7-2 見知らぬ部屋で
―1―
目が覚めると、そこは見知らぬ部屋だった。何処だ、ここは?
体を捻り、起き上がり手を見る。ああ、いつもの見慣れた小さなまん丸お手々だ。さすがに《変身》の効果は切れているか。で、ここは何処なんだ?
調度品がなく、質素な部屋だ。しかし、俺が乗っかっているベッドのすべすべとした感触を見るに、結構、高級そうだ。質実剛健、シンプルいずベスト的な考えの持ち主の部屋なのだろうか。むむむむぅ。
扉は一つ、窓は無し。こうしてみると監獄みたいだが、ちょっと家具が豪華過ぎるよな。まぁ、部屋を出たら分かるか。
ベッドから飛び降りようとして、俺は自分の足に違和感を覚えた。そして、そちらを見て驚いた。なんじゃ、こりゃ。
履いているフェザーブーツの形が変わっている。蟻の羽のようなものが生え、それが折りたたまれて俺の足に巻き付いている。何だ、どうした、おかしいぞ。俺はとっさに鑑定する。
【率爾の黄金妃】
【氷嵐の主に仕える黄金妃。固有スキル《黄金妃召喚》を使用出来る】
えーっと、何でしょう、コレ。フェザーブーツが真紅妃みたいな進化を遂げたというのか? むむむむ。
説明文が短くなっているけどさ、金属性を持っているとか地形効果を無視する能力とかは残っているのだろうか? まぁ、地形効果無視の意味がよく分からないから、実際は、一度も恩恵にあずかったことはないんだけどさ。
にしても《黄金妃召喚》スキルか。何が召喚されるのやら。《真紅妃召喚》は巨大な蜘蛛を召喚するけどさ、こっちは何だ? 素材がエルダーアントだから、巨大な羽蟻か? 恐ろしいことになりそうだ。
……。
ま、なるようになるさ。というわけで扉の外に出てみるか。
いや、いやいや、待てよ、待てよ。普段の俺は――今までの俺は、ここで考え無しに行動していた。うん、それが良くない。
まずは、と。
――《剣の瞳》――
俺の周囲に波が広がる。しかし、何も引っかからなかった。ふむ、反応は無し、と。《剣の瞳》の効果範囲には人がいないってコトだな。外の安全は確保できたし、それでは扉の外に出てみますか。
―2―
扉の外に出た所で俺は取り押さえられた。むぎゅう。
「マスター、動かないでください。マスターの中の魔素結晶体はまだ充填が終わっていないはずです」
あ、14型さんでしたか。って、何だ、何だか、以前にも似たようなコトがあった気がするぞ。
『14型、現状を教えて欲しい』
俺は14型に押さえ込まれたまま天啓を飛ばし、確認する。
「マスターが起きられました」
いや、まぁ、そうなんだけどさ。聞き方が悪かったよな、俺が悪いよな。これ、2度目だもんな!
『逃げないので、とりあえず離して貰えないか?』
俺が天啓を飛ばすと14型は素早く動き、何事も無かったかのように立ち上がって綺麗なお辞儀をする。
「おはようございます、マスター」
う、うむ。
『どれくらい眠っていた?』
まずは1個1個聞いていこう。
「マスターの知恵がお変わりないようで安心しました。どれくらいとは、マスターが戦いの途中で気絶されてからでよろしかったでしょうか?」
『あ、ああ』
た、確かにさ、戦闘中に魔力を枯渇させて気絶するとか悪手だろうけどさ、でもさ、俺はあの時、グレイさんを助けるために必死だったんだぜ。と、そうだよ、グレイさんだよ!
また一年とか経っていないよな?
「マスターが気絶されてから2日、正確には48時間経過しています」
丸二日か……。って、14型、お前適当な事を言っていないよな? そんなぴったりの時間で起きるようなもんなのか? ま、まぁ、1年とかじゃなくて良かったと思うべきか。
『グレイはどうなった?』
「他の反乱分子と共に王宮に幽閉されていると予想します」
なるほど。いやまぁ、これはあくまで14型の予想みたいだけどさ、生きていることだけは間違いなさそうで良かったぜ。
『ここは何処だ?』
「神国と呼ばれる地の首都だと思われますが?」
……。
14型、お前、わざとやってるだろ。ぜーったい、わざとだ。
「セシリア・レムリアース・アースティアの屋敷とのことです。マスターが起きられるのを待っているようです」
なるほど、姫さまのお屋敷か。王宮住まいってわけじゃなくて、別荘的な物ももっているのか。さすがは王族だなぁ。
「マスターはお部屋に戻って休むことを推奨します」
でもそれ、推奨じゃないよね、強制だよね。
「もう一度言います。マスターの魔素結晶体はまだ充填が完了していません。お休みになることを推奨します」
魔素結晶体って、体内の魔石のことだよな。MPを使いすぎて、それがまだ戻っていないのか。うーん、最大MPが大きくなっているからなぁ、戻るのも遅いって感じか?
それに何やら凄そうなスキルが開花していたからな。
《魔石精製》に《リインカーネーション》か。どちらも今までのスキルとは次元が違う規格外のスキルだな。
自分で魔石が作れるってことは作って砕けばいくらでもMSPを稼ぐことが出来るのか?
いやいや、そんな、まさか。
そんなズルみたいなスキルが――あっていいのか?
これは是非、後で試さないとな!
ま、まぁ、とりあえずはゆっくりと寝て魔力を回復させよう。14型という見張りが自由に行動させてくれそうにないしさ、まずはゆっくり休んで元気になるか。その他のあれやこれやは、それからだな!