6-95 空中庭園発券所
―1―
紫炎の魔女がもうすぐ到着といった場所からしばらく通路を進むと、いつもの台座が見えてきた。そして、その台座の横には上下に開く形の大きな扉があった。よし、ここが最深部ぽいな。
俺はすぐさま台座に手を触れ、いつでも転送出来るように登録する。よっし、これですぐに三叉路に戻ることも、禁書庫に戻ることも出来るな。にしても、ここまで他の台座が見えなかったのは正解ルートを一直線で進んだからなんだろうか。うーむ。
「到着」
紫炎の魔女が扉を睨む。
「むふー。では、開けますねー」
シロネが扉に寄りかかるように近付き、手を触れると扉が上下に開いていった。
「敵です!」
そして、すぐに叫んだ。
開いた扉の先には四角い筒を取り付けた球体たちが無数浮かんで居た。何だ、何が?
ふよふよと浮かぶ球体の1つが四角い筒の先端をこちらへと向ける。そして筒から何かを射出する。
――[アースウォール]――
シロネの前に土の壁が作られ射出された何かを受け止め跳ね返していた。見れば、シロネの後ろに控えていたステラが少し緊張したように杖を強く握りしめている。お、おー。
しかし、最初の一個目だけではなく、他の球体も次々と筒をこちらへと向けていく。いやいや、壁のように並んでいる数十からの――その数のそれは洒落にならない。
――[エクスファイアボール]――
俺の後方から火の玉が飛び、広範囲を燃やす。球体の一角を破壊するが、それでも、その後ろから新しい球体が現れ、同じように筒をこちらへと向ける。
「見誤った」
紫炎の魔女が呟く。
――《飛翔》――
――《魔法糸》――
《飛翔》し、《魔法糸》を使ってステラと紫炎の魔女を扉の横へと動かす。シロネも、すぐに転がるように扉の横へと動き、壁を背にする。そして彼女が様子を覗うように少しだけ顔を扉の先に覗かせると、一斉に何かが射出された。シロネは慌てて顔を引っ込める。
「以前は居なかった」
紫炎の魔女は不満そうだ。むむむ。
「扉がしまる瞬間に中へと大魔法を放つのはどうだろうか?」
アイスストームで一気に殲滅って寸法よ。
「中の施設が壊れても良いなら」
紫炎の魔女は馬鹿にしたようにこちらを見ていた。え、えーっと、あ、はい。だから、さっき加減してファイアボールにしていたのか。
うーむ、どうしようかなー。ちまちまと1個ずつ壊すか?
「ウィンドプロテクションは?」
紫炎の魔女が俺に聞いてくる。あー、そういえば、そんな魔法もあったな。
「では、それと水と風の壁を」
俺が頷くと紫炎の魔女はそう言った。アイスウォールか。まぁ、順当だな。
「シロネは待機」
紫炎の魔女の言葉にシロネは頷く。
「ステラ、押さえつける」
紫炎の魔女の言葉を聞いて、ステラは少し震えていた。
「し、師匠……」
「やる」
ステラは泣きそうになりながらも頷いていた。
ふむ。お手並み拝見だね。
―2―
――[エルウィンドプロテクション・ダブル]――
――[エルウィンドプロテクション・ダブル]――
風の壁を紫炎の魔女とステラの前に作る。紫炎の魔女は、
「相変わらずMPの無駄」
と呟きながらもステラを連れて扉の前へと動いた。そこへ無数の筒から何かが射出される。
――[アイスウォール・ダブル]――
氷の壁を作り射出された何かを防ぐ。
――[アイスウォール・ダブル]――
壁が壊れた瞬間を見計らって次の氷の壁を張る。タイミング悪く通り抜けてきた攻撃は風の壁があらぬ方向へと軌道を逸らしていた。
ステラが杖を掲げ、何かをぶつぶつと呟き続けると、やがて魔法が発動した。
――[エクスグラビティ]――
