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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
2  世界樹攻略

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58/999

2-51 きっと何処まで行っても身勝手な自分だから

-1-


 魔法糸を使い森を駆けていく。時間との勝負です。

 前回と違いある程度の場所が分かっているのは楽だな。


 崖の近く……見えるシルバーウルフと書かれた線。俺はコンポジットボウに鉄の矢を番える。


――《チャージアロー》――


 鉄の矢が光り輝いていく。


――《集中》――


 ゆっくりになった世界の中、遠視の力で見えるようになった銀狼の姿のみを捉え狙い放つ。そしてすぐに次の矢を番え放つ。

 光り輝く矢が銀狼の脳天に刺さり、それを追うように飛んだ矢が銀狼の脳天を貫く。銀狼は声を上げること無く、そのまま崩れ落ちた。


 さあ、慎重に行動するか。


 森を抜け崖下に到着し、盗賊のアジトを探しているとシルバーウルフの線が見えた。二匹目か……。遠視を使って遠くに居る銀狼の姿を見ると何時死んでもおかしく無いくらいによろめきながら歩いていた。


――《チャージアロー》――


 光り輝く矢を放ち銀狼を撃ち貫く。弱っていた銀狼は一撃で倒れる。ま、そりゃそうか。


 にしても銀狼に囲まれるかと思って爆裂の矢を用意してきたんだが、拍子抜けだな。




―2―


 崖下を慎重に進んでいくと遠目に天然の洞窟の入り口が見え、その前に周辺を警戒するように『魔人族』の線が一本見えた。……ついに見つけたぜ。


 ふぅ……。俺は深呼吸をし息を整える。さあ、ここからは後戻りが出来ないぞ。俺がやろうとしていることは自己満足で身勝手な行動だ。最悪、明日の討伐に支障を来す最低の行動だ。明日まで待って、頼み込んで俺も討伐に参加させて貰うのが正しいってのは分かるんだよな。分かっているんだ。でも、止められないんだ。止めるわけにはいかないんだッ!


 俺は殺されかけた。


 グレイさんは殺された。


 俺のステータスプレート(黒)は奪われた。


 レッドアイの魔石も奪われた。


 訳も分からないまま異世界に来て、なんとか生活出来るようになって、色々な人に助けられ、認められ、ゲームのようなこの世界も悪いもんじゃないと思った先の出来事だった。


 認められるか、認められるかよッ!!


 俺が俺であるために、これからこの世界で前に進むために、その為だけに、俺は、俺のわがままを通す。


 俺の身勝手を通すッ!!


 俺はコンポジットボウに鉄の矢を番える。さあ、いくぞ。


――《チャージアロー》――


 矢に光が溜まっていく。洞窟の入り口を見張っている魔人族が気付いている気配は無い。


――《集中》――


 集中力が増し、目標が定まる。


 俺は光り輝く矢を放つ。すぐに次の矢を番え、そのまま矢を放つ。


 光り輝く矢は狙い違わず相手の脳天に刺さる。矢の刺さった魔人族は驚き、こちらを見、声を出そうとする。その口中へ次の矢が刺さる。声が、叫びが出ることは無く、ひゅうひゅうと空気の漏れる音のみが文字として表示されていた。

 俺は駆け出し、崩れ落ちそうな死体をそのまま抱え、入り口前の壁に張り付く。ゆっくりと死体を降ろし、入り口から中を覗く。


 中は天然の洞窟を加工しているらしく、洞窟が崩れ落ちないように木枠で補強されていた。これは結構、広そうだ。


 交代要員が来る気配も無く、入り口近くに他の魔人族はいないようだった。さあ、ここからだ。




―3―


 洞窟の中を進んでいく。複数の分岐道があり、いくつか木で出来た扉もあった。

 扉に近づき、中の様子を確認し、魔人族が居なさそうな扉をゆっくりと開けてみた。大抵の扉の中は小さな部屋で粗末なゴザと汚らしい布団があるだけだった。個人の仮眠室か何かだろうか。

 少し進み、曲がり角から覗いてみると遠くにこちらへと近づく魔人族の線が見えた。俺は曲がり角の壁に張り付き鉄の槍を構え待ち構える。

 近寄ってくる足音。さあ、息を殺せ、気合いを入れろ。


 足音が近くなったところで俺は飛び出す。


――《Wスパイラルチャージ》――


 右手とサイドアーム・ナラカに握られた鉄の槍が二重の螺旋を描き、俺の目の前に居る、俺の姿を見て驚いている魔人族の体を抉り貫いていく。驚いた顔が苦悶の顔に代わり、そして悲鳴を上げた。ちぃ、しまった。


