6-93 空中庭園憩いの広場
―1―
とりあえず少し早いけど食事にしよう。せっかくだから、紫炎の魔女やシロネ、ステラにも食事を振る舞うか……。
「ところで、この神国での紫炎の魔女の立ち位置ってどんな感じなんだ?」
食事の用意をしながら聞いてみる。まずは魔法のウェストポーチXLと魔法のリュックからポンちゃん作成の保存がきく料理を取りだしてっと。
「偉い」
紫炎の魔女はそんなことを言っていた。あ、はい。
取り出したフルール製の無駄に装飾が施された鍋に氷室で凍らせたスープの素を入れる。
――[サモントレント]――
魔法で小さな木を生み出す。
「え? むふー。なんで、木魔法? なんで?」
シロネは燃え尽きた状態のまま、頭の上に、はてなマークを浮かべていた。
――[ウォーターカッター]――
ウォーターカッターの魔法を使い、生み出した木を適当なサイズに切りそろえる。
――[ファイアトーチ]――
削り出した木の枝を鍋の下に置く。それをファイアトーチの魔法で燃やす。凍っていたスープが溶け、良い匂いが周囲に漂っていく。普通の火魔法だと、物が燃え尽きたとか、そういう結果しか残らないからな。温める為に――火を起こすためには専用の魔法が必要だとは思わなかったぜ。
「良い匂い」
紫炎の魔女は食い入るようにスープの入った鍋を見ている。
「え? むふー。なんで、火魔法? なんで?」
シロネは燃え尽きた状態のまま、頭の上に、はてなマークを浮かべていた。
スープがある程度温まった所で凍らせていた肉饅頭を入れる。そしてそれを先程作った木の枝でかき混ぜながら更に温めていく。まぁ、保存が効く物って言ったら、冷凍保存か、塩を使っての保存食くらいだもんなぁ。冷凍保存の方が俺的には美味しくて好きです。
さあ、完成です。
――[サモントレント]――
もう一度、小さな木を作る。
――[ウォーターカッター]――
それを削り、スプーン形状のへらと箸を作る。さあ、食べよう。
「ご飯?」
何故か紫炎の魔女が食い入るように鍋を見ている。
「ああ、ちょっと早いけど、一度休憩をしたいからな」
俺の天啓を受けて紫炎の魔女はむうむう唸っていた。何やらぐにゃぐにゃと体をうねらせている。
「食べるか?」
俺が木のへらを渡すと紫炎の魔女は喜んで鍋に食いついた。恐ろしい勢いで鍋の中のスープと肉饅頭を食べている。ガツガツいくなぁ。
えーっと、俺の食べる分が……。
仕方ない、もう1個作るか。
―2―
――[アクアポンド]――
アクアポンドの魔法を使い、飲み水を作る。さらに、それをスープに入れて少し薄めて皆の分を作り、改めて食事にする。
もしゃもしゃ。
少し薄くなったけどまぁ、食べられるな。こうしないと、量が……なぁ。無駄に沢山食べる子がいるからな。
「これは……」
何故かステラが感動していた。
「ノアルジーロードのノアルジー商会のお店で師匠が食べ過ぎて路銀が尽きた時の味にそっくりです……」
ステラはスープを飲みながら、横目で紫炎の魔女を見ていた。何という、状況説明的な言葉だ。ステラさん、どう考えても、それ師匠の紫炎の魔女に対しての嫌みだよね。
「ノアルジーロード? むふー。ノアルジー商会?」
あれ? そういえばノアルジーロードって初めて聞くな。何のことだ?
「あれ……? そういえばノアルジーさんと同じ名前?」
ステラは今気付いたかのように、師匠を睨んでいたのを止め、俺の方を見る。まぁ、普通にうちの商会のコトだろうな。
「むふー。今はノアルジーロードというものがあるんですねー。何故かノアルジーさんと同じ名前なんですねー」
シロネはよく分かっていないようだ。
「はい。そのお陰で神国までの旅が随分と楽に……」
そういえば迷宮都市までの道を整備したって言ってたもんな。そうか、商会の名前がついたのか。
「それ、俺の商会だ」
俺の言葉にシロネとステラが飲んでいたスープを吐き出した。うわ、勿体ない。
「ごっほ、ごっほ。の、ノアルジーさん……?」
ステラは驚き、こちらを見ている。はい、何でしょう。
「の、ノアルジーさんは神国の、むふー。神国の生まれですよねー。第三王女や辺境伯の関係者では?」
「ナハン、世界樹生まれ」
何故か、紫炎の魔女が答えていた。いや、確かにそうだけどさ。
「ごくごく、ぷはぁ」
紫炎の魔女がスープを飲み干していた。どうやって、あの小さな体に無理矢理詰め込んでいるんだ。もぐもぐしていた姿は子リスみたいだな。
『どうやって、火と水の属性を一緒に使っている? さあ、教えろ、教えるんだ』
そして、念話で話しかけてきた。
『秘密だ』
教えないんだぜー。
俺の天啓を受け、紫炎の魔女は下唇を噛み締め悔しそうにこちらを睨んでいた。うー、うー、言ってますね。
『ところで紫炎の魔女は今の神国の現状を知っているのか?』
「教えろ」
いや、だから秘密だって。
『第三王女が幽閉されている件は?』
「教えろ」
いや、だからね。
『女神教団の中に魔族が潜んでいる件は?』
「教え……むぅ」
いや、だから……むう?
『あり得ない。ウルスラが管理している地域に魔族が入り込めるはずがない』
『ウルスラとは誰だ?』
「師匠が静かになりました……。食べ過ぎて眠くなったのでしょうか……?」
「ソフィアちゃん先生は好き放題勝手放題ですからねー」
シロネとステラは完全に外野だなぁ。
『お前が真似している天竜族だ。いや、私を含めて天竜族はお前と似ていると言うべきか』
どういうことだ?
『この神聖王国レムリアースの真の支配者がウルスラだ。普通の者は知らぬことだがのぅ。天竜族が居る限り、魔族の侵入を許すはずがないのだ』
そうなのか。
『それでも、女神教団の大主教に納まっているアオは魔族だ』
俺の天啓に紫炎の魔女は腕を組み考え込む。
『第一王子が――アオの傀儡となっていると思われる第一王子が第三王女、セシリーを幽閉している。そして、セシリーの解放の条件として出したのが、この『空中庭園』を開くための鍵だ』
『そして、お前は、それを探している?』
紫炎の魔女は組んでいた腕をほどき、こちらへと念話を飛ばす。俺は、ただ頷く。
『ソフィア、協力してくれないか?』
さっき見せて貰ったけどさ、火力は恐ろしいくらいだからな。魔族を含めて、今まで見た人たちの中で一番の実力者かもしれない。
『面倒だから、嫌だ』
な、なんだと。
『さっき食べたような食事をつけるぞ』
俺の天啓を聞き、紫炎の魔女が大きく目を見開き、こちらを見る。
『甘味などのおやつもつけるぞ』
「ほ、ほ、本当に?」
凄い勢いでがつがつ食事をしていたからな、やはり食いついたか。
「約束する」
紫炎の魔女は再び腕を組み考え込む……ふりをして、こちらをちらちらと見ている。
「俺はノアルジー商会のオーナーだ。容易い」
商会の力を使うんだぜー。
「むう。仕方ない。魔族を倒すため、力を貸す」
いや、お前、どう考えても食事に釣られたよな。魔族退治とかの大義名分じゃないよな? ま、まぁ紫炎の魔女という戦力が加わるのは、素直に喜ぶべきか。