その魔法が発動した瞬間、浮遊していた球体たちは一気に地面へと引っ張られ、そのままそこへと縫い付けられた。な、土と闇の合成魔法か? 今、読み取った情報だと土の橙と闇の黒が見たぞ。
――[エクスファイアウィップ]――
地面に縫い付けられ浮遊しようともがいている球体たちを紫炎の魔女が大きく伸ばした炎の鞭で一掃していく。
「これは、楽」
はいはい、楽でしょうね。
ステラは大きくMPを失ったからか疲れたように肩で息をしていた。結構な大魔法だったのか? まぁ、かなり範囲が広そうだったもんな。
ま、これで無駄に施設を破壊せず、球体を排除できたか。中のコトを考えなかったら――俺1人だったら、魔法を乱射して施設を破壊しまくっていたかもしれないな。さっき、加減無しで魔法をぶっ放して、俺たちに被害を与えようとした紫炎の魔女の指示で、というのが釈然としないけどさ。
「ここだ」
紫炎の魔女が球体をどかし、その奥へと進む。あ、その前に! ちょっと待って下さいね。
――[エルクリエイトインゴット]――
転がっている球体をインゴットに変え、回収していく。勿体ないからね。
「な、な、なんだと」
紫炎の魔女が俺の行動に驚いていた。
『お前、その魔法は……。後で私にも分けるのだ。寄こすのだ』
そしてすぐに念話を飛ばしてきた。何だよ、クリエイトインゴットの魔法が珍しいってワケじゃないだろ。
『このインゴットが欲しいのか?』
『魔法具作成に使いたいのだ』
ふーん。紫炎の魔女は魔法具作成とか出来るのか。ふーん……ん? それ凄くないか? よし、後で水属性の腕輪とか作れないか聞いてみよう。
―3―
浮かんでいた球体の後ろには壁一面に謎の計器が並ぶ機械があった。そして、計器が並ぶ壁の下の方は少し燃え黒くなっていた。何だろう、何の計器だ? それと紫炎の魔女さん、魔法、加減出来てないじゃん。
「こっち」
紫炎の魔女が計器の並んだ壁の下を、部屋の端にある謎の装置の前を指差す。おー、謎の装置は無事ぽいな。
「手を乗せる」
この――何だろう、指紋認証をするようなプレートが取り付けられた出っ張りが、目的の何かなのか? これで鍵が手に入るのか? ま、まぁ、手をのしてみればわかるか。
俺がプレートの上に手を乗せる。するとプレートに何かの線が走り、何かの情報を読み取ったようだ。何が何やら、よく分からないな。
そして、足下で『がこん』という音がした。見ると足下に何かの取り出し口のようなものがついている。自販機みたいだなぁ。
取り出し口に手を入れて出てきたモノを取り出す。それは羽猫が描かれた紋章だった。えーっと、これ、似たようなモノを見たことがあるな。確か、蟻人族のソード・アハトさんがナハン大森林に居た頃に探していたエンブレムにそっくりじゃん。あっちは描かれていたのは竜だったけどさ、そっくりだよな。グレイさんと魔人族と……懐かしいなぁ。
「それが鍵」
俺が思い出に浸っていると紫炎の魔女が呆れたような声で話しかけてきた。あ、はい。そうか、コレが鍵なのか。
じゃあ、何個か貰っておくか。
俺がもう一度プレートの上に手を置くと、先程と同じようにプレートに線が走った。そして『ぶーぶー』と何かのエラー音が鳴った。
「一人一個」
ふ、ふーむ。そうなのか。ま、まぁ、交渉に使うなら1個で充分……って待てよ。
「これ、俺にしか使えないなんてオチはないよな?」
「大丈夫」
紫炎の魔女が小馬鹿にしたように頷く。いやいや、その大丈夫はどっちの大丈夫だ。他の人も使えるでいいんだよな? じゃないと意味が無いからな。
「誰でも扱える」
そ、そうか。
ま、まぁ、これで鍵が手に入ったってワケか。これがあれば途中の開かなかった扉とか開けることが出来るのかな。うーむ、この迷宮を探索し尽くしてから渡したい気がするなぁ。