドランク:無し
GP :0
MSP :0
種族:ディアクロウラー 種族レベル:1
種族 EXP 0/1000
クラス:なし
クラスEXP 0/-
HP: 100/ 100
SP: 810/ 810
MP:1620/1620
筋力補正:4
体力補正:2
敏捷補正:0
精神補正:1
所持スキル :中級鑑定(叡智のモノクル) 糸を吐く:熟練度6446
クラススキル:なし
サブスキル1:飛翔
浮遊 LV0(0/10)
転移 LV0(0/80) 浮遊LV2以上
飛翔 LV0(0/300) 浮遊LV4 転移1以上
超知覚LV0(0/100) 飛翔LV1以上
所持属性:水:熟練度312 風:熟練度312
所持魔法:アイスニードル:熟練度100 アイスボール:熟練度:524
装備品:手製の世界樹の弓 世界樹の矢×97 手製の鞄(S)
所持品:ステータスプレート(黒) 叡智のモノクル 世界樹の葉の欠片×93
2015年4月24日修正
誤字修正
2021年5月4日修正
スイロウの里産まれ → スイロウの里生まれ