7-4 これからのこと
―1―
「まずは自分から説明を」
青騎士さんが説明してくれるようだ。
「八大迷宮『空中庭園』での戦いの結果、首都ミストアバンは、その力を失い海へと落ちました」
ああ、あれは夢じゃなかったのか。
「そして、それを引き起こした女神教団大主教アオは逃亡。その行方は依然として不明です」
二日、いや三日か。それだけ経っていて行方不明ってことは、もう首都にはいないだろうなぁ。
「現在、大主教アオが魔族だったことから、女神教団を糾弾中です。今回の件で女神教団の権力を大きく削ぐことが出来そうです」
ふむ。神国では女神教団が凄い権力を持っているって話だったよな。それこそ、王族よりも持っているとか。
「女神教団の後ろ盾を失ったバレンタイン様は孤立し、現在王宮にて謹慎中です」
あー、あの世間知らずぽいお坊ちゃまはお城に幽閉か。ちょっと前と立場が逆だな。
『島が海に落ちたのか』
俺の天啓に姫さまが頷く。
「落ちたのじゃ。しかし、何らかの不思議な力が働き、被害は殆ど出ておらぬのじゃ」
「女神様の加護……かもしれないな」
姫さまの言葉に、赤騎士が、そう付け足していた。赤騎士さん、意外と信心深いのか?
にしてもアオは逃げたのか。彼女の目的は何だったんだろうか? もし、この首都を――八大迷宮『空中庭園』を落とすことが目的だったのなら、それは防げなかったってコトだよな。うーむ、被害が少なそうってコトだけが救いか。
『他の皆は?』
「紫炎の魔女様とお弟子は学院に戻られました」
青騎士が説明してくれる。そうか、戻ったのか。
「ランの知り合い? のシロネも戻ったのじゃ」
あー、シロネに説明するって言って、そのままだった。シロネには聞きたいこともあるし……。いや、まぁ、でもさ、それはもう急がないことだし、今度、暇を見てでいいか。
「シリアは辺境伯領に戻ったのじゃ。して、お姉様とはなんなのじゃ?」
えーっと、そこは突っ込まないで欲しいです。ホント、ホントッ!
『王子や女神教団に組した者達はどうなる?』
「現在、ミスティア塔に拘束中なのじゃ」
牢屋に入れられている状態ってコトかな。
『魔族に操られていただけの者もいる。余り……』
「わかっておるのじゃ。全てわらわの国の民なのじゃ」
姫さまが微笑む。まぁ、姫さまなら大丈夫か。
『自分が助けた騎士、グレイと言うのだが、後で彼に合わせて欲しい。それと出来れば解放してナハン大森林に戻してあげたい。彼は魔族に操られていただけだ』
俺の天啓に姫さま力強く笑い、頷く。
「任せるのじゃ」
そして姫さまは言葉を続ける。
「今回の騒動はわらわの油断、迷い、力不足が招いたもの。そこで、考え、わらわは決めたのじゃ」
お、おう。
「わらわは神聖国の王へ立候補するのじゃ」
姫さまの瞳は力強く輝いている。うむ、姫さまなら大丈夫だろう。
「まだまだ力の残っている女神教団、それと結びついている二番目の姉上……問題は山積みなのじゃ」
あー、まだ第二王女がいたか。辺境伯や第一王女は姫さまを応援している感じだし、王位に興味が無さそうだもんな。
「じゃがのー。一番の問題はウルスラ殿下が眠られているため王としての承認が得られないことなのじゃ」
「ひ、姫さん、ウルスラ殿下のことは……」
姫さまの言葉に赤騎士が慌てる。
「よいのじゃ、よいのじゃ。ランならすでに知っておるはずなのじゃ」
いや、良くわかんないけど。まぁ、そんな感じのことを紫炎の魔女と近衛騎士が喋っていたような気はするな。
「万病に効くエリクサーという薬があると聞く。わらわはそれを探す予定なのじゃ」
えーっと、それ、持ってた気がする、持ってた気がするよ!
「ラン、もし、何処かで、その話を聞いたり、手にすることがあれば協力して欲しいのじゃ」
『ああ』
もちろん、その程度、お安いご用だぜ。前回は『名も無き王の墳墓』で見つけたんだよな。となると八大迷宮で探すのが一番か。
『以前、『名も無き王の墳墓』で見たことがある。こちらで探してみよう』
俺の天啓に姫さまが嬉しそうに頷く。
つまり姫さまの今後は、混乱した神国を治めるために王に立候補。その為にウルスラって人から承認を取る。でもウルスラって人が病気だから、それを治すための薬を探すって感じか。
―2―
「ランはこれからどうする予定なのじゃ?」
俺か、俺なぁ。
『魔法学院を卒業する予定だ』
ま、途中止めはよくないよね!
『それと魔族に奪われた治癒術士の石碑の捜索』
これも忘れそうだけど、忘れたらダメだよね。
「ふむ。分かったのじゃ。もちろん、わらわも協力するのじゃ」
神国が力を貸してくれるなら助かるな。
あー、後、そうだ。
『この神国で商売がしたい。うちの商会を入れても良いだろうか?』
そうそう、ノアルジ商会を神国でも広めよう。
「構わぬのじゃ。わらわの権限で許可するのじゃ」
そう言って姫さまは片眼を閉じた。
「ランが友人だから、特別扱いするわけでも、助けてくれた恩を返すためでもなく、ランがランだから、信用できるから許可するのじゃ」
お、おう。でも、それ特別扱いじゃん。ま、まぁ、突っ込むのは野暮だよね。
姫さまは腕を組み、胸を反らす。
「ランには返しきれぬ恩があるのじゃ。それはその程度のことでは返せないのじゃ」
『気にするな。友の頼み、困ったら助けるのは当然のことだ。次は自分が困った時に助けてくれればいい』
そうなのだ。俺と姫さま友達じゃん。お安いご用だぜー。
さあて、とりあえずの現状が分かったし、一度、帝都の本社に戻るかな。学院の方も暇を見て続けて、魔法使いのクラスをゲットして、と。後は残る八大迷宮の攻略だよな。『二つの塔』へ挑むための情報収集の途中だったしね。