 悲鳴を聞きつけたのか、魔人族の線が何本か見えてくる。仕方ないな、これは仕方ない。よし、行くか。


 俺は覚悟を決め、駆け出す。


 うおおぉぉぉぉぉ、死ねぇ。

「な、魔獣!?」

 俺の姿を見た魔人族は驚き、動きが止まっている。


――《Wスパイラルチャージ》――


 そのまま相手の体を抉り貫く。俺はすぐに槍を引き抜く。相手は血しぶきを上げてそのまま仰向けに倒れる。

 その後ろから次の魔人族が駆けてくる。目の前で仲間を殺されたからか、怒りをあらわに手に持った剣を振り回してくる。


――《払い突き》――


 剣を打ち払い、その勢いのまま体を回転させ手に持った槍で貫く。更に、


――《スパイラルチャージ》――


 もう一つの鉄の槍から放たれる螺旋。螺旋が最初の突きでよろめいた相手の体を抉り削り飛ばす。相手は剣を落とし、あがあがと言いながら傷を押さえている。もう助からないな。


 次々と現れる魔人族。俺の居る、この余り広くない通路だと不利だな。……このまま突っ切り奥に行くのは悪手だよな。先の状況も分からない所に飛び込むなんて最悪だよな。……ああ、最悪だよなッ!


 俺は奥へと駆け出す。どうせ全部殺すんだ。悪手? それがどうした。


 襲いかかってくる魔人族の剣を打ち払い、自分の体をぶつけ吹き飛ばし、駆け抜ける。


 おら、付いてこいッ!!


 攻撃をかいくぐり、奥へ奥へと駆けていく。駆けながら弓を手に持つ。走りながら後ろを見る……付いてきているのは2、3、4人か。ちょうど狭い通路だな。


 俺は爆裂の矢を番え、放つ。


 矢が追ってきていた盗賊連中の足下に着弾する。そして、そのまま爆発した。本当に言葉通りの意味で爆発した。燃える視界、生じる爆風……洞窟が揺れた。振動にぱらぱらと粉が落ちる。はははは、崩れなくて良かったぜ。いやぁ、これは……さっきの4人は死んだかな。と見てみるとまだ息があるようだった。マジかよ。常識的に考えて爆発に巻き込まれたら死ぬだろ。コレもSP何てモノがある異世界ならでは、か。


 ふらふらとだが、立ち上がろうとしている盗賊連中にトドメを刺そうと矢を番えていると奥の扉が開き、何かが駆けてきた。




―4―


「このクソ野郎が! 洞窟の中で爆裂の矢を放つとか、自殺する気か!?」

 そいつは手に持った見覚えのある真銀の剣で斬りかかってきた。素早い斬り込みを転がり回避する。


――《魔法糸》――


 転がった体勢のまま魔法糸を飛ばし扉の先へ飛ぶ。それを追うように斬撃の衝撃波が飛んでくる。俺はすぐさま体勢を整え、鉄の槍を縦に持ち、鉄の槍にて衝撃波を受ける。衝撃波の勢いを殺しきれず、俺の体が吹っ飛ぶ。扉の先に吹っ飛び、そのまま転がる。


 そこは大広間だった。盗賊連中の集会場所なのか、広く大きな何も無い部屋だった。奥には錠前の下りた鉄の扉が一つ。

 俺はすぐに立ち上がり、吹っ飛ばされてきた扉の先を見る。


 真銀の剣を手に持ち、背が高く上質な皮鎧を着込んだ魔人族の男がゆっくりと歩いてくる。

「んあぁ、なんでジャイアントクロウラーが入り込んでるんだぁっ!」

 俺は鉄の槍を構える。鑑定してみるか……?

「ん? こいつ鑑定を使うのか?」


【名前:ラース・ストレングス】

【種族:魔人族】


「は? 何を読みやがった? 俺のSPか? レベルか? 技か? はん、無駄なこって」

 名前だよッ!!

「うん? 鑑定が読まれたのが不思議か? そうだよな、普通の魔人族じゃあ読まれねぇもんなぁ。俺にはな、この魔力のネックレスがあるからなっ!」

 そう言って目の前の男は首から提げているネックレスを持ち上げる。

「まぁ、読まれたところでお前が死ぬのには変わりねぇ」

 目の前の男は真銀の剣を構える。……盗賊風情がッ!

