7-26 砂漠の拾いもの
―1―
二日目も夜になり、砂漠が凍り始めた。こうなるともう移動は出来ないので、砂上船の上で食事を取って寝るだけである。
一日目は皆が自分たちで用意した食事を好き勝手に食べていたようだが、本日は俺が皆に料理を振る舞うんだぜー。まぁ、商会のオーナーらしく太っ腹なところを見せないとな!
『14型』
俺の天啓を受け、14型が食器や真銀製のコップなどを並べ始める。
周囲の魔素の色を確認する。火は残っているな、夜になって凍り始めたからか水と風も大丈夫、お、珍しく木もあるな。金は少なめ、闇は多めって感じか。色で魔素が見えるからさ、俺はディテクトエレメンタルの魔法を使わなくても、こう魔法を使おうって時に使えるか使えないかの判断が容易なんだぜー。
――[アクアポンド]――
真銀製のコップに水を作る。
――[サモントレント]――
小さな木を作り、
――[ウォーターカッター]――
出力を調整したウォーターカッターで切断する。
銀のローブを敷いて、その上に作った枝を重ねていく。そして14型が用意した鍋をのせ、その中に凍らせていたスープと肉まんじゅうを入れる。
――[ファイアトーチ]――
木の枝をファイアトーチの魔法で燃やす。
「お、おい、櫓の上で! いきなり火を使う奴があるか!」
モヒカンが真っ青になった顔で叫ぶ。
『大丈夫だ、その為に銀のローブを置いている』
「おいおい、本当に大丈夫なのかよ」
モヒカンは心配性だなぁ。銀のローブに煤が付くくらいだよ。後で叩いて落としてクリーンの魔法をかければ大丈夫だからさ。魔法に強い銀のローブだからこそ出来る芸当だけどな!
鍋の中の凍っていたスープが溶け始め周囲に良い匂いが漂い始める。
「うん? おい、いもむ……オーナー! お前、今、何種類の魔法を使った!?」
おー、モヒカン、気付いたのか。
『トンガリも食べて良いぞ』
「だから、誰がトンガリだ……って、はっ!? 話を誤魔化しやがったな!」
うるさいモヒカンだぜ。
「しかも、このスープ、あつっ、あふ、あふ、美味しいじゃねえか!」
ゆっくり飲めよ。
「それにこの中に入っている肉はなんだ!? 衣に包まれて中から幸せな液体が、口の中に、あっつ、あふっ、じゅわっと、うめぇぇ!」
いやだから、お前は料理レポーターか何かか。大げさだなぁ。
「いや、確かにこいつは美味いな。これがノアルジー商会の力か」
いつの間にかスキンヘッドのおっさんも俺が温めたスープを飲んでいた。いや、なんだ、このおっさんズ自由すぎないか。
「美味いねー」
ウリュアスも14型が器に分けたスープをちゃっかりと飲んでいる。
後ろでミカンちゃんとシトリが手を出したいけど、タイミングが掴めなくて困ってるじゃないか。
おっさん連中がスープを飲み干してしまったので、新しくもう1個凍らせたスープの固まりを鍋の中に入れる。
――[ファイアトーチ]――
そして再度火を入れる。
『ミカンとシトリも食べるといい』
14型が器に取り、ミカンとシトリにも渡す。
「これは美味い」
「美味しいでス」
ノアルジ商会っていつの間にか食が色々な所から集まっているからなぁ、まぁ、最近、ポンちゃんは饅頭ばかり作ってるけどさ。食材も料理人も、集まるからな。そりゃあ、美味しい物が出来るだろうさ。
「この水はノアルジー商会が売り出している水の封印石だな。まだまだ高めだけどよ、俺も1個持っているぜ」
スキンヘッドのおっさんがそんなことを言っていた。
「なるほど、そういう絡繰りかよ」
「他の魔法も魔法具だろう。魔法具の中には発動出来る魔法を封じ込めた物もあるからな。大商会のオーナーなら便利な物を一つ二つ持っていてもおかしくない」
スキンヘッドのおっさんとモヒカンが二人で盛り上がっていた。いや、あの、俺、そんな便利な魔法具、一つも持ってないんですけど……。俺がおかしいのか? ユエとかに頼めば何個が用意して貰えるのか?
―2―
3日目。
ある程度進んだ所で、またも砂竜船が止まった。また魔獣か?
「ウリュアス、どうした?」
スキンヘッドのおっさんが櫓から外へ顔を出す。
「おっさんー、行き倒れがいる」
「誰がおっさん……なんだと?」
ん、なんだと?
俺も櫓から身を乗り出して外を見てみる。しかし、行き倒れらしき姿は見えない。
『見えないようだが』
「まだ距離があるからねー。凍った砂漠を無理矢理踏破しようとした感じに見えるねー」
凍った砂漠を抜けようとするとか無茶苦茶するヤツがいるんだな。
「どうするー?」
どうしよう。
『近寄って貰っても良いか?』
「りょうかいなんだぜー」
砂竜船が動き、砂の山を越えた所で人が倒れていた。フードを深くかぶったローブ姿の男性? か。いやいや、こんな小山で隠れているような人物をウリュアスはどうやって見つけたんだ?
「これだねー」
そうだな。
――《剣の瞳》――
《剣の瞳》スキルを使い行き倒れを確認する。反応は……青か。助けても問題なさそうな感じだな。
『助けよう』
まぁ、ナリンまで日数的に余裕があるしさ、それにもし変な人物だったら再度砂漠に投げ捨てればいいしな。
「りょうかい。でも、オーナーさん、それを過信し過ぎるとダメだよー。偽装されていることもあるからねー」
ん? ああ、この子は俺が《剣の瞳》スキルを使ったのを把握しているのか。油断ならないなぁ。
「俺らが行く、侍の嬢ちゃんとシトリは、いざって時のカバーにまわってくれ」
スキンヘッドのおっさんが拳を打ち鳴らし、砂竜船か降りる。そして、そこからワンテンポ遅れてモヒカンも砂の上に降りる。
スキンヘッドのおっさんが行き倒れに近寄り何かを確認している。軽く叩いて、生死の確認か?
そして片手を上げる。その反応を確認してモヒカンが動きスキンヘッドのおっさんのところへ走る。そのまま二人で行き倒れを担ぎ上げ、砂竜船まで引っ張ってくる。
「問題なさそうだ。引き上げてくれ」
「りょうかいー」
ウリュアスが砂竜の首を動かし、行き倒れの服を噛みつかせる。砂竜が首を動かし、そのまま櫓の中へと行き倒れを置く。櫓の中に落ちた反動で深くかぶっていたフードが取れ、その下の顔が現れた。
狐耳の男性? この世界には珍しい人間型だな。さっきは倒れていて気付かなかったけど、胸に大事そうにハープ? を抱えているな。こんな大きな物、抱えて歩いていたら、そりゃあ行き倒れるわ。
「半分の子……だと」
ミカンが驚いている。
「忌み子でス……」
シトリも驚いていた。あー、混血か。余り混血って好かれないんだったか?
にしても砂漠でハープを持って行き倒れるとか謎な人物だな。混血だから嫌われて村を追い出された――と言うには年齢が行きすぎているか。若そうに見えるけど、どうみても二十歳は超えてそうだもんな。