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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
7  二つの塔攻略
567/999

7-1  率爾と戦慄

―1―


 気が付くと見知らぬ世界にいた。


 ここは何処だ?


 真っ暗闇に2つ浮かぶ人の姿。周囲は、黒、黒、黒――全てが黒だというのに、2人の姿だけは場違いなほどに華美に彩られ浮かび上がっていた。


 1人は着物を着崩した女性。長い黒髪に見る者を威圧する赤い瞳。額には小さな目のような赤い宝石が6つ光っている。


 そして、もう1人は浴衣のような緑の着物を着た金髪の少女。何も無い空中に座り、足をバタバタと動かしている。


 黒髪の女性が妖艶な笑みを浮かべ、後ろに下がる。それにあわせて金色の瞳の少女が何も無い空間から飛び降りる。ふわり、と金髪が漆黒の世界にたなびく。そして、何かを探るように、上目遣いでこちらへと歩いてくる。何だか、何処かで見たことがあるような……?


 金髪少女は俺の前で立ち止まり、拳を構える。そのまま、右拳を振り抜き、すぐに左拳を振り抜く。右、左、右、左。何だ、何だ、俺に喧嘩を売っているのか?


 金髪少女は、その威嚇行動をしばらく続け、飽きたのか肩を竦め、くるくると後ろへと飛び跳ねる。


 そして金髪少女が変態した。


 大きく口を開け、そのまま大きな牙が生える。

 瞳が大きく開き、昆虫のような複眼へと変わる。

 浴衣の背中が破け、虫の羽が現れる。


 金髪少女が変態した姿のまま、口を大きく開け、こちらへと飛びかかってくる。


――《回し蹴り》――


 俺はとっさにスキルを発動させる。金髪少女が俺の回し蹴りを喰らい、吹き飛ぶ。しかし、そのまま空中でくるりと綺麗に体勢を整え、体を滑らせるように着地する。


 あれ? 《回し蹴り》が発動した? も、もしかして?


 俺が自分の体を見ると《変身》した姿のままだった。ああ、だから《回し蹴り》が使えたのか。


 こちらを見ていた金髪少女が牙の生えた口を大きく開け、楽しそうに笑う。ああ、そうか。お前は、お前が望んでいたのはこういうことだったんだな。よし、いいぜ。やろうじゃないか。この姿なら、思う存分、お前の相手をしてやれそうだ!


 相手してやるぜー。


 変態した金髪少女が何も無い空間を蹴り、俺の周囲を飛び跳ねる。俺の赤い瞳が動きをなぞるように追いかける。


 そして、俺の不意をつくように金髪少女が飛びかかってきた。


――《回し蹴り》――


 俺はそれを狙い《回し蹴り》を放つ。しかし、金髪少女は空中で動きを止め、俺の足に両手を乗せる。そのまま俺の足を鉄棒のように使い、回転し、こちらへと蹴りを放つ。絡み合うように放たれた蹴りを、俺はとっさに右腕を上げ防ぐ。そして、すぐに、その右腕が折れそうなほどの重い衝撃が走る。ぐ、重い。が、お前の手は俺の足を掴んだままだよな?


 俺は残った軸足で地面を蹴り、体を捻り、そのまま金髪少女の腕に絡めるように挟み込み、足を顔の上に乗せる。


【《腕ひしぎ十字固め》が開花しました】


 あ、何だか、どうでもいい格闘技が開花した……。


――《腕ひしぎ十字固め》――


 腕を決めた、そのままの勢いで金髪少女を地面へとたたき落とし、こちらの体を捻る。すると金髪少女の腕はぎしりと嫌な音を立てて逆方向へと曲がった。

 金髪少女が金属がぶつかり合うような悲鳴を上げ、折れた腕を無理矢理引き抜き、そのまま転がる。そして、腕を引き摺るように立ち上がる。


 まだ、やるのかい?


 昆虫のような複眼を輝かせ、金髪少女が楽しそうに笑う。


 金髪少女がぶらりと片手を垂らしたまま腰を深く落とし、残った手を前に出して構える。何だ、何をするつもりだ?


 金髪少女の姿が消える。


 そして何かが爆発した。


 俺の目の前には突き出された掌底があった。少女の手の平は、俺に触れるか触れないかの位置で止まっている。


【《カウンター》が開花しました】


 そして、俺の拳も金髪少女の前にあった。


 相打ち? いや、引き分けか。まるで高速の突きのような掌打だな。喰らっていたら俺の上半身くらいは吹き飛んでいたかもしれん。怖い、怖い。


 金髪少女は手を握りしめ、拳を作り、ゆっくりと引き戻す。そして、垂れ下がっている方の腕に触れ、無理矢理関節をはめていた。いや、それ大丈夫なのか? それで治るものなのか? まぁ、回復魔法があるような世界だし、不思議な力で何とかなるのか?


 俺の見ている前で金髪少女の姿が半虫状態から、普通の少女の姿へと戻っていく。


 そして、姿を戻し、腕を治した金髪少女が何かを見定めるように俺の周囲をくるくると回る。俺はそれを棒立ちで見ていた。


 何かに満足したのか金髪少女が、こちらを見たままぴょんと後ろへと跳び、にやりと笑う。その顔は満足そうだ。


 俺の力を認めたのか?


 奥で俺たちの戦いを見ていた黒髪赤眼の女性がゆっくりとこちらへ歩いてくる。


 そして、口を開いた。


 そこからは言葉は流れてこない。しかし、俺には彼女が何と言っているのかが理解出来た。


『おみごとです。私たちはあなたに忠誠を誓います。いつでも私たちを呼んでください。その時は、何処でも、そう世界の果てでも、異なる世界でも、時を超えても、あなたの力となるために姿を現します』


 そこで黒い世界が崩壊を始めた。


 崩れ落ちていく世界の中、黒髪の女性と金髪の少女が姉妹のように並び、楽しそうに笑っていた。

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