7-7 けむくじゃら達
―1―
まぁ、考えても仕方ない。
今回は猫人族の協力で料理を作ってみるか。断られたら――それはそれで、その時考える、だな!
「ポンちゃん、今回の料理は向こうで余り調理しなくて良い物を中心にしよう」
「だから、オーナー、ポンちゃんって呼ぶなって言ってんじゃん」
ポンちゃんの言葉は無視する。
「それと紫炎の魔女の要望で甘味を中心にしたいが、可能か?」
俺の言葉にポンちゃんがニヤリと何かを企んでそうに笑う。
「それならちょうどいいのがいるぜ。やはり猫人族だがよ、例の準備のために呼んだから甘味は得意よ」
例の準備のため? 呼んだ? そういえば、なんで猫人族の調理人が多いんだ? ちょっと前まではそうでもなかったよな? 何かイベントでもあるんだろうか。俺、聞いてないんですけどー。俺、仲間外れなんすかー。
「では、それで頼む。前回と同じように荷物は俺が持とう。料理の味で神国の連中を唸らせ、俺たちを認めさせよう」
そうそう、他の人種を嫌っていてもさ、料理の味には逆らえまい。料理による侵略だぜー。
「わーったぜ。任せて欲しいじゃんよ」
ポンちゃんが禿げ上がった頭を掻きながら食堂へと向かう。後でちゃんと手は洗えよー。
まぁ、不安は残るがこれしか方法が無いからな。後はなるようになる、だ。
食堂奥に有る調理場へと向かう。
「オーナー、これも頼むぜー」
そこで、ポンちゃんの指示を聞きながら調理道具をまとめていく。
すると1人の気難しそうな猫人族がやって来た。ぐにゃーと広がった顔がペルシャぽいな。
「お初にお目にかかる。タクワンです」
惜しい! タクアンなら漬け物ぽかったのに! って、誰だ?
「そのタクワンが、うちが今勧誘している甘味が得意な料理人よ」
へー、勧誘しているんだ。俺、聞いてないんですけどー。まぁ、甘味が得意ってのはうちには居ない人材だから勧誘が成功すると嬉しいな。
―2―
――《転移》――
《転移》スキルを使い荷物持ちの14型、羽猫、ポンちゃん以下料理人の皆さんを連れて行く。
現地に到着した瞬間に転げ回っている人もいたようだが、問題ないだろう。
今回は連れてきた料理人はポンちゃんを入れて7名なのだった。普人族はポンちゃんだけで、後は見事に猫人族ばかりである。だ、大丈夫だよな?
何故か、こちらは浮かんだままになっている学院のある島を、料理人をぞろぞろと引き連れて歩いて行く。時間が良かったのか、俺ら以外に歩いている人影はない。そのまま島の入り口まで歩き、そこで待っているとエミリアの乗った飛竜がやって来た。
今日も豪華な髪型のエミリアは飛竜の籠から優雅な動作で降り、そして悲鳴を上げた。
「の、ノアルジーさん! 獣人ですわ!」
あー、うー、エミリアでもこういう反応なのか。
「うちの料理人だ。飛竜に乗せて運んで貰えないだろうか?」
俺の言葉を聞いて、エミリアが震えるように弱々しく首を横に振った。えー、ダメのか。
「ダメだろうか?」
俺が頼み込んでも、エミリアは首を横に振るばかりだ。むう。
「む、無理ですわ。訓練された軍用の飛竜ならまだしも、普通の飛竜では暴れてしまって獣人を受け付けませんわ」
へ?
