7-32 護衛依頼の終了
―1―
門に近付くと石壁の周囲にある建物がよく見えるようになった。崩れそうな石壁の建物だけではなく、一部木材を作った建物や何層にもなっている泥で作られたような建物が見える。何なんだろうな、統一感もないし、作りも雑だし、住めればいいってだけの建物のように見える。
竜馬車が門の目の前まで到着した所で、空を旋回していた大きな鳥に動きがあった。3匹のうち、一匹が旋回を止め、こちらへと降りてくる。
「何かくるよー。どうするー」
竜馬車を動かしていたウリュアスが叫ぶ。
「待つしかねえだろ」
世紀末なモヒカンが偉そうにふんぞり返っていた。
「ああ、トンガリが言うように、相手の出方を待つしかないな」
スキンヘッドのおっさんが真剣な顔つきで空を見上げていた。確かにな。まぁ、いきなり攻撃されるとか、そういうことはないだろう。
人、1人くらいは掴んで簡単に運べそうな大きさの巨大な鷹のような鳥が門の前に降り立つ。その首部分には簡単な鞍が取り付けてあり、そこに金属鎧を身につけた兵士? 騎士? がいた。
「旅人よ! 我が国の首都ナハトフロッシュに何の用か!」
騎士が叫ぶ。にしても、ホント、大きな鳥だな。コレがあれば、移動面は楽になりそうだなぁ。でも、これだけ大きいとさ、食費とか維持費とかが、結構高く付きそうな感じだよな。
スキンヘッドのおっさんが竜馬車から外に出る。
「俺はグルコン。ノアルジー商会のオーナーを案内してここまで来た」
とりあえずスキンヘッドのおっさんが仕切るのか。
「おお! それは! こんなにも早い時期に来られるとは、さすがノアルジー商会ですな。案内状はお持ちか!」
騎士が叫ぶ。何というか、声が大きいよ。そんなさ、叫ばなくても聞こえるっての。
「おい、オーナーさんよ。向こうは案内状って言ってるが、あるのか?」
スキンヘッドのおっさんが竜馬車の中へ顔だけ覗かせて、こちらを見る。案内状? 俺、そんなの持ってないぞ。えー、マジかよ、キョウのおっちゃん、どうなってるの!?
むむむ。
ああ、そうだ。
『14型』
俺はサイドアーム・ナラカを使い首にかけていた指輪を取り外し、14型に手渡す。受け取った14型は、心得ていますと言わんばかりの動きで、竜馬車を降り、騎士の前で軽くお辞儀をする。何というか、そういう動作だけは優雅で様になっているよなぁ。
「マスターより、こちらを預かりました。よく見るのです」
14型が指輪をかざす。
「分かった。見せて貰っても良いだろうか!」
騎士が大きな鳥から飛び降り、14型の手の中にある指輪を見る。
「おお! 確かに帝国貴族の指輪! 間違いないようです!」
だから、この騎士さん、いちいち声が大き過ぎるんだよ。
「それでは! これから中の者に門を開けるように通達します! どうぞお通りください!」
騎士は、そう言い残すと、すぐに大きな鳥に乗って飛び立っていった。行動、早すぎない?
ま、まぁ、何にせよ、これで中へ入れそうだ。思っていたよりもあっさりだったな。
―2―
「おう、オーナーさん、ちょっと待ってくれよ」
このままあっさり中に入るかと思われたが、そこへスキンヘッドのおっさんが待ったをかける。
「これで俺らのナリンまでの案内、護衛は終わりだよな?」
あー、そういえばそうだな。
『うむ』
「ならよ、冒険者ギルドで完了手続きしてくれねえか? 冒険者ギルドは、この石壁の外に――こちら側にあるからな」
あー、そうか。そうしないと彼らは報酬が貰えないのか。じゃ、先にそっちを済ませるか。
スキンヘッドのおっさんの案内で竜馬車を走らせ、冒険者ギルドに向かう。冒険者ギルドは門より少しだけ離れた場所にあり、周囲よりは少しだけ立派な石造りの建物だった。最初にスカイと出会った、帝都西側の冒険者ギルドを思い出すな。
受付のお姉さんにミカンたちがステータスプレートを渡している。これで完了かぁ。にしても、どういう仕組みになっているんだろうな? 迷宮都市でクエストを受けた段階で、こちらで完了出来るように登録されているとか、そんな感じなんだろうか。
「おう、下水の芋虫、美味しいクエスト、ありがとよ」
スキンヘッドのおっさんは、がははっと笑っている。もう、オーナーから下水の芋虫呼びに戻ってるじゃねえかよ。切り替えが早いな。
「おう、金欠だったから助かったぜ」
モヒカンも楽しそうだ。
「トンガリ、お金はリ・カインに戻らねえと貰えねえが、大丈夫か?」
「そうだったぜ」
「トンガリは馬鹿だなー」
ウリュアス、スキンヘッド、モヒカンの3人が楽しそうに話している。と、その輪から少し離れた所にいたシトリが、てこてことこちらに歩いてきた。
「ランさん、すいませんでス。何もお役に立てませんでしたでス」
そう言って頭を下げる。確かに、シトリは殆ど活躍してなかったな。
「いいって、いいって」
スキンヘッドのおっさんが手を振っている。
「治癒術士は、よー、でーんと構えていればいいんだぜ、でーんとよー」
「トンガリの言うとおりだ。治癒術士が活躍するってことは、それだけ危ない状況だって事だからな」
熟練の冒険者であるスキンヘッドが言うと重みが違うなぁ。
「治癒術士はMP温存、いざって時に備えるのが仕事だぜ。役に立っていないと思って、何かしないとって思った時がやべぇ。そういう時こそ、冷静になって周囲を見ろ、でーんと偉そうに構えていろ、だぜ」
おー、世紀末モヒカンのくせに熟練の治癒術士みたいな事を……いや、こんな見た目だけどさ、熟練の治癒術士なのか。
「ハ、はいでス!」
シトリがモヒカンの言葉に感動して何度も頭を下げていた。
「じゃ、俺らは少し休憩したら迷宮都市に帰るぜ」
おう、助かったぜ。
「私はラン殿と残ろう」
ミカンがこちらを見て頷いていた。あー、ミカンは残るのか。
「じゃ、下水の芋虫ちゃん、私たちは帰るねー。竜馬車は、ちゃんと返しておくからねー」
ウリュアスが竜馬車の御者席に座り、おっさんたちが竜馬車に乗る。そのまま、竜馬車は駆けていった。たく、忙しいヤツらだぜ。
さあて、では、俺たちはナリンの中に入りますかッ!
……。
って、ん?
アレ?
乗り物……。
竜馬車……。
って、おい! 俺ら歩きかよ!