6-92 空中庭園憩いの広場
―1―
燃え尽きたシロネは良いとして、この紫炎の魔女は本当にどうなっているんだ?
紫炎の魔女は、お子ちゃまローブに蝙蝠マントをはためかせ勝ち誇った顔でこちらを見ていた。いや、あのさ、あんた教師としてここに来たんだよな? 教師が生徒に勝って勝ち誇るとか恥ずかしくないのかね。
「どれだけのMPがあれば、あんなにぽんぽん魔法が使えるんだよ。おかしく無いか?」
俺が紫炎の魔女に聞くと、それを聞いていたシロネが横目で、
「それはノアルジーさんも同じだと思いますよー」
と言っていたが、聞かなかったことにする。
「良いモノを見せてくれたから、特別」
紫炎の魔女が腰に付けていた筒状の物を取り外し、こちらに見せてくれる。何だ、何かの魔法具か?
【ドーンオブエタニティ】
【周囲の魔素を吸収しMPとして変換する筒。保有量は1,000】
……。
ずりぃ! ずるいよ! これはアレだろ、説明を見る限り、俺が持っている謎器官と同じように周囲の魔素を取り込んでMPに変換出来るんだろ。しかも保管も出来るとか、俺の上位互換じゃん。ずるい! そりゃあ、予備電池があればガンガン大魔法が撃てるよな、撃てるよな!
「『空中庭園』で見つけた無異装備」
しかも、ここかよ! ここで見つけたのかよ! なら、もう1個くらい出てくるかな? 俺も欲しいです。超欲しいです。
って、アレ?
「ちびっ娘は『空中庭園』を知っているのか?」
俺が聞くと紫炎の魔女はむすっとして横を向いた。何やら体から火花が出ているようだ。
「虫の方がちんまい」
誰が、虫だ、誰が! って、アレ?
『ソフィア、俺が誰だか分かるのか?』
紫炎の魔女に限定して天啓を授ける。
『水と風の合成魔法を使える存在がそうそういてたまるか』
何故か念話が返ってきた。へ? ま、まさか、目の前のちびっ娘が念話を飛ばしたのか?
『念話が使えるのか?』
俺の天啓を受け、紫炎の魔女はムカつく笑顔で頷く。な、なんだと! お、お前、ナハン大森林で念話なんて使ってなかったじゃないかよ! 使えるなら、そっちで普通に会話しろよ!
『念話はMPを消費するから余り使いたくないのだ』
何だよ、それ! それなら普通に会話しろよ。なんで面倒そうに必要最小限しか喋らないんだよ!
『MPを消費だと。お前は、そのドーンオブエタニティって魔法具があれば、いくらでもMPを回復出来るじゃないか』
『やはり、情報を読み取っていたか』
もう、この子、なんなんだよ!
「シロネ先生、師匠とノアルジーさんが急に静かになりました……」
「むふー」
外野は外野で遠巻きに俺らのやり取りを見ている。
ついでだ。紫炎の魔女の情報も読み取ってやる。赤い瞳が煌めき、紫炎の魔女の情報を読み取る。
【名前:ソフィア・アメシスト】
【種族:天竜族】
な、なんだと。天竜族、あの天竜族かよ。確か念話で会話するんだよな。混血は神国の王族で見かけたけどさ、純血は初めて見たぞ。って、ナハン大森林の冒険者ギルドのおっさん、偉そうに「天竜族は念話で会話するからな(キリッ)」みたいなことを言っていたけどさ、身近にいたから知ってただけじゃん。何だよ、あの時は、冒険者ギルドのマスターだけあって大陸や外の世界のことをよく知っているんだなって思ってたけどさ、そういう理由だったのかよ!
『ほう、私の情報も読み取ったのだな』
何だよ、普段と口調も違うじゃん。そっちが素かよ! ロリ婆かよ!
『ならば、ステラも読み取れるか?』
ステラ? あのふんわりな少女がどうしたよ。
ステラに赤い瞳を向け情報を読み取る。この子、見るからに普人族じゃん。それが……、え?