「もしかして、飛竜は猫人族を乗せることが出来ないのか?」
エミリアが何度も頷く。なるほどなー。別にエミリアが差別をして乗せないってワケじゃなくて、飛竜の問題なのか。うーむ。もしかしてさ、神国の人たちが普人族以外を嫌うのってそういうのも理由なのかなぁ。神国の人たちと飛竜って凄い身近だもんな。
「ソフィアとステラは?」
「すでに私の家に送ってますわ」
そうか。まぁ、仕方ない。
「ポンちゃんと14型を送って欲しい」
まぁ、この2人は問題ないだろう。
「分かった、オーナー、先に行って準備しておくぜ」
魔法のウェストポーチXLから一部の食材と調理道具を取り出し、14型に渡す。
「14型、頼む」
「マスター、承りました」
14型が重そうな調理道具を軽々と持ち上げていく。あー、でも、これ、飛竜の負担は大きそうだなぁ。ま、まぁ、その分、人が減ったってコトで。
「エミリオ」
「にゃ!」
俺の呼びかけに、近くでふわふわと飛んでいたエミリオが応える。
「お前は大きくなって彼らを運んでくれ。俺はセシリアを呼びに行く」
「にゃにゃ!」
エミリオが任されたと言わんばかりに尻尾を立てる。はいはい、頼んだぜ。
「ノアルジーさん、どうやって迎えに……」
「飛んで行く。ということで頼んだ!」
――《飛翔》――
俺はすぐに《飛翔》スキルを発動させ、空へと舞い上がる。まぁ、時間が勿体ないからね、飛んでサクッと迎えに行くぜ。
姫さまの屋敷に着いてしまえば、そこからは青騎士の飛竜でエミリアの屋敷まで行けるだろうしね!
―3―
姫さまたちと合流し、飛竜でエミリアの屋敷に降り立つと何やら揉めていた。
「だからよー、俺らは!」
「困ります。困りますよ!」
ポンちゃんとエミリアの屋敷の料理人か? それと猫人族の料理人たちもいるな。何だ、何だ? エミリアの姿が見えないようだけど、どうなっているんだ?
「俺らは、許可を得て来たんだってよー」
「そんな毛むくじゃらたちを調理場に入れたと旦那様に知られたら私が怒られます!」
あー、そういえば猫人族って毛だらけだよな。そんな姿で良く料理をするよな。料理に毛が大量に入って大変なことになるんじゃないか?
「聞き捨てなりません!」
すると気難しそうなペルシャが前に出た。
「私たち猫人族は――その中でも調理に特化した私たちは毛の抜けるタイミングを制御できるんですよ! ポン氏ならまだしも、あなたのように髪を生やしている普人族の方々の方がポロポロと髪の毛をこぼして不衛生でしょう!」
あ、そういうこと出来るんだ。
「獣人の分際で!」
あー、うー、あー、うー。問題にならないはずがなかったか。いやいや、でもさ、エミリアとその親御さんは何処だ? 何で、こんな状況を放置しているんだ?
俺がどうしようかと覗っていると背後の姫さまが大きなため息を吐いていた。
「ランよ、これが神国の現状なのじゃ」
あ、ああ。ま、まぁ、でも、すぐに殺すとかならない分、マシじゃないか。
姫さまが今にも殴り合いに発展しそうな料理人達の元へと歩いて行く。
「そこのもの」
「誰ですか、あなたは」
エミリアの屋敷の料理人は姫さまが姫さまだと気付いていないようだった。
「わらわはセシリア・レムリアースじゃ」
その言葉を聞いた瞬間に料理人は平伏した。
「も、申し訳ありません」
うお、何という素早い行動。魂に刻み込まれているかのような早さだったぜ。
「よいよい」
そして、姫さまは無駄に偉そうだ。
「お主にも調理場を守る人間としてのプライドがあろう。しかしじゃ、今回はそれを譲って貰うぞ」
おー、さすがは王族。
「まぁ、ここの主、ゼーレ卿は知らぬ仲ではないのじゃ。後は任せるのじゃ」
さっすがー、姫さま、話が分かる。
にしても、これ、姫さまを連れてきていなかったら結構、面倒なコトになっていたかな。というか、ここまで揉めてても出てこない屋敷の主が凄い気になります。
なんなんだろう? 前回会った印象は、のほほんとした親馬鹿の昼行灯ぽい感じだったんだがなぁ。むむむ。