『まずはその真銀の剣、返して貰う』

 それはグレイさんの剣だからなッ!!

「ほ、こいつは念話かっ! 魔獣かと思いきや星獣様かよ」

 会話しながらも相手の動きを見る。

「どうしたっ! かかってこねえのかよ、この真銀の剣を取り返すんだろうがっ!」

 相手の挑発。のるかよ。

『俺のステータスプレート(黒)も返して貰うぞ』

 その言葉にラースが目をむく。

「はっ! そうかよ、お前、トゥエンティの……なるほどな。確かに変わった魔石を持った芋虫を殺したって言ってたな」

『ヤツはどこに居るッ!!』

「ははは、猛るなよっ! ヤツなら変わったステータスプレートと二つの魔石を持って大陸に帰ったぜ。俺は居残り組ってワケだ」

 喋り終わると同時にラースが斬りかかってくる。俺はレベルアップで上昇した敏捷補正に任せ回避する。

「所詮、魔獣か……あめえな」

 視界が真っ赤に染まる。な!?


【《危険感知》スキルが開花しました】


 ラースの振り下ろした剣がそのままの勢いで下から上へと……やべぇ。俺はとっさに鉄の槍を構え下からの攻撃を防ごうとする。


「さらにあめぇ」

 構えた槍ごと切断される。く、このままだと俺の体は真っ二つだ。俺はそのまま無理矢理、上体を反らし何とか刃を避けようとする。躱しきれず俺は真銀の剣をその身に受けてしまう。

「ち、切れたのは半身か」

 体を切られ、体液がこぼれ落ちる。痛ぇ、いてぇ、くそっ、だけど致命傷は回避した。

「で、攻撃してこねえのか? この真銀の剣を取り返すんだろ?」

 ラースのにやにやとした笑い。くそが。


――《スパイラルチャージ》――


 鉄の槍が唸りを上げラースへと突き進む。

「槍の中級技か。なかなかの技だな、が、足りねえなッ!」

 ラースは真銀の剣を水平に構え、こちらの突きに合わせるように突き返してくる。

「喰らいな、烈風突きっ!!」

 真銀の剣と鉄の槍がぶつかり合う。真銀の剣の威力に負け鉄の槍が弾かれる。

「おっと、そのままだと死ぬぜ、烈風二段っ!」

 ラースの二段突き。そして視界に見える赤い二カ所の点。俺は本能に従い、赤い点を回避する。

「ほぉ、避けたか」

 鉄の槍を持った手にはしびれが残っている。くそ、技の手持ちが足りねぇ。

「ふぁふぁ、死ね、死ね、死ねー」

 ラースはご機嫌に真銀の剣の振り回してくる。視界に見える赤いガイドライン……これは攻撃予測か! 赤い線を回避するように体を動かしていく。

「おら、かわせ、かわせ、死ぬぞ、死ぬぞ」

 ラースの猛攻を回避していく。

「ほらほら、速度が上がっていくぞ、死ぬぞ、死ぬぞ」

 赤い線の数が増えていく。そして視界が全て赤に染まる。やばい。


――《払い突き》――


 とっさにスキルを発動させる。

「だから、そんなゴミみてえな技が通じるかよ!」


 ラースの真銀の剣を払おうとした鉄の槍がそのまま切断される。

「じゃあな、死ねよ、芋虫」

目の前にあるのは真っ二つになった鉄の槍。真っ赤になる視界。どうする? どうする? ゆっくりと迫る真銀の剣。細部までこだわった丁寧な装飾の造りまで見える。ああ、きれいな刃だな……はは、ここで終わりかよ。


 しかし刃はいつまで経っても俺の体を斬り裂かなかった。


 俺の目の前には肩に手持ちの剣をかけ真銀の剣を受け流した一人の冒険者が何時の間にか立っていた。

「間に合ったなぁ。ランさん無事かい?」

 ああ無事だよ、無事だ。


 そして目の前の冒険者は受け流した剣でラースを弾き飛ばし、こちらに振り返る。その顔は……顔を隠すように目の部分だけが開いた銀の仮面を付けていた。


 って、誰だよッ! 


