7-3 姫さまなのじゃ
―1―
ふと、目が覚めた。
ステータスプレートを取り出し、時間を確認すると真夜中のようだった。おや? MPが全回復しているな。元気になったから目が覚めたってコトか。最大MPが少なくなって苦労していた時は1時間ほどで目が覚めたのにな。そう考えると最大値が大きくなるってのも善し悪しだなぁ。
ん?
でも、今回、途中で目が覚めたよな? 何でだ? 今までと今回の違いは?
……。
あ、そうか。もしかして、《変身》スキルを使っていたからか? うむむ、その可能性はあるな。
でもさ、こんな夜中に目が覚めても困るよなぁ。外は14型が見張っているかもしれないし、他の住人が寝静まっているであろう時間にさ、その他人の屋敷をがさごそと動くのはなぁ。
あ、そうだ!
せっかくだから、暇つぶしがてら魔石を作ってみるか。うんうん、何でも試してみないとな!
――《魔石精製》――
スキルを発動させる。俺の小さな手の中に周囲の魔素が吸い寄せられるように集まっていく。そして、それらは濃縮し、凝縮して、一つの固体へと姿を変えていく。
やがて、俺の手の上に小さな魔石が一つ転がり落ちた。
ぜぇはぁ、ぜぇはぁ。な、何だ、コレ……。凄い、無性に、疲れる。この小さな魔石1個作るだけで倒れそうなくらいに疲れたんだけど、どうなっているんだ?
ステータスプレートを確認するとMPが2,000ほど減っていた。さらにHPも10%ほど減っている。な、何だコレ。《魔石精製》スキルって、命を削るような作業なのか? 10個くらい作ったら、俺死ぬじゃん。うーむ、この辺は使い続けることで改善するんだろうか? なんにせよ、現状は連発出来そうにないなぁ。
せっかく溜まったMPも一気に減ったしさ、しかもさ、ここって、魔素が少ないからMPの回復に時間がかかりそうだ。魔素……? ああ、そうだ、地下世界なら濃密な魔素が充満しているから、あそこで回復させながら続ければ良いか。
さて、問題は、だ。
この新しく俺が作った魔石を砕いた時にMSPが手に入るか否か、だな。
さあ、いくぞ。
小さなミトンのような手の平で魔石を握りつぶす。さあ、どうだ?
MSPは……?
……。
1だけ増えていた。
……。
えーっと、何だ、コレ? おかしく無いか? 俺には《早熟》のスキルがあるはずだから、最低でも9は増えるはずだよな? 何で1? 1ィィィィッ?
絶対、おかしいよな! どういうことだ? 法則がわからない。にしても1かぁ、1だなぁ。
確かに自分で作って、砕いて、永久機関が出来るだろう。でも、1だぜ? 帝都の外に出てちょこっと蟻を突くだけでMSPは9貰えるのにさ。MPをすっからかんにして、身を削って、それで1かよ。
わ、割に合ってない……。
うーん。むむむむ。
まぁ、いい。今日は寝よう。MPが減ってゆっくり熟睡出来るはずだ。ふて寝だい。
―2―
「マスター、失礼します」
何か声が聞こえる。
「マスター、起きてください。この館の主がマスターを呼んでいます。マスターが元気になって狸寝入りしているのは分かっています」
狸寝入り、って。この世界、狸がいるのかよ! 俺、見たことないぞ。って、あれ?
『14型、朝か……』
俺が体を起こし、天啓を飛ばすと14型は無表情なまま首を横に振った。
「お昼です」
あ、お昼でしたか。うーむ、寝過ぎたなぁ。何故か、ここって魔素が薄いから、その影響でMPの回復が遅れているのかな。
『セシリアが呼んでいるのだな』
14型が頷く。そっかー、まずは姫さまのところに行きますか。色々と聞きたいこともあるしね。
『14型、案内してくれ』
14型の案内で、部屋を出る。そのまま廊下を歩いて行く。途中、本物のメイドさんとすれ違う。メイドさんはこちらを見て、一瞬驚いたように動きを止めるが、引きつった顔のまま会釈をして、俺の横を抜けていく。メイドさんだなぁ。14型のようなお洒落メイド服ではない、本当に実用のみを考えた色気のないメイド服姿のメイドさんだなぁ。
そして中央に長机の置かれた広間に案内される。
「ラン、こっちなのじゃー」
その長机の奥には姫さまが居た。姫さまの後ろには赤騎士と青騎士が控えている。
俺は14型を後ろに控えさせたまま、姫さまの元へと歩いて行く。
『厄介になっている』
俺の天啓に姫さまが笑う。
「なんの、なんの。よいのじゃー。ランから受けた恩に比べればお安いものなのじゃ」
まぁ、何にせよ、姫さまが無事で良かったよ。これで、とりあえず神国の問題解決……だよな?
て、あれ? そういえばジョアンの姿が見えないな。姫さまと一緒に神国に渡ったはずだし、それからもう1年以上が経っているよな? どうしたんだ?
『そういえば、ジョアンの姿が見えないようだが?』
俺が天啓を飛ばすと青騎士が一歩前に出た。
「それは自分が説明します。ジョアンは姫さまに仕える騎士となるため、今は全寮制の騎士学校に通っています。姫さまが幽閉されたのが騎士学校に行った後のため、ジョアンは今回の事件を知らないはずです」
な、なるほど。にしても騎士学校かぁ。
「ランが通っている、よ、ぷっ、魔法学院の隣が騎士学校だぜ」
赤騎士が笑いながら、そんなことを言っている。何だよ、何だよ、俺が魔法学院に通ったら悪いかよ。
俺は、な。魔法使いのクラスを手に入れるために、この後も卒業まで通うつもりなんだぞ!
「スー、笑いすぎなのじゃ」
笑い転げている赤騎士を姫さまが手で制する。そして自身もにししと笑った。
「ランが、ランが、女装して学校に、ぷひっ」
いや、あのな。俺は、結構、必死だったんだぞ。
「こほんっ。こうしてわらわが笑えるのもランのお陰なのじゃ。そして、ランが眠っていた間に起きたこと、これまでのこと、これからのことを話したいと思うのじゃ」
あ、ああ。そうだな。
色々と聞きたいことがあるもんな。