【名前:ステラ・ロード】
【種族:人】
え? 俺は慌てて紫炎の魔女を見る。紫炎の魔女はニヤニヤと笑っていた。人って、おい、人って確か……魔族だよな?
――《剣の瞳》――
《剣の瞳》を使うとステラは青かった。もちろん紫炎の魔女もシロネも青だ。ど、どういうことだ?
『私のかけた偽装すら突破するか』
偽装?
『ステラは魔族なのか?』
「うむ」
あ、そこはちゃんと喋るんだ。
「シロネ先生、師匠が喋りました」
「むふー」
外野、置いてけぼりだな。
『魔族と人の混血だ』
な、な、なんだと。可能なのか? 紫炎の魔女が言う人って普人族とかのコトだよな? あんなに普人族を人形扱いしている魔族と、混血?
『あり得るのか?』
『珍しいだろう? だから、私は観察のため手元に置いているんだ』
そう言って紫炎の魔女はステラを見る。その瞳は言葉とは裏腹に優しい。
『何でナハン大森林から出てきたんだ?』
俺の天啓に紫炎の魔女は苦笑していた。こう、幼い容姿で苦笑されると、何だろう、ちょっと可愛らしいよね。
『飽きたからだ』
中身は酷いのにね。
『それと、ステラを1人でも戦えるように鍛えるためだ』
な、なるほど。何も考えていないわけじゃないのか。もしかして、凄い照れ屋なのか?
『分かった。ナハン大森林の冒険者ギルドに居たソフィアが紫炎の魔女だと、やっと繋がった。なら、今までの銀貨を返せ』
『何を言っている! これは私のだぞ。返さないからな!』
ケチだなぁ。
……って、アレ?
ステラ・ロードって何処かで聞いたことがある名前のような……。
『ステラ……、何処かで聞いたことがあるような』
とりあえず紫炎の魔女に聞いてみよう。
『どうやったか、姿を変えたことで記憶も変わってしまったんだな。宿屋の娘を覚えていないのか? ウーラから聞いていたぞ、お前はステラのトコの宿屋に泊まっていたはずだ』
は、へ?
え、ちょっと、待て。
そういえば、確かに宿屋の娘さんを鑑定したら、一度は失敗したよな。それで鑑定って失敗するんだーって思った覚えがあるけどさ、それ以降、鑑定で失敗したのって魔族を鑑定した時……はっ!?
いやいや、そんな、馬鹿な。
そんなことがあるのか?
いや、確かに今、目の前にいるステラは少しぽっちゃり気味だけど、宿屋にいた時はもっともっと膨らんでいたよな。
ここまで痩せると同じ人に見えないよ!
「シロネ先生……、ノアルジーさんがじっとこちらを見ています……」
「むふー」
いやいや、確かによく見てみれば、面影が……。
何てことだ。いやいや、それで、その為にナハン大森林に紫炎の魔女は居たのか?
『何でナハン大森林にいたんだ? やはりステラのためか?』
俺の天啓に紫炎の魔女はそっぽを向いた。
『お前は相変わらず聞きたがりだ。違う、辺境の方が静かだからだ』
『そういえば、先程、シロネが、やり過ぎて神国を追われたと言っていたな』
そうそう、そう言っていたよな。さっきもそうだけど、夢中になりすぎるとやり過ぎるタイプだよな。
『違う! 断じて違うのだ』
俺の天啓に紫炎の魔女は腕を振り回して否定していた。こう、中身を考えなかったらだだをこねている少女だよな。中身を知りたくなかったなぁ。夢が壊された気分だよ。
『はいはい、そうだね』
『私は! 面倒ごとが嫌いで、魔法の実験が好きで、魔法具の作成が趣味で、燃やすのが大好きだから、ナハン大森林に居たんだ!』
おい、こら、最後が無茶苦茶だぞ。お前、森を燃やすつもりだったのかよ。
なんだか、色々と酷いなぁ。