 ……。


 ……なーんてね、俺には誰か分かるよ。生きていたのかグレイさん。

『その仮面は?』

「ああ、これかい? 奴らに顔を切り刻まれてしまって……」

 いや、それ嘘じゃん。嘘じゃん。俺、最後まで見てたけど顔とか斬られてなかったじゃん。

『……』

「すんません。ちょっとかっこいいかと思って付けてた」

 マジかよ。というか、俺はな、あんたが殺されたと思って、その復讐に……。グレイさんとは猫馬車で一緒になっただけの短い時間だったけど、それでも気の良い人で……くそぅ、生きてて、生きてくれて良かったぜッ!

「後続は全部、斬ってきた!」

 そういえば戦闘に夢中で気付かなかったけど生き残っていたはずの爆裂の矢で吹き飛ばした連中がこっちに来なかったな。それが原因か……。

『生きてたのか、生きててくれたのかッ!』

「ああ、亡霊じゃないさ。やつらにやられた傷で復帰には時間がかかったけどなぁ」

 ラースが体勢を立て直し真銀の剣を構えている。

「うんあぁ、不意を突かれたか」

「その真銀の剣、返して貰うぜ。行こう、ランさんッ!」

 ああ、取り返そうッ!

『俺はバックアップに回る』

 グレイさんはラースを視界に捉えたまま頷く。俺は近接武器を持っていないからね。弓で援護するべきだな。


 そして戦いの第二幕が開けた。




―5―


 斬り合い、斬り結ぶグレイさんとラース。剣術の技量としてはグレイさんの方が上だが、武器の強さでは真銀の剣の方が上のようだった。

 グレイさんは相手の攻撃を受け流すことしか出来ず、直接剣の刃で受けないようにするしかなかった。

 俺はラースの隙を突いてチマチマと鉄の矢を射る。グレイさんの剣を回避した先に集中を掛けた鉄の矢を飛ばす。ラースは俺の攻撃を回避し仕切れず、その身に鉄の矢を受ける。が、余り効いていないみたいだ。チャージアローを使わないと攻撃を通すのは難しいか……しかし、チャージしているような矢はさすがに回避されそうだしなぁ。


『グレイさん、グレイさんが次に攻撃を受け流したところにポイズンボムSをぶち当てるぞ』

 俺はグレイさんに限定して念話を飛ばす。俺の念話にグレイさんが頷く。


 グレイさんがラースの攻撃を受け流す。

 よし、今だ。俺はポイズンボムSを投げつける。俺の念話を聞いていたグレイさんはすぐにラースとの距離を取る。

 ラースが飛んできたポイズンボムSを斬り払う。斬り払われたポイズンボムSはその場で割れ、そのまま中身をラースの上にぶちまける。

「ぐえ、なんだこいつはよー、て、毒か!?」

 どの程度の毒かは分からないが、これで隙は出来たはず。

 隙を突き、グレイさんが斬りかかる。俺もチャージアローを発動させる。


――《チャージアロー》――


「嘗めるんじゃねえっ!!」

 ラースの体から衝撃波のようなモノが立ち上がり、グレイさんを吹き飛ばす。くっ、だが矢を溜める時間は稼げた! 喰らえ!


――《集中》――


 そして光り輝く矢を放つ。

「くそがぁぁぁっ!」

 ラースが真銀の剣で光り輝く矢を受け止める。そしてそのまま矢を弾き飛ばす。ラースは光り輝く矢に押されながらも、なんとか打ち払うことに成功したようだった。しかしヤツは肩で息をしている。ふん、甘いな。

「な!?」

 肩で息をしていたラースに火炎の矢が刺さる。ばーか、チャージアローは囮だよ。


 刺さった矢から火が発生し、全身に燃え移る。

「が、がが、があぁぁ」

 火だるまになりもがき苦しむラース。その目の前には体勢を整え、剣を上段に構えたグレイさんが居た。

「終わりだ」

 グレイさんの剣が振り下ろされる。光り輝く剣の軌跡。ラースの体が裂け、血しぶきを上げながら倒れる。


 終わった。


 本当に終わったんだな。


 グレイさんがこちらを振り返りVサイン。あ、こっちでもVサインなんだな。って、俺の手ではVサイン出来ないや。仕方なく、手を上げて答える。


 ふぅ、しかし、今回も武器を壊してしまったなぁ。またホワイトさんに怒られそうだ。

2015年4月14日修正

俺のSPか? レベルか? 技か? → その次に『はん、無駄なこって』を追加


2021年5月4日修正

マジかよ。常識手に考えて → マジかよ。常識的に考えて

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 二度目の敗北。しかも他人の力で生き残る。一回目の敗北全ロスに続いて残念な展開。この辺がいまいち人気出なかった要因か。
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