7-25 それゆけミカン
―1―
「出発進行ー!」
ウリュアスのかけ声と共に砂竜船が出発する。砂竜船の中では小型(といってもかなり大きい)な砂竜の背中に12畳くらいの広さを持った一層建ての櫓が取り付けられ、そこに俺、14型、羽猫、ミカン、スキンヘッドのおっさん、モヒカン、蜥蜴人族のシトリが押し込められている。人数が多いとさ、結構、狭く感じるよなぁ。
ウリュアスは砂竜の首に取り付き、砂竜船を動かしている。それを櫓からスキンヘッドのおっさんが身を乗り出して方向の指示を出していた。なるほど、ウリュアスが警戒と砂竜船の操作、スキンヘッドのおっさんがナリンへの道を知っているって感じなんだな。
と、その途中でスキンヘッドのおっさんが振り返った。
「おう、芋虫の――いや、商会のオーナーさんよ。会ってはいるが、自己紹介がまだだったよな。俺はグルコン、そっちのトンガリは、クアトロ。探求士のウリュアスと治癒術士のシトリは、もう知っているみたいだな」
このスキンヘッドのおっさんが多分、リーダーなんだろうな。
「おいおい、おっさん、誰がトンガリだぜ」
自分もおっさんにしか見えない世紀末モヒカンが大げさに騒いでいた。って、アレ? そういえば無口な封術士のおっさんもいたよな?
『余り喋らない封術士も居たと思ったが』
俺の天啓にスキンヘッドのおっさんが肩を竦める。
「ダームは迷宮都市でも数少ない封術士だからな。他のクエストに参加中だ」
なるほどな。便利なスキル持ちは人気なんだろうなぁ。
『グルコン殿がナリンへの道を案内してくれるのか?』
俺の天啓にスキンヘッドのおっさんが頷く。
「ナリンには拳士の石碑の欠片があるからな。拳士のクラスの為に行ったことがある」
なるほど、そうなのか。まぁ、でも、あるのは欠片の方なのか。拳士のクラスモノリス自体は帝都にあるはずだもんな。あるはずだよな? 確か、そうだったはずだ。
「道を知っている俺と乗り物に強いウリュアスだけで良かったんだが、そこのトンガリがな」
スキンヘッドのおっさんがもう一度、肩を竦める。
「長旅に治癒術士は必要だろうが」
モヒカンがつばを飛ばしそうな勢いで喋っている。
「便乗してごめんなさいでス」
蜥蜴人のシトリが申し訳なさそうに頭を下げていた。
「ほら、おっさんのせいでシトリが落ち込んでるじゃねえか」
「お前もおっさんだろうが」
おっさん二人が仲良く喧嘩していた。
ミカンは我関せずと言わんばかりに隅っこで刀を抱えて座っている。羽猫はおっさんの喧嘩を俺の頭の上をぺちぺちと叩きながら楽しそうに眺めているようだ。14型さんは……俺の背後で無表情に立っているな。こう、無表情だと機械的で怖いなぁ。
―2―
何事もなく一日目が終わる。夜は凍った砂漠の中、砂竜船の中で一泊し、そのまま二日目。
「おっさん、オアシスはどうするのー?」
砂竜の首に掴まっているウリュアスが声をかけてきた。
「いや、このまま進め。急ぐ必要は無いと聞いているが、ゆっくりする必要もないからな」
スキンヘッドのおっさんが、そう言って、こちらを見た。うん? あ、ああ、俺の意見か。
『任せる。道を知っているのはグルコン殿だからな。その判断に任せよう』
俺の天啓を受けたスキンヘッドのおっさんは照れたように鼻の下をこすっていた。そうそう、プロに任せるんだぜ。
そして、しばらく砂漠を進んでいると、途中で砂竜船の動きが止まった。
「おっさんー、魔獣だ。デカくて避けられそうにないよー」
それを聞いたスキンヘッドのおっさんが舌打ちをして立ち上がる。それに少し遅れるようにモヒカンも杖を片手に立ち上がった。
俺が状況を把握しようと櫓から顔を出すと、外には、うねうねと動く巨大なサンドワームが2体、上半身を砂漠から覗かせていた。
「ちっ、厄介な」
外の状況を見たスキンヘッドのおっさんが再度舌打ちをする。と、そこを、俺の横を抜けるように一陣の風が吹き抜けた。
ミカンが長巻を片手に砂竜船から飛ぶように駆け下りる。そして、そのまま刃をサンドワームの胴体へと這わせる。
しかし、長牧の刃が途中で止まる。ミカンちゃん、動くのは早かったけど、攻撃失敗してるじゃん。
「私も出た方が良いと思うのですが」
14型が提案する。そうだな、14型の馬鹿力なら……。
刃が止まっていたミカンがニヤリと口の端を上げて笑う。ん?
ミカンが片手で持っていた長巻を両手で掴み、そのまま力を入れる。そして、一気に駆け抜けるように力を入れる。サンドワームの上半身が血飛沫を上げ吹き飛ぶ。おー、ちくわを切ったみたいにポーンと行ったな。
と、ミカンから遅れるようにおっさん二人も砂竜船から降り、もう1匹のサンドワームへと向かう。シトリはどうしたら良いかわからずに櫓の中でオロオロとしていた。
「シトリは、MP温存で待機してればいいよー」
後ろ手に腕を組んだウリュアスがのんきにそんなことを言っていた。
『ウリュアスはいいのか?』
俺の天啓にウリュアスが口笛を吹いていた。
「この砂竜船を守らないとだからねー。ここで待機だよー」
なるほどな。確かに動かせる人間が持ち場を離れるのは下策か。
『14型、大丈夫なようだ』
俺は今にも動き出そうとしていた14型を止める。まぁ、何だ、『異界の呼び声』での戦いでも思ったけどさ、この連中なら任せても大丈夫そうだな。俺としては経験値も入らない、魔石も手に入らない、MSPも手に入らないで、ちょっとだけ、損した気分だけどな。まぁ、でもさ、今回の俺は冒険者って立場じゃないから、贅沢を言ってはダメか。
2体のサンドワームを倒したミカン、スキンヘッド、モヒカンが戻ってくる。が、何やらモヒカンが騒いでいた。
「おうおう、侍の嬢ちゃんよ、あんたが凄いのは分かるけどよ、一人で飛び出すのはダメだぜ。連携を考えやがれ」
「む、すまぬ」
あー、ミカンちゃん、ずっとソロだったもんな。連携とか、そういうの苦手そうだもんなぁ。
「トンガリは言い過ぎだが、俺もその意見には賛成だ。どんなに優れていても油断で大変なことになることはある。今回みたいな魔獣が1体では無い時は、特にな」
スキンヘッドのおっさんも苦虫を噛み潰したような顔でそんなことを言っている。
「う、うむ」
「俺っちらをもうちょっと信頼して欲しいぜ。急造なパーティだからこそ、連携は大事なんだぜ」
モヒカンが何やら偉そうなことを言っていた。
「まー、次、話し合って行動すればいいんじゃないかなー」
ウリュアスはのんきにそんなことを言っていた。
俺としては勝てればいいって感じだからなぁ。まぁ、でもさ、今回みたいな雑魚ではなく、強力な魔獣を相手した時のためにも連携を強化しておくのは重要か。
うん、ミカンちゃん、頑張れ。
2016年9月7日修正
トンガリが何やら → モヒカンが何やら
2016年9月8日修正
そこのモヒカンがな → そこのトンガリがな