7-30 のんびりした旅
―1―
『ふむ。自分が帝都から迷宮都市に向かった時に立ち寄った港は家々があるだけの簡単なトコロだったのだが、こちらはしっかりとした港町になっているのだな』
それを聞いた世紀末なモヒカンが笑う。
「そりゃあよー。帝国側とやり取りすることなんてよ、何も無いからに決まってるからじゃないか」
「ま、今はあんたんとこの商会があるから、向こうも町として発展し始めてるけどな」
モヒカンの言葉にスキンヘッドが、そう付け加えていた。な、なるほど。迷宮都市がやりとりしていたのは、こっち側だったから、砂漠の――砂竜船の港町として発展していたというわけか。逆に帝都側は必要最小限の施設だけだった、と。
「ここは帝都との交易ルートよりも北側にある砂漠の港町メジェドだぜ。もう少し進めば緑も、河も、見えてくるはずだ」
なるほど、砂漠はここで終わりか。いや、でもさ、砂漠は終わりでもさ、カラッとした暑さは続いているからな。俺の体質的な問題か、ホント、暑いのはキツいなぁ。
「で、だ。オーナーさんよ、相談なんだが、ここで一泊……休憩していかないか?」
あれ? 竜馬車に乗り換えてすぐに出発しないのか?
「ここから先はナリンまで休める場所がねぇ。ゆっくり出来るのはここが最後だからな」
なるほど。
「それに水や食料の補給もいるだろうしな」
なるほど。それなら確かにここで休憩した方がいいかもしれないな。ま、水だけなら俺がいくらでも作ることが出来るからさ、困ることはないんだけどな。
『道を知っているグルコン殿の判断に任せよう』
俺の天啓を受けたスキンヘッドが、その禿げ上がった頭を嬉しそうに叩いていた。
「よし、なら休憩だ。まずは泊まる宿と竜馬車だな。その後は自由行動でもいいよな?」
ま、いいんじゃね? 護衛としてはどうかと思うけどさ。
「おーい、おっさんズ、はやくしろよー」
また固まって話し込んでいた俺たちを待ちきれなかったのか、ウリュアスが足を踏みならしていた。いや、そのズの中には俺は入ってないよな? 外見からはおっさんって感じはしないはずだからな!
―2―
用意されていた竜馬車に乗り込み、白い石造りの町並みを進んでいくと、緑が増えてくる。そして前方に河が見えてきた。おー、河だ。って、汚い河だなぁ。土色というか、土砂混じりの河というか、全然、透き通ってない!
『汚れているのか?』
「生活にはよ、水があるだけでも違うんだぜ」
俺の天啓を拾い、スキンヘッドのおっさんが呟いた。まぁ、そうか。
「おっさんー、何処に行けばいいんだぜー」
竜馬車を動かしていたウリュアスがこちらに聞いてくる。
「だから、おっさん言うな。しばらく道なりに進んで……あー、そこを右だ。しばらくすれば見えてくるのが、そう、そこだ。ここが『紅い海亭』だ」
見えてきてたのは白い大きな石造りの建物に円形の塔がついた建物だった。ここが今日、泊まる宿ってコトか。
「よし、宿泊手続きが終わったら、俺とトンガリは情報収集に行ってくるからな!」
おっさん二人が楽しそうにそんなことを言っていた。
「ウリュアス、シトリ、食料や水の補充を頼むぜ」
「なんだよー。私たちに仕事を押しつけて、行く所は分かってるんだからなー。最低だぜ」
ウリュアスは肩を竦めていた。シトリはどうしたらよいのか分からず2人の顔をキョロキョロと見比べていた。
『自分はどうするべきなのだ?』
「あー、こほん、オーナーは宿でくつろいでくれ。ここは安全な宿だからな。侍の嬢ちゃん、護衛を頼んだぜ」
スキンヘッドの言葉にミカンが当然と言った顔で頷いていた。
「マスター、どうしますか?」
俺の背後に控えていた14型が、そう、ささやきかけてきた。どうしようかなぁ。観光しても良いんだけどさ、迷子になったら洒落にならないしなぁ。
人目のない所があれば、《転移チェック》をして、本社や学院に戻るってのもありなんだけどな。もう4日も留守にしているワケだしさ。
でもさ、ここ、意外と人の通りが多いんだよなぁ。ぴょんぴょん飛び跳ねる芋虫姿を見られるのも不味いか。
ま、仕方ない。今日は宿でゆっくりするか。
―3―
五日目。
宿では俺の姿を見た店主に外で寝ろって言われたり、それを聞いた14型が石造りのカウンターを破壊して威嚇行動を取ったり、まぁ、色々あったが、普通に泊まって、普通に出発できた。
そして、何故かホクホクとした顔のスキンヘッド、モヒカンを乗せて竜馬車が動いていく。平坦な道だから、結構な速度が出ているな。途中、すれ違う竜馬車がすぐに視界から消えていく。
しばらくすると左手に大きな――向こう側が見えないほどの川が見えてきた。竜馬車は、そのまま川沿いに北上していく。
左手には何処までも大きな川が広がっている。何だか水の色が黒くて怖いな。
「オーナーさんよ、あれは海なんだぜ」
俺がぼーっと外の風景を眺めていたからか、スキンヘッドのおっさんが教えてくれた。へー、川じゃないんだ。というか、スキンヘッドのおっさんは海を知っているのか。内陸生まれの内陸育ちってワケでも無いのかな。
「このまま海沿いに北上すれば関所と橋が見えてくるはずだぜ。橋を渡れば――後は山岳地帯目掛けて走るだけでナリンだな」
ほうほう。そう聞くともうすぐって感じだな。実際はここから後4日ほどかかるみたいだけどさ。
「魔獣は出ないのか?」
ミカンちゃんは暇そうだ。脳筋だからね、刀を振るう機会が無いと腕がなまるとか考えてそうだ。
「道が出来ているからな、魔獣は殆どでねえよ」
「でない方がいいだろうがよー」
おっさん2人の言葉にミカンは「そうか」とだけ答え、刀を抱えて座り込んだまま、うつむいた。あー、暇すぎるから一眠りするって感じですね、わかります。
しかしまぁ、砂漠を渡っていた時と違って平和だな。このまま何事も無くナリンまで到着出来